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カッチェン(Julius Katchen)|ベートーベン:ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 作品15
ベートーベン:ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 作品15
(P)ジュリアス・カッチェン ピエロ・ガンバ指揮 ロンドン交響楽団 1965年1月18日~20日録音
Beethoven:Piano Concerto No.1, Op.15 [1.Allegro con brio]
Beethoven:Piano Concerto No.1, Op.15 [2.Largo]
Beethoven:Piano Concerto No.1, Op.15 [3.Rondo. Allegro]
若きベートーベンの自信作・・・大協奏曲!!
この作品は番号は1番ですが、作曲されたのは2番よりも後です。現行の2番は完成した後に筆を加えたり出版が遅れたりして番号が入れ替わってしまったわけです。
ベートーベンは第2番の協奏曲の方にはたんに「協奏曲」として出版していますが、この第1番の方は「大協奏曲」としています。それはこの作品に寄せる並々ならぬ自信の作品でもあったわけですが、大編成の管弦楽とそれに張り合うピアノの扱いなどを見ると、当時としては大協奏曲と銘打っても不思議ではない作品となっています。
この作品はベートーベンがウィーンに出てきて間もない頃に書かれたと言われています。当時のベートーベンは作曲家としてよりもピアニストとして認められていたわけですから、モーツァルトと同様に、自らの演奏会のためにこのような作品は必要不可欠だったわけです。
演奏効果満点の第1楽章と、将来のベートーベンを彷彿とさせるに十分な激しさを内包した最終楽章、そしてもこれもまたベートーベンを特徴づける詩的な美しさをもったラルゴの第2楽章。どれをとっても演奏会用のピースとして求められるあらゆる要素をもったすぐれモノの協奏曲です。
なお、この作品の第1楽章にはベートーベン自身による3種類のカデンツァが残されていますが、これらは作曲当時に書かれたものではなくて、かなり後になってからルドルフ大公のために書かれたものだと言われています。
さえざえと晴れ渡った冬の朝のような佇まい
「ジュリアス・カッチェン」と言うピアニストは多くの人の記憶からほとんど消え去っているかもしれませんが、それでも希有の「ブラームス弾き」と言うことで未だに記憶に留めておられる方はいるかもしれません。ですから、彼が演奏する「ブラームス以外」の作品となると、気の毒なまでに視野の外と言うことになります。
いや、そんな事はないぞ!!と言う方もおられるかもしれませんが、まさにこれからという42歳でなくなってしまったキャリアと、その死(1969年)から50年近くの時間が経過してしまったことを考えれば、そう言っていただける方はほんの一握りにしかすぎないでしょう。
しかし、彼の「ブラームス以外」の作品をあらためて聞き直してみると、やはり忘れ去ってしまうには惜しいと思わざるを得ません。
例えば、ベートーベンの5つの協奏曲は全て録音が残っていますし、ソナタや変奏曲に関しても少なくない録音が残っています。そして、陳腐な言い回しかもしれませんが、そのどれもがさえざえと晴れ渡った冬の朝のような佇まいを見せているのです。
冬の水一枝の影も欺かず 中村草田男
鏡のような冬日の水面に、全ての葉を落としてしまった木々の枝が映っていたのでしょう。
その水面は葉を落としきった枝のどんな細かい部分まで欺くことなくくっきりと映し出しているのです。そして、その水面に映し出された木々の姿は冬の木々が内包する真実を実像以上に鮮やかに描き出しています。
カッチェンのピアノもまた、この冬の木々を映し出した水面のようにベートーベンの真実を描き出しているように感じるのです。
カッチェンが残したベートーベンの協奏曲のスタジオ録音は以下の通りです。
- ベートーベン:ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 作品15:ピエロ・ガンバ指揮 ロンドン交響楽団 1965年1月18日~20日録音
- ベートーベン:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 作品19:ピエロ・ガンバ指揮 ロンドン交響楽団 1963年6月17日~19日録音
- ベートーベン:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 作品37:ピエロ・ガンバ指揮 ロンドン交響楽団 1958年9月16日~17日録音
- ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58:ピエロ・ガンバ指揮 ロンドン交響楽団 1963年6月17日~19日録音
- ベートーベン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73 「皇帝」:ピエロ・ガンバ指揮 ロンドン交響楽団 1963年12月15日&18日録音
「ピエロ・ガンバ(1936年~)」は今も存命で、ニューヨークを中心として未だに指揮活動も続けているようです。11歳で指揮者としてデビューしたという「神童」なのですが、これを聞く限りでは20歳で「ただの人」になってしまったことは間違いないようです。
カッチェンのピアノはどれを聞いても申し分はないのですが、それをサポートするオケはいかにも「緩い」のです。
それから、カッチェンというピアニストは興が乗ってくるとテンポが速くなって前のめりになる癖があると指摘されるのですが、この録音ではそれもまた音楽の勢いとして感じ取れるので、決して不自然さは感じません。
ピアノに関してだけなら、悪くない録音だと言い切っていいのではないでしょうか。
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