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Home|カーゾン(Clifford Curzon)|シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調

シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調

(P)カーゾン ブダペスト弦楽四重奏団 1951年4月27〜28日録音



Schumann:ピアノ五重奏曲「第1楽章」

Schumann:ピアノ五重奏曲「第2楽章」

Schumann:ピアノ五重奏曲「第3楽章」

Schumann:ピアノ五重奏曲「第4楽章」


この編成における最初の成功作品

このピアノ五重奏曲はシューマンの「室内楽の年」と呼ばれる1842年に作曲されています。クララと結婚したシューマンは、そのクララとともにバッハの平均律クラヴィーア集を入念に研究し、さらにはベートーベンの弦楽四重奏曲も徹底的に分析します。その様な研究の果実が3つの弦楽四重奏曲やピアノ五重奏、ピアノ四重奏の曲などに結実していきます。そして、このピアノ五重奏曲はその様な果実の中でももっとも優れた作品となっています。

弦楽四重奏にピアノを加えた五重奏という楽器編成は、どこにでもありそうな形態なのですが、モーツァルトもベートーベンもこの編成では一つも作品を残していません。おそらくは、古典派の時代において弦楽四重奏というのは「賢者の会話」と呼ばれるようにそれだけで十分に完結しうる楽器編成であるが故に、そこにピアノを加えるという発想は生まれなかったのでしょう。その証拠に、ピアノが加わった室内楽の楽器編成はピアノ三重奏や四重奏が一般的でした。
調べてみると、シューベルトもこの編成による作品は残しておらず、どうやらシューマンのこの作品がピアノ五重奏としては歴史に名を残した最初の作品と言えるようです。もちろん、この編成を持った作品で歴史の闇に消え去っていった作品はそれまでもあったでしょうから、より正確に言えば、この楽器編成を持った作品としてはじめて成功した作品だといえます。

とにかくこの作品はよく鳴ります。冒頭の輝かしくも力にみなぎった主題が全ての楽器で一斉に奏でられるとき、明らかに古典派までの室内楽とは一線を画した世界が繰り広げられることを予感させます。
おそらくは、弦楽四重奏というそれ自体で十分に完結している楽器編成にピアノを加えることによって、音色はより分厚く華やかになります。感覚的には、その豊かな音量と多彩な音色を堪能することにこの作品の魅力があると言えます。

しかし、この作品はその様な外面的な効果だけにとどまらない魅力にもあふれています。
全体としてはピアノが主導権を握って音楽を進めていくのですが、ポイント、ポイントではそれぞれの楽器がシューマンらしい詩情にあふれたいいソロを聞かせてくれます。そして、そのソロに他の楽器が実にいい感じで合いの手を入れてくれます。これをもう少し堅く表現すると、バッハ研究の成果としての対位法的な書法があちこちで素晴らしい効果を発揮していると言えるんでしょうか・・・(^^;。
そして何よりも素晴らしいのは、最終楽章の最後の最後で、フェルマータの休止で音楽が静まり返ったあとに展開される壮麗な二重フガートです。これもまたバッハ研究の成果なのでしょうが、今まで聞いてきたメロディをもとに展開されるフガートは見事としかいいようがありません。


セルが認めたピアニスト

この人、本当に録音がキライだったようで、そのためにごく一部のピアノ好きな人の間でしかその存在は認知されていませんでした。
有名だったのはセルとのコンビで録音したブラームスのピアノコンチェルトの1番。これはセルのバックがとびきり素晴らしいのですが、それに応えるカーゾンのピアノも素晴らしくて、掛け値なしにこの作品の決定盤的位置にありましたし、その位置は現在においても不動です。
ですから、かなりのピアニストであることは想像はつくのですが、如何せん録音があまりにも少なすぎました。

とにかくスタジオの録音ブースに閉じこめられることが大嫌いな人だったようです。かといって、ライブのコンサートを録音しようとしても、いわゆる大衆受けをするような派手なパフォーマンスとは無縁の人ですから、デッカのプロデューサーをして、「カーゾンのピアノの素晴らしさを録音することは空を飛ぶ小鳥を捕まるよりも難しい」と嘆かせたものでした。

そんなカーゾンに再び脚光が当たり始めたのは、セルの再評価が進むのと並行していました。その売り文句は、「あのセルが認めた数少ないピアニスト」でした。
セルがピアニストに対する選り好みに関してどれほど厳しかったが知られるようになるにつれて、そのセルが認めたカーゾンという聞き慣れないピアニストってどんなんだろう?という興味から録音探しが始まったように思います。そして、需要があれば供給が発生するのがこの業界ですから、今まで倉庫の奥に眠っていた録音が次々と発掘されるようになり、その結果として多くの人がカーゾンの凄さを再認識するようになったというわけです。

カーゾンのピアノと聞いていると、セルと共通する部分が大きいことに気づかされます。
まず、バランスがいいです。その資質はこのような室内楽を演奏するときにはかけがえのない美質となります。ピアノというのはその気になれば、他の楽器を圧倒して弾き倒してしまうことも可能な楽器ですから、このバランス感覚はきわめて重要です。
カーゾンのピアノは常に抑制されています。そして、造形を決して崩すことなく常に端正です。しかし、リズムは決して硬直することなく躍動感にあふれています。
これを愛想がないと思う人はきっとセルもお気に召さないことでしょう。
それほどこの二人は似通っています。

この演奏を評価してください。

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