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バルトーク:ピアノのための組曲 Sz.62 Op.14(Bartok:Suite for Piano, Op.14)

(P)ジェルジ・シャーンドル:1951年1951年9月19日録音(Gyorgy Sandor: Recorded on September 19, 1951)

Bartok:Suite for Piano, Op.14 [1.Allegretto]

Bartok:Suite for Piano, Op.14 [2.Scherzo]

Bartok:Suite for Piano, Op.14 [3.Allegro molto]

Bartok:Suite for Piano, Op.14 [4.Sostenuto]


軽快→焦燥→ 狂乱→沈黙

バルトークはこの曲について「それまでの民謡を土台にしたスタイルを整理し、より洗練されたピアノ書法を目指した」と語っています。
特定の民謡を引用するのではなく、民俗音楽から抽出した「鋭いリズム」と「独特の音階」を、より抽象的でモダンな形式に落とし込んでいます。

当初は5曲構成でしたが、最終的にバルトークは1曲(アンダンテ)を削除し、以下の4曲にまとめました。


  1. 第1曲 Allegretto
    ルーマニアの民俗舞曲の語法を取り入れつつも、非常にモダンに整えられた楽曲です。
    冒頭、右手で奏でられる軽やかな旋律は、長調でも短調でもない、リディア旋法や全音音階が混ざり合ったような独特の浮遊感を持っています。
    左手の伴奏が一定のリズムを刻む中、右手が気まぐれに踊るような対比が面白い曲です。中間部では少し影が差しますが、最後は再び軽やかに、そして唐突に終わります。

  2. 第2曲 Scherzo
    非常に高速で、ピアニストの指の敏捷性が試される難曲です。
    執拗に繰り返されるアルペジオ(分散和音)と、鋭いアクセントが特徴。増4度(悪魔の音程とも呼ばれる不安定な響き)が多用され、聴き手に不安と興奮を同時に与えます。
    まるで巨大な機械が火花を散らしながら回転しているような、「メカニカルな野性味」があります。バルトークらしい、ドライで皮肉めいたユーモアが感じられるセクションです。

  3. 第3曲 Allegro molto
    この組曲のクライマックスであり、最もエネルギッシュな楽曲です。
    終始一貫して、左手が低音でアラブ風の旋律(バルトークが北アフリカで採集した音楽の影響)を執拗に繰り返します。その上で右手が激しく不協和音を叩きつけます。 文字通り「ピアノを打楽器として扱う」極致です。
    旋律を歌うのではなく、音の塊を空間に投げつけるような迫力があります。この曲の持つ圧倒的な推進力は、後のロック音楽などにも通じる原始的な衝動を感じさせます。

  4. 第4曲 Sostenuto
    前の3曲の狂乱をすべて打ち消すような、静寂に満ちたフィナーレです。
    バルトークが後に確立する「夜の音楽(Night Music)」の先駆けと言えるスタイル。暗闇の中で虫の声や遠くの物音が響くような、静謐で孤独な世界が描かれます。
    非常にゆっくりとしたテンポの中で、音が一つひとつ、水面に落ちる滴のように響きます。
    伝統的な「最後は派手に」という形式を裏切り、「虚無や孤独の中に消えていく」という終わり方は、作曲当時の不穏な社会情勢(第一次世界大戦)に対する彼の内面的な吐露とも言われています。



この4曲を通して聴くと、「軽快(1曲目)→ 焦燥(2曲目)→ 狂乱(3曲目)→ 沈黙(4曲目)」という、まるで命が燃え尽きていくようなドラマが見えてきます。



バルトークの精神的な継承者

シャーンドルはブダペストのリスト音楽院でバルトークにピアノを、ゾルターン・コダーイに作曲を学びました。考えてみれば、これは凄いことです。
さらに、バルトークから直接指導を受けた数少ない門下生の一人だと言うことで、彼ほどバルトークの演奏スタイルや音楽思想を身につけたものはいませんでした。

バルトークのピアノ音楽と言えば暴力的で打楽器的なものと誤解されがちです。
しかし、シャンドールはその様な当時の風潮に異を唱え、バルトークが重視していた「歌」と「柔軟性」を示してみせませした。

シャーンドルの演奏を聞いていて、まず感心させられるのは透明度の高い響きです。

彼は自身の演奏哲学を「On Piano Playing(ピアノ演奏の技術)」という著書にまとめるほど、科学的かつ合理的なアプローチを重視していました。
シャーンドルの演奏は、指の力だけで弾くのではなく、腕や肩の重さを効率よく鍵盤に伝えるスタイルでした。
非常に速いパッセージや激しい打楽器的フレーズでも、体全体がリラックスしており、無駄な動きがありませんでした。そのため、長時間の演奏でも音が濁る事はなく常にクリアな輪郭を保ちました。

その事が声部の完璧なバランスとして結実していて、バルトークの音楽の構造を明瞭に聞き取らせてくれます。

また、ハンガリー語を母国語としていたのですから、バルトークの音楽の根っこにあるハンガリー語特有のアクセントやリズムの把握の仕方も完璧だったようです。
バルトークならではの鋭いリズムの中にも、民謡のようなしなやかな旋律線を描き出す手腕はシャンドールならではのものでした。まさに、シャンドールこそがバルトークの「最も忠実な代弁者」だったのです。

そして、二人の親密な関係はバルトークがナチスの台頭を逃れてアメリカへ亡命した後も続きました。
バルトークの葬儀にはわずか10名ほどしか参列者がいなかったのですが、その10名の中にシャーンドルの姿もありました。彼は、師であるバルトークが最も苦しい時期に寄り添いました。
そして、バルトークの「精神的な継承者」として演奏活動を続け、ピアノ作品の全曲録音を二度にわたって行いました。

シャンドールを聞かずしてバルトークは語るなかれ・・・と言っても、言い過ぎではないかと思います。

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