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ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調, Op15

(P)クラウディオ・アラ:カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1960年4月21日~23日録音



Brahms:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15 「第1楽章」

Brahms:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15 「第2楽章」

Brahms:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15 「第3楽章」


交響曲になりそこねた音楽?

木星は太陽になりそこねた惑星だと言われます。その言い方をまねるならば、この協奏曲は交響曲になりそこねた音楽だといえます。

諸説がありますが、この作品はピアノソナタとして着想されたと言われています。それが2台のピアノのための作品に変容し、やがてはその枠にも収まりきらずに、ブラームスはこれを素材として交響曲に仕立て上げようとします。しかし、その試みは挫折をし、結局はピアノ協奏曲という形式におさまったというのです。
実際、第1楽章などではピアノがオケと絡み合うような部分が少ないので、ピアノ伴奏付きの管弦楽曲という雰囲気です。これは、協奏曲と言えば巨匠の名人芸を見せるものと相場が決まっていただけに、当時の人にとっては違和感があったようです。そして、形式的には古典的なたたずまいを持っていたので、新しい音楽を求める進歩的な人々からもそっぽを向かれました。

言ってみれば、流行からも見放され、新しい物好きからも相手にされずで、初演に続くライプティッヒでの演奏会では至って評判が悪かったようです。
より正確に言えば、最悪と言って良い状態だったそうです。
伝えられる話によると演奏終了後に拍手をおくった聴衆はわずか3人だったそうで、その拍手も周囲の制止でかき消されたと言うことですから、ブルックナーの3番以上の悲惨な演奏会だったようです。おまけに、その演奏会のピアニストはブラームス自身だったのですからそのショックたるや大変なものだったようです。
打ちひしがれたブラームスはその後故郷のハンブルクに引きこもってしまったのですからそのショックの大きさがうかがえます。

しかし、初演に続くハンブルクでの演奏会ではそれなりの好評を博し、その後は演奏会を重ねるにつれて評価を高めていくことになりました。因縁のライプティッヒでも14年後に絶賛の拍手で迎えられることになったときのブラームスの胸中はいかばかりだったでしょう。

確かに、大規模なオーケストラを使った作品を書くのはこれが初めてだったので荒っぽい面が残っているのは否定できません。1番の交響曲と比較をすれば、その違いは一目瞭然です。
しかし、そう言う若さゆえの勢いみたいなものが感じ取れるのはブラームスの中ではこの作品ぐらいだけです。ユング君はそう言う荒削りの勢いみたいなものは結構好きなので、ブラームスの作品の中ではかなり「お気に入り」の部類に入る作品です。


晩年のアラウを予想させる録音

私にとってこの作品の刷り込みはセル&カーゾンによる62年盤です。ですから、この作品のイメージは青春の力みかえった覇気のようなものが満ちあふれていないといけないことになっています。(^∧^;)
そう言う思いこみからこの録音を聞いてみると、いささか肩すかしを食らったことを正直に申し上げないといけません。
何しろ、ほぼ同じ頃に録音したチャイコフスキーでは実にパワフルに演奏していたのですから、ブラームスの1番ならば、さらなるパワフルな演奏が期待されたのですが、意外なほどに抑え気味です。そして、バックをつとめるのが若きジュリーニの指揮も、ブラームスらしい構築性よりは歌心優先のように聞こえます。セルの棒による怒濤のようなオケの響きと比べれば、これもまた物足りなく聞こえてしまいます。

ただし、これは私の中のスタンダードがおかしいのです。
いろいろな録音でこの1番のコンチェルト聞くと、あのセル&カーゾンの62年盤はかなり「異質」な部類に入ることはすぐに気づきます。個人的には、あの録音全体にみなぎっている強い緊迫感みたいなものが大好きなのですが、それを他所で求めようとするのが最初から無理な注文なのでしょう。

そう思って、再度聴き直してみれば、やはりピアノの響きの美しさ、冴え渡るタッチの美しさなどは出色です。もしかしたら、その部分に関してはカーゾンよりも上かもしれません。そして、全体としてはやや抑え気味の、淡々とした表現の中から深い情感が醸し出されていく風情は、晩年のアラウの姿を予想させるものがあります。
ただし、オケに関しては不満が残りますね。
もちろん、40代半ばのジュリーニとセルを比べるのが酷な話であることは分かっていますが・・・。

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