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イダ・ヘンデル(Ida Haendel) |パガニーニ:モーゼ幻想曲
パガニーニ:モーゼ幻想曲
(Vn)イダ・ヘンデル:(P)アルフレード・ホレチェク 1962年録音
Paganini:Mose-Fantasia, after a theme by Rossini
パガニーニは何処までいってもパガニーニ
「モーゼ幻想曲」は今日ではほとんど忘れ去られているようなのですが、実際に聞いてみるとそれが実に残念に思えるほどに素晴らしい作品です。
おそらく、その理由としては、ヴァイオリンのパートが一風変わっていて一番低い音域を担当するG線のみによって演奏するように指定していることがあるのかもしれません。そのために、ヴァイオリンよりはチェロとピアノで演奏される機会の方が多いようです。
なお、この作品は1818年に初演されたロッシーニのオペラ「エジプトのモーゼ」に触発されて書かれたといわれていますが本当のことは分かりません。一応正式な作品名は「『汝の星をちりばめた王座に』による序奏、主題と変奏曲」となっています。「汝の星をちりばめた王座に」の主題は「エジプトのモーゼ」からとられているとのことです。
当時の演奏会では巷で有名となったオペラのアリアなどを器楽曲に変奏するのは良くやられていたので、そう言う類の作品の一つだったのでしょう。
ハ短調の序奏の後に主題が提示され、3回変奏された後に最後はヴァイオリンの技巧を誇示するためのコーダで締めくくられます。
最初はあまりにも叙情的なメロディで歌い始められてそれが何度も変奏されるだけなので、最初はパガニーニがヴァイオリンのテクニックを全く誇示しないような作品を書いていたのかと驚かされました。しかし、いやいや、あのパガニーニがこのまま終わるはずはないと身構えていると、最後は見事なコーダで締めくくってくれるので、やはりパガニーニは何処までいってもパガニーニだと納得した次第です。
もっと聞かれてもよい佳曲だと思います。
作品と向かい合ってそこに何を感じ取れるかこそが大切
イダ・ヘンデルは録音嫌いとよく言われるのですが、先にも紹介したように、初めてDeccaと録音契約したときにスタッフからクリスマスに犬を贈られ、その後も彼女は犬を常に飼い続けその名前はいつも「Decca」でした。
ですから、レコード会写との関係、とりわけ「Decca」との関係は悪くなかったと推測はされるのですが、何故か極端に録音が少ないのもまた事実です。
しかし、最近は60年代のライブ録音が少しずつ世に出回りはじめました。録音から50年が経過してパブリック・ドメインとなっることで世に出始めました。
ここで取り上げているヴィエニャフスキの「ポロネーズ」や「マズルカ」はその様なライブ録音の一つです。
それから、紹介に使った音源には「スケルツォ-タランテラ」もライブ録音と記されていたのですが、これは間違いなくスタジオでの録音です。これ以外にも、パガニーニの「モーゼ幻想曲」、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」などもスタジオ録音のようなのですが、よくぞ録音してくれたものです。
そして、ハイフェッツの「スケルツォ-タランテラ」の録音を紹介したときにも少しふれたのですが、この「スケルツォ-タランテラ」の演奏は実に素晴らしいものです。もちろん、一音たりとも曖昧にしないハイフェッツの演奏と較べれば少しは曖昧な部分はありますが、同時代のヴァイオリニストと較べてみればテクニック的には十分に賞賛に値します。言うまでもないことですが、ハイフェッツを比較の対象に持ってくるのが間違っているのです。
ただし、彼女の演奏にはハイフェッツにはないものがあります。それは、このヴァイオリン技法の誇示を目的としたような「スケルツォ-タランテラ」のような作品であっても、そこに何ともいえない「色気」が感じられて、それが鮮やかなテクニックと出会うときに音楽は「妖艶」とも言いたくなるような世界を見せてくれることです。
それはまさに、イダ・ヘンデルというヴァイオリニストが本能的に感じとった「スケルツォ-タランテラ」の世界であり、それに気づくことで逆にハイフェッツの凄さにもあらためて気づかせてくれたのでした。
また、同じヴィエニャフスキの作品であるマズルカやポロネーズははじめて聞く作品なのであまり確信を持ってはいえないのですが、それでも「ヴァイオリンのショパン」とも呼ばれたヴィエニャフスキらしい色気のある音楽に仕上げているように思えます。
また、さらに感心したのはパガニーニの「モーゼ幻想曲」です。
これもまた始めて聞く作品だったのですが、あのパガニーニがこのような叙情的なメロディを書いていたのかと驚かされました。そして、その演奏で見せるイダ・ヘンデルの妖艶さは見事なものです。そして、パガニーニの作品なんだからこのまま終わるはずはないだろうと期待していると、パガニーニも、そして演奏するイダ・ヘンデルもその期待に見事に答えてくれる締めくくりでこの作品を仕上げています。
そして、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」ですが、これはほぼヴィエニャフスキの「スケルツォ-タランテラ」を聞いたときに感じたことがより強く感じられます。とりわけ中間部における叙情的な部分における色気、とりわけ弱音部の歌わせ方にはゾクッとするような怪しげな魅力があふれています。
なるほど、演奏家と言うのはテクニックが大切なのではなくて、作品と向かい合ってそこに何を感じ取れるかこそが大切であり、その感じ取ったものを聞き手に伝えるためにどのようにテクニックを駆使するかが大切だと言うことを教えてもらった録音でした。
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よせられたコメント 2021-12-14:アドラー この曲、初めて聴きました。独特の魅力があります。変奏曲以前の部分はヴァイオリンの音色に魅力がなければ面白くないでしょうけど、ヘンデルの音はいいですね。ヴァイオリンってこんな音がするのか?と思ったくらい、です。また、ホレチェクという伴奏者も、その伴奏部分だけでも聴きたくなるような自己主張があり、そのルバートがヘンデルのそれとすこーし、ずれているのも楽しく聴きました。後半のパガニーニらしいテクニックや音色も楽しいのですが、後半でのホレチェクはヘンデルに対して遠慮している感じに聞こえるのがやや残念。
他の演奏を知りませんが、もし比べたらこちらは全体的には真面目な演奏に分類されるんでしょう。だけど、真面目で上品な女性がほんの一瞬の眼差しの中に妖艶な色気を発した時の魅力というか、そういう面白さを感じます。
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