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ヨハンナ・マルツィ(Johanna Martzy)|シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 D.385
シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 D.385
(vn)ヨハンナ・マルティ (P)ジャン・アントニエッティ 1955年11月7日~13日録音
Schubert:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 D.385 「第1楽章」
Schubert:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 D.385 「第2楽章」
Schubert:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 D.385 「第3楽章」
Schubert:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 D.385 「第4楽章」
若きシューベルトの歌心があふれた作品
シューベルトにとって、このヴァイオリンとピアノのための作品は親しい友人たちと演奏を楽しむために書かれたもので、言ってみればそれほど気合いの入った作品ではありません。そのために、ソナタと言うには構成が簡潔にすぎるので、「ソナチネ」と呼ばれることもある作品です。
よく言われるのは、ソナタ形式と呼ぶには展開部がいたって簡潔であり、さらには第2主題も第1主題に対抗するほどの大きな意味を持たないと言うことです。そのために、作品の規模は小さくて、3楽章構成の第1番では演奏時間はわずか10分あまりです。
しかし、そんな蘊蓄よりも重要なことは、ここには19歳のシューベルトのあふれるような「歌心」があふれていることです。
例えば、このシンプル極まる第1番のソナチネにしても、深い思いを胸に秘めてそぞろ歩く若者を想起させるような第2楽章はとても魅力的です。そして、その若者は突然にあふれ出した痛切な思いによって歩みを止めるルのですが、再びそのような主を振り捨てて再び歩み出すような風情は、まさに19歳のシューベルトの自画像のようです。
第2番にしても、音楽は冒頭から深い哀切なる思いに包まれています。第2楽章では伸びやかなヴァイオリンの旋律が様々な調性を渡り歩く変奏曲形式は実に美しく聞こえます。
そして、そう言う若書きの作品であっても、最後を飾る3番ソナタともなれば、音楽は引き締まり、結構立派な姿を見せてくれます。
専門家の間にあっては「音楽的には取るに足りない作品」と切って捨てる向きもあるようですが、そして、音楽を勉強として聴く人ならばそれでいいのかもしれませんが、私たちのようなもにとってはそれはあまりにももったいなさすぎます。
ここには、疑いもなく若い19歳のシューベルトの自画像が刻み込まれているように思います。
真実の素朴さ
マルティのヴァイオリンでベートーベンのソナタを聴いた後に、こういう演奏でシューベルトを聴ければ素敵だろうなと思いました。そして、その思いはまさにビンゴ!
若き19歳のシューベルトによる素朴な歌は、マルティの歌う本能と出会って、驚くまでに見事な世界を描き出してくれています。
そして、この演奏を聴いて思ったことは、この素朴さこそがマルティが挫折してしまった原因であり、そこの素朴さこそが、今という時にあってマルティが再評価される要因になっていると言うことでした。
ベートーベンのヴァイオリンソナタの項でも述べたのですが、50年代は「構築」する時代でした。
そして、そう言う時代の流れを大きく変えたのはカラヤンだったと思います。彼は60年代になると「ドイツのミニ・トスカニーニ」から脱却して、私たちがよく知っているカラヤンへと変身を遂げていきます。その変身とは言うまでもなく、一つ一つの音を徹底的にレガートしてなめらかに旋律線をつないでいく「あのやり方」です。のちの人は、この流麗極まる音楽作りを「カラヤン美学」と称して、ある人々は絶賛し、ある人々は辟易としたわけです。そして、カラヤンがこの美学を完成させた70年代は、明らかに50年代とは異なる時代になっていました。
しかし、そう言う時代になっても、マルティに陽が当たることはありませんでした。
それは、このシューベルトの演奏を聴けばその理由はすぐに了解できます。
カラヤンの歌は徹底的なまでに「人工的な美」でした。それは、一流のシェフが、選び抜いた素材に徹底的な工夫を凝らして仕立て上げたフレンチの逸品のような音楽です。
マルティの歌はそれとは真逆な世界にあります。彼女の歌には、畑に生えていた野菜をその場で引き抜いて味わうような風情があります。それは素朴と言えば素朴な歌なのですが、その野菜には今では味わうことの難しくなった野菜本来の旨みがぎゅっと詰まっています。
マルティに陽が当たらない時代にあっても、ごく一部の好事家の間では彼女は高く評価されていました。録音の数も少なく、さらに、その録音も営業的にはほとんど成功しなかったために、市場に流通した彼女のレコードは多くはありません。しかし、その好事家たちが競って彼女の数少ない初期盤を求めたために、そう言うレコードは貴重品と化して一枚あたり数十万円で取引されることになります。
そこでついたあだ名が「6桁のマルティ」だそうです。
そういえば、最近になっても彼女の録音をLPで復刻する動きがあって、5?6万円のセット価格であるにも関わらず結構売れているようです。
結局は、飽食の果てにたどりつくのは、こういう真実の素朴さなのかもしれません。
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