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パウル・バドゥラ=スコダ(Paul Badura-Skoda)|シューベルト:ピアノ三重奏曲第2番 変ホ長調 D. 929(Schubert:Piano Trio in E-flat major, D.929)
シューベルト:ピアノ三重奏曲第2番 変ホ長調 D. 929(Schubert:Piano Trio in E-flat major, D.929)
(P)パウル・バドゥラ=スコダ (Cello)アントニオ・ヤニグロ (Violine)ジャン・フルニエ 1952年発行(Antonio Janigro:(P)Paul Badura-Skoda (Violine)Jean Fournier Released on 1952)
Schubert:Piano Trio in E-flat major, D.929 [1.Allegro]
Schubert:Piano Trio in E-flat major, D.929 [Andante con moto]
Schubert:Piano Trio in E-flat major, D.929 [3.Scherzando. Allegro moderato]
Schubert:Piano Trio in E-flat major, D.929 [4.Allegro moderato]
私は楽しい音楽というものを聞いたことがない

シューベルトは晩年に3つのピアノ三重奏曲を残しました。その内の二つ(D.898・D.929)はかなり規模の大きな作品であり、シューベルト自身によって作品番号の99と100が与えられています。他の一つ(D.897)は「ノットゥルノ」と呼ばれる単一楽章からなる作品です。「ノットゥルノ」はシューベルトの自筆譜にも「アダージョ」としか記されていないので、おそらくは独立した作品ではなくて、おそらくはD.898の緩徐楽章として作られながら結局は使われなかなった音楽だろうと推測されています。
これら三曲はシューベルトの晩年を飾る傑作であることは間違いありませんが、弦楽五重奏曲や三つのピアノソナタなどと比べると少し知名度は落ちるかもしれません。しかし、シューベルトが常に口癖のように語っていた「私は楽しい音楽というものを聞いたことがない」という言葉を実感させてくれる音楽です。
叙情的なメロディが綿々と歌いつがれていくうちに、聞き手はいつしかあてどもない孤独な世界に連れ去られていきます。それは、地に足のついた日常の世界とは異なる、寂寞とした浮遊する世界です。
最初は美しく親しみにあふれたメロディがいつの間にか陰りを帯びて絶望感が滲み出してくるのが、このピアノ三重奏曲が表現している世界です。
ピアノ三重奏曲 第2番(D.929)
第1楽章:アレグロ 変ホ長調
力にあふれたユニゾンによる第1主題に続いてチェロが歌い出す。これを聴いただけで耳は釘付けになってしまいます。
第2楽章:アンダンテ・コン・モート ハ短調
寂寞とした孤独感と絶望感に彩られた楽章。おそらくは、シューベルトが書いた室内楽の最高傑作。
第3楽章:スケルツァンド アレグロ・モデラート 変ホ長調
力強くリズミックな音楽でありながら、それが突然断ち切られてppの一節が挿入される。それが人生というものか?
第4楽章 アレグロ・モデラート 変ホ長調
哀感に満ちた第2楽章の主題が明るさに満ちたフィナーレの中で使われています。カットが施された版でも700小節を超えるという想像を絶するような長大な楽章です。
準常設のピアノ・トリオ?
ピアノ・トリオと言うものはなかなか難しいものです。パスキエ・トリオみたいな弦楽トリオよりは作品のレパートリーは多いのでしょうが、それでも常設で活動するとなるとなかなか難しいものがあるようです。
ボザール・トリオの様な存在は珍しくて、古いところではカザルス・トリオとか100万ドルトリオ等に代表されるようにリストの寄せ集めみたいなもスタイルが一般的でした。レーベルにしても作品が地味なだけに、ソリストのネームヴァリューでレコードを売るというのが一つの戦略だったのでしょう。
その意味では、このヤニグロ、スコダ、フルニエという組み合わせは常設ではないにしても、ソリストの寄せ集めというレベルをこえた準常設(そんな言葉はありませんが・・・)に近い存在だったような気がします。
有名な100万ドルトリオではハイフェッツとルービンシュタインの折り合いが悪くて争いが絶えず、その間にはさまれたチェロのフォイアマンが仲裁にはいるというのが良くあったというのはよく知られた話です。
まあ、それがソリストとしての意地みたいなものなのですから、争いが絶えないのは当然と言えば当然であり、そう言うぶつかり合いの中で生まれる音楽もまた楽しではあります。
しかし、落ちついた端正な佇まいで純度の高い演奏を聞きたいときにはいささか灰汁が強すぎます。
一人、一人にソリストとしての器量がありながら、その3人が常設のトリオのように息がピッタリ合った組み合わせとしてはヤニグロ、スコダ、フルニエという組み合わせは理想に近いのかもしれません。
おそらくこの3人を並べてみればこんな感じでしょうか。
スコダは若くしてカラヤンに見いだされて世に出て、イェルク・デームスやフリードリヒ・グルダとともに「ウィーン三羽烏」と呼ばれて人気を博しそれに相応しい実力を持っていたが、未だ若造。
ヴァイオリンのフルニエと言えば兄のチェリストであるピエール・フルニエの弟と言われることが多くていささか影の薄い存在です。そのためか世間ではソリストとしてもすこしばかり柔な雰囲気は否定できず等と言われるのですが、この組み合わせで聞かせる彼の演奏は十分に引き締まったものです。
そして、ヤニグロは当時「世界最高のチェリスト」と呼ばれるほどの実力と人気を持っていました。
位置関係から見れば誰がどう見てもヤニグロがリーダーなのです。しかしながら面白いのは、ピアノ・トリオというのは、モーツァルトなどが典型ですが、ピアノが主でありとりわけチェロは縁の下の力持ちという作品が多いのですが、ヤニグロはそう言う作品でも嫌な顔一つ見せず地味な仕事に徹していることです。
もちろん、それがシューベルトやブラームスのようにチェロが存分に活躍するような作品になっても、ヤニグロという人はトリオとしてのアンサンブルを優先して自分だけが目立とうという意志は全くなかったようなのです。
そして、この顔合わせで、ハイドン、モーツァルト、ベートーベンという古典派のピアノ・トリオから始まって、シューベルト、ブラームスからドヴォルザークあたりまで数多くの録音を残してくれているというのは有り難い話です。
この残された録音の多さがソリストの寄せ集めではなくて準常設のピアノ・トリオと言いたくなる所以なのです。
そのおかげで、このトリオの演奏は安心して聞いていることができます。そしかしながら、そう言う安心感は裏返してみれば突出した魅力には欠けると言うことでもあり、結果として圧倒的な支持を集めることは難しいと言うことでもあります。
例えばハイフェッツが仕切った50年代のピアノ・トリオの録音があまりにもザッハリヒカイトの方に傾いていたのとは好対照を成しています。もちろん、どちらが良いかなどと言う話はするつもりはありませんが、それでもこういう落ちついたゆったりとした佇まいの音楽が聞けるというのは有り難いことです。
彼らの演奏はどれをとっても端正でありながらも、録音も50年代初頭としては十分に優秀であり、ロマンティックなヨーロピアンテイストを堪能することが出来ます。
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