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バリリ四重奏団(Barylli Quartet)|シューベルト:ピアノ五重奏曲 イ長調 D667 「鱒」
シューベルト:ピアノ五重奏曲 イ長調 D667 「鱒」
バリリ四重奏団 (P)スコダ 1958年録音
Schubert:ピアノ五重奏曲「ます」 Op114 D667 「第1楽章」
Schubert:ピアノ五重奏曲「ます」 Op114 D667 「第2楽章」
Schubert:ピアノ五重奏曲「ます」 Op114 D667 「第3楽章」
Schubert:ピアノ五重奏曲「ます」 Op114 D667 「第4楽章」
Schubert:ピアノ五重奏曲「ます」 Op114 D667 「第5楽章」
幸福な日々の反映

この第4楽章が歌曲「ます」の主題による変奏曲になっていて、あまりにも有名なメロディであるためにいろいろな場面で使われます。
ある方はこの作品を「給食五重奏曲」と語っています。小学校時代の給食時間に必ず流れていたため、この音楽を聴くとコッペパンと牛乳、そして大好きだったクリームシチューが思い浮かぶそうです。
私の友人で、モーツァルトのフルート四重奏曲が大嫌いだという女性がいました。保育所時代のお昼寝の時間に必ず流れていたそうで、お昼寝の時間が大嫌いだった彼女はこの音楽を聴くと苦しくも悲しかった保育所時代o(・_・θキック、を思い出してしまうらしいのです。
給食五重奏曲の方は幼い頃の幸せな思い出と結びついているのでいいのですが(大人?になった今、休日の午後ゆっくり、リラックスしながら「ます」を聴くことがしばしばある。美しいメロデイーを聴くと、豊かな気持ちでいっぱいになる。)、後者の彼女のような出会いだとこれは不幸ですね。
しかし、こういう超有名曲は、好むと好まざるとに関わらずそう言う前世での出会い( ̄○ ̄;)!お、おい・・・をしてしまう確率はかなり高いと言えます。
閑話休題。
そんなどうでもいいことは脇に置いておいて作品の真面目な紹介をしておきましょう。
この作品は友人のフォーゲルに誘われて風光明媚なシュタイアという町を訪れたことが創作のきっかけとなっています。滞在中に知り合ったこの町の鉱山長官のワインガルトナーがシューベルトの歌曲「ます」を大いに気に入り、このテーマを使ったピアノ五重奏曲を依頼したからです。
さらに、ワインガルトナーは当時話題になっていたフンメルの五重奏曲と同じ楽器編成の作品を依頼したために、ちょっと変わった編成の作品が仕上がりました。(ますの楽器編成は一頃就職試験によくでたそうです。そんなことを知っていて何の役に立つのかと思いますが、いわゆるひっかけ問題としては最適だったようです)
言うまでもなくクインテットの一般的な編成はピアノ+弦楽四重奏ですが、ここではピアノ+ヴァイオリン+ヴィオラ+チェロ+コントラバスとなっています。これは、チェロの愛好家だったワインガルトナー自身がその腕前を存分に発揮できるようにするためだったようです。最低音をコントラバスが受け持つために、チェロが自由に動き回るようになっています。
また、シュタイアでの幸福な日々を反映するかのように、かげりの少ない伸びやかな作品となっていることもこの作品の人気の一因となっているようです。
我らの音楽
少し前に、カーゾンとウィーン八重奏団のメンバー(ボスコフスキーやヒューブナー等)による録音を紹介したときに、「スコダはよほどこの作品がお気に入りだったのか、ウィーン・コンツェルトハウスSQ、バリリSQというウィーンフィルゆかりの2団体と録音を残しています。」と、この録音について少しばかりふれています。
ですから、やはり録音の方も実際に紹介した方がいいだろうと言うことで、ゴソゴソと奥の方から探し出して引っ張り出してきました。
確かに、スコダというピアニストはイェルク・デームスやフリードリヒ・グルダとともに「ウィーン三羽烏」と呼ばれたのですが、今となってはかなり影が薄くなっています・・・なんて書こうと思ったのですが(^^;、何と、ただいま(2012年11月)来日中で!!、各地で元気にリサイタルを行っているではないですか!!
プログラムも
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 作品109
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 作品110
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 作品111
というもので、宣伝文句は『「生ける伝説」が紡ぐ究極のベートーヴェン』です。
チケットも早々と完売のようですから、あまり軽々に「影が薄い」等と言ってはいけませんね。
しかし、そんなことを調べてみたおかげで、彼がウィーン・コンツェルトハウスSQと録音したときはわずか23歳だった事に気づきました。58年録音のバリリSQとの時でもようやくにして30歳をこえたばかりです。なるほど、それで合点がいきました。
「スコダはよほどこの作品がお気に入りだったのか、・・・ウィーンフィルゆかりの2団体と録音を残しています。」なんて書いたのですが、これは主格が転倒してた事に気づきました。おそらくは、このウィーンフィルのトップメンバーで構成された四重奏団がこの作品を録音しようとしたときに、腕は立つけれどもうるさいことを言わずに自分たちの言うことを聞きそうなピアニストを探していて、白羽の矢が立ったのがスコダだったのでしょう。(グルダがそこまで従順だとは到底思えません。)
実はこのあたりの微妙な問題については以前にも簡単に書きました。
「こういう形式の作品を演奏するときは基本的にピアニストは闖入者です。いつもいっしょにアンサンブルをやっている弦のメンバーの中にピアノが余所者としてやってくるわけです。さらに困ったことに、その余所者であるピアノはやろうと思えば弦楽器を圧倒してしまうことが音量的に可能です。
この音量面でのバランスというのは日常的にアンサンブルをやっている弦のメンバーにとっては一番神経を使う部分だと思うのですが、そこへ遠慮会釈なしにピアノをガンガン弾かれたりするとかなり困ったことになるはずです。」
つまりは、四重奏団にとって、ピアノ四重奏曲とか五重奏曲みたいな形式の作品を演奏するときのピアニストの選定というのは結構微妙な問題をはらんでいるのです。
そして、確かにカーゾンのような優れたピアニストを招けば「間違い」はおこらないのですが、「陽気なウィーン子の中に謹厳実直なイギリスのジェントルマンが加わったような」違和感が発生することは避けられません。
もっとも、その違和感が新しい局面を切り開くこともあるので、それはそれでこういう作品に接するときの楽しみの一つでもあるのですが。
しかし、この録音で、二つのカルテットがピアニストにスコダを選んだと言うことは、「自分たちのやりたいようにやらせてもらいます!」という意思表示のようなものです。そして、シューベルトこそは生粋にウィーン子なのですから、これこそが「我らの音楽」という雰囲気で心底楽しんで演奏している様子が目に浮かぶようです。
ただし、エリート集団であるバリリSQの方はある程度の節度を保って、品の良さを失うことはありません。
そのように聞こえます。
それに対して、ウィーン・コンツェルトハウスSQとの方は録音が古いと言うこともあるのでしょうが、実に味の濃い音楽に仕上がっています。
まあ、有り体に言えば、やりたい放題です。
そして、カーゾンの録音とあわせて3つ並べてみると、面白いと思うのはバリリSQの方ではなくてウィーン・コンツェルトハウスSQの方です。
技術的洗練と芸術的洗練は歩調をともにするというのが原則であり、その事から言えばより洗練されているのはバリリSQの方であることは事実なのですが、美食になれた贅沢ものには、珍味もまた楽しみの一つになると言うことなのでしょう。
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