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モーラ・リンパニー(Moura Lympany)|シューマン:ピアノ協奏曲 Op.54
シューマン:ピアノ協奏曲 Op.54
(P)モーラ・リンパニー:コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1959年録音
Schumann:Piano Conserto in A minor Op.54 [1.Allegro affetuoso]
Schumann:Piano Conserto in A minor Op.54 [2.Intermezzo]
Schumann:Piano Conserto in A minor Op.54 [3.Allegro vivace]
私はヴィルトゥオーソのための協奏曲は書けない。
クララに書き送った手紙の中にこのような一節があるそうです。そして「何か別のものを変えなければならない・・・」と続くそうです。そういう試行錯誤の中で書かれたのが「ピアノと管弦楽のための幻想曲」でした。
そして、その幻想曲をもとに、さらに新しく二つの楽章が追加されて完成されたのがこの「ピアノ協奏曲 イ短調」です。
協奏曲というのは一貫してソリストの名人芸を披露するためのものでした。
そういう浅薄なあり方にモーツァルトやベートーベンも抵抗をしてすばらしい作品を残してくれましたが、そういう大きな流れは変わることはありませんでした。(というか、21世紀の今だって基本的にはあまり変わっていないようにも思えます。)
そういうわけで、この作品は意図的ともいえるほどに「名人芸」を回避しているように見えます。いわゆる巨匠の名人芸を発揮できるような場面はほとんどなく、カデンツァの部分もシューマンがしっかりと「作曲」してしまっています。
しかし、どこかで聞いたことがあるのですが、演奏家にとってはこういう作品の方が難しいそうです。
単なるテクニックではないプラスアルファが求められるからであり(そのプラスアルファとは言うまでもなく、この作品の全編に漂う「幻想性」です。)、それはどれほど指先が回転しても解決できない性質のものだからです。
また、ショパンのように、協奏曲といっても基本的にはピアノが主導の音楽とは異なって、ここではピアノとオケが緊密に結びついて独特の響きを作り出しています。この新しい響きがそういう幻想性を醸し出す下支えになっていますから、オケとのからみも難しい課題となってきます。
どちらにしても、テクニック優先で「俺が俺が!」と弾きまくったのではぶち壊しになってしまうことは確かです。
彼女の類い希なるパワフルさが炸裂しています
これは実に不思議な録音です。
リンパニーは1951年にアメリカのテレビ局経営者のベネット・コーンと結婚して渡米するのですが、それをきっかけとしてピアニストとしての活動を縮小していき、50年代後半にはほぼ引退と同じような状態になります。しかしながら、1961年に離婚をして、後のイギリス首相となるアマチュア指揮者のエドワード・ヒースと親しくなる事で少しずつ活動を再開をしていくようになります。
ですから、この1959年に録音されたグリーグとシューマンのコンチェルトは、リンパニーにしてみればほぼフェードアウトしていた時期の録音という事になります。
いったいどのような経緯があってこの二つのコンチェルトが録音されたのかはいろいろ調べてみたのですが、よく分かりませんでした。
録音はモノラルであり、さらには超低域に環境雑音が混じり込んでいるので(低域方向に延びていない小型システムでは気がつかない可能性があります)何かのライブ録音かとも思ったのですが、少し違うようです。しかし、いわゆるきちんとセッションを組んだスタジオ録音とも言い難い部分があります。
おそらく、録音はほぼ一発録りだったのではないかと推察されます。
リンパニーにしてみればほぼ引退しているような状態だったでしょうから、ピアニストとしての評価などは全く気にする必要はなかったのでしょう。
よく言えばこの上もなく自由に、有り体に言えば好き勝手にピアノを弾いていますから、彼女の類い希なるパワフルさが炸裂しています。そこには、第一線の現役として活躍していた時期には感じることのあった「スタンダード」に対するチラ見などという「弱さ」は微塵も感じません。
それはもう、徹底的に「私」に徹した演奏です。
ただし、問題はその「私」への「偏差」が「スタンダード」をねじ伏せるだけの説得力を持っているかです。
私見を言えば、彼女の「私」が目指す音楽の方向性は凄まじいものがありますので、それはもう力任せに「スタンダード」をねじ伏せています。シューマンは言うまでもないのですが、基本的には叙情的な音楽と思われているグリーグであっても、そのパワフルさで作品をねじ伏せています。
しかし、長く第一線から身を引いていたこともあるのでしょうが、演奏そのものはかなり荒っぽいものになっていることは否定できません。
ただし、その荒っぽさはリンパニーの「私」が目指すパワフルさと表裏一体になっている面もありますから、そこにある種の丁寧さを意識することは「スタンダード」へのチラ見につながることも事実です。
そう考えれば、「私」に徹したリンパニーの凄さを有り難く押し頂くのが筋なのかも知れません。
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