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カーゾン(Clifford Curzon)|シューベルト:ピアノ五重奏曲 イ長調 D667 「鱒」
シューベルト:ピアノ五重奏曲 イ長調 D667 「鱒」
(P)カーゾン ウィーン八重奏団のメンバー 1957年10月録音
Schubert:ピアノ五重奏曲 イ長調 D667 「鱒」 「第1楽章」
Schubert:ピアノ五重奏曲 イ長調 D667 「鱒」 「第2楽章」
Schubert:ピアノ五重奏曲 イ長調 D667 「鱒」 「第3楽章」
Schubert:ピアノ五重奏曲 イ長調 D667 「鱒」 「第4楽章」
Schubert:ピアノ五重奏曲 イ長調 D667 「鱒」 「第5楽章」
幸福な日々の反映
この第4楽章が歌曲「ます」の主題による変奏曲になっていて、あまりにも有名なメロディであるためにいろいろな場面で使われます。
ある方はこの作品を「給食五重奏曲」と語っています。小学校時代の給食時間に必ず流れていたため、この音楽を聴くとコッペパンと牛乳、そして大好きだったクリームシチューが思い浮かぶそうです。
私の友人で、モーツァルトのフルート四重奏曲が大嫌いだという女性がいました。保育所時代のお昼寝の時間に必ず流れていたそうで、お昼寝の時間が大嫌いだった彼女はこの音楽を聴くと苦しくも悲しかった保育所時代o(・_・θキック、を思い出してしまうらしいのです。
給食五重奏曲の方は幼い頃の幸せな思い出と結びついているのでいいのですが(大人?になった今、休日の午後ゆっくり、リラックスしながら「ます」を聴くことがしばしばある。美しいメロデイーを聴くと、豊かな気持ちでいっぱいになる。)、後者の彼女のような出会いだとこれは不幸ですね。
しかし、こういう超有名曲は、好むと好まざるとに関わらずそう言う前世での出会い( ̄○ ̄;)!お、おい・・・をしてしまう確率はかなり高いと言えます。
閑話休題。
そんなどうでもいいことは脇に置いておいて作品の真面目な紹介をしておきましょう。
この作品は友人のフォーゲルに誘われて風光明媚なシュタイアという町を訪れたことが創作のきっかけとなっています。滞在中に知り合ったこの町の鉱山長官のワインガルトナーがシューベルトの歌曲「ます」を大いに気に入り、このテーマを使ったピアノ五重奏曲を依頼したからです。
さらに、ワインガルトナーは当時話題になっていたフンメルの五重奏曲と同じ楽器編成の作品を依頼したために、ちょっと変わった編成の作品が仕上がりました。(ますの楽器編成は一頃就職試験によくでたそうです。そんなことを知っていて何の役に立つのかと思いますが、いわゆるひっかけ問題としては最適だったようです)
言うまでもなくクインテットの一般的な編成はピアノ+弦楽四重奏ですが、ここではピアノ+ヴァイオリン+ヴィオラ+チェロ+コントラバスとなっています。これは、チェロの愛好家だったワインガルトナー自身がその腕前を存分に発揮できるようにするためだったようです。最低音をコントラバスが受け持つために、チェロが自由に動き回るようになっています。
また、シュタイアでの幸福な日々を反映するかのように、かげりの少ない伸びやかな作品となっていることもこの作品の人気の一因となっているようです。
ウィーンなまりとは違う独特のテイストのシューベルト
あまりにも有名な作品であるにもかかわらず、セル&ブダペスト弦楽四重奏団と言う組み合わせでの古い録音しかアップしていないことに気づきました。これはイカンと思い、あれこれ探してみて引っ張り出してきたのがこの録音です。
これは1957年の録音なのですが、録音のクオリティが非常に高いです。おまけに、EMIの録音であるにもかかわらず立派にステレオです。(^^v
欲を言えば、粒立ちのいいカーゾンのピアノの響きをもう少しクリアにとらえてくれていればとは思うのですが、弦楽器の響きは最新のものと比べても遜色がないほどの素晴らしさです。とりわけ、コントラバスやチェロの低弦の響きが極めて魅力的です。
この録音をアップするために62年のカタログを調べてみたのですが、さすがに有名曲だけ有って11種類の録音がリストアップされています。しかし、その大部分は聞いたこともないようなピアニストによるもので、かろうじて知っているのはスコダくらいのものです。あとはブリーフニックとかメニューイン(ヴァイオリニストじゃないですよ)、ヘクシュなんて名前が並んでいます。おそらく、売れ筋の作品を安上がりに仕上げるために起用されたのではないかと思われます。
また、スコダはよほどこの作品がお気に入りだったのか、ウィーン・コンツェルトハウスSQ、バリリSQというウィーンフィルゆかりの2団体と録音を残しています。そんな中に、このカーゾンの一枚が見つかったのですが、シュナーベル&プロ・アルテSQという古い録音を除外すれば、後世に名を残すほどのピアニストが手がけたものとしてはこれだけと言うことになる雰囲気です。(スコダを評価している人がいればご免なさい)
ただ、この録音は確かに端正で立派なものだとは思うのですが、聞き進んでいくと、ほんの微かですが「違和感」みたいなものが感じられてきます。
そう言えば、セル&ブダペスト弦楽四重奏団の録音をアップしたときにこんな事を書きました。
「こういう形式の作品を演奏するときは基本的にピアニストは闖入者です。いつもいっしょにアンサンブルをやっている弦のメンバーの中にピアノが余所者としてやってくるわけです。さらに困ったことに、その余所者であるピアノはやろうと思えば弦楽器を圧倒してしまうことが音量的に可能です。
この音量面でのバランスというのは日常的にアンサンブルをやっている弦のメンバーにとっては一番神経を使う部分だと思うのですが、そこへ遠慮会釈なしにピアノをガンガン弾かれたりするとかなり困ったことになるはずです。」
もちろん、カーゾンが全体のバランスを崩すはずなどはありません。しかし、両者の音楽の方向性には少しばかりの食い違いが感じられて、やはりカーゾンは「闖入者」かなと思ってしまいます。
弦楽器の方はウィーン八重奏団のメンバーとなっているのですが、具体的に言えばボスコフスキーを先頭にして、ギュンター・ブライテンバッハ(Va)二コラウス・ヒューブナー(Vc)ヨハン・クルンプ(DB)という顔ぶれです。彼らの演奏を聴いていると、多少形は崩してでも「歌おう」という本能が至るところで顔を出します。
しかし、それにあわせてカーゾンのピアノは柔軟に歌おうとはしていません。彼のピアノはどこまで行っても端正で佇まいが崩れることはありません。
ですから、弦楽器の方はふと我に返って襟を正すというような雰囲気があちこちで感じられます。
例えてみれば、陽気なウィーン子の中に謹厳実直なイギリスのジェントルマンが加わったようなものでしょうか。
ただし、それを違和感と感じるのか、それともコンツェルトハウスSQ&スコダみたいなウィーンなまりとは違う独特のテイストのシューベルトが聴けたことを良しとするのか、それを決めるのはあなたです・・・と言うことなのかもしれませんが・・・。
この演奏を評価してください。
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