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ヘンデル:組曲「王宮の花火の音楽」, HWV 35

アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1957年7月8日録音



Handel:Music for the Royal Fireworks [1.Ouverture]

Handel:Music for the Royal Fireworks [2.Alla Siciliano]

Handel:Music for the Royal Fireworks [3.Bourree]

Handel:Music for the Royal Fireworks [4.Menuetto]


機会音楽

「水上の音楽」は名前の通り、イギリス国王の船遊びのために、そして「王宮の花火の音楽」は祝典の花火大会のために作曲された音楽だと言われています。
クラシック音楽の世界では、こういう音楽は「機会音楽」と呼ばれます。

機会音楽とは、演奏会のために作曲されるのではなく、何かの行事のために作曲される音楽のことをいいます。
それは純粋に音楽を楽しむ目的のために作られるのではなく、それが作られるきっかけとなった行事を華やかに彩ることが目的となります。ですから、一般的には演奏会のための音楽と比べると一段低く見られる傾向があります。

しかしながら、例え機会音楽であっても、その創作のきっかけが何であれ、出来上がった作品が素晴らしい音楽になることはあります。
その一番の好例は、結婚式のパーティー用に作曲されたモーツァルトのハフナー交響曲でしょうか。
そして、このヘンデルの2つの音楽も、典型的な機会音楽でありながら、今やヘンデルの管弦楽作品を代表する音楽としての地位を占めています。

機会音楽というのは、顧客のニーズにあわせて作られるわけですから、独りよがりな音楽になることはありません。

世間一般では、作曲家の内なる衝動から生み出された音楽の方が高く見られる傾向があるのですが、大部分の凡庸な作曲にあっては、そのような内的衝動に基づいた音楽というのは聞くに堪えない代物でなることが少なくありません。
それに対して、モーツァルトやヘンデルのような優れた才能の手にかかると、顧客のニーズに合わせながら、音楽はそのニーズを超えた高みへと駆け上がっていくのです。

そして、こんな事を書いていてふと気づいたのですが、例えばバッハの教会カンタータなどは究極の機会音楽だったのかもしれません。
バッハが、あのようなカンタータを書き続けたのは、決して彼の内的な宗教的衝動にもとづくのではなく、それはあくまでも教会からの要望にもとづくものであり、その要望に応えるのが彼の職務であったからです。
そう考えれば、バッハの時代から、おそらくはベートーベンの時代までは音楽は全て基本的に機会音楽だったのかもしれません。


派手すぎず、地味になることもなく

この時代のドラティと言えば真っ先に思い浮かぶのはチャイコフスキーの序曲「1812年」を収録したレコードです。陸軍士官学校のカノン砲がぶっ放され、72個の鐘が壮大に鳴り響くというのが売りの録音なのですが、何と全世界で200万枚も売れたというのです。
ただし、それを買い込んだの人の大部分はクラシック音楽ファンではなくて、いわゆるオーディオ・マニアだったというのですから、その時代におけるオーディオが趣味の世界で占めていたポジションの高さに隔世の感を感じざるを得ません。しかしながら、そのおかげで、クラシック音楽ファンからはあんなにも下品な音楽を恥ずかしげもなく録音する指揮者という「偏見」も植え付けてしまいました。

しかし、実際に聞いてみればカノン砲と72個の鐘は確かに下品の極みかもしれないのですが、作品全体を聞いてみれば意外なほどに堂々たる大真面目なスペクタクルに仕上がっています。こういう大仕掛けのもとではともすれば緩みがちになり、粗っぽくもなってしまいがちな音楽をキリリと引き締めて、この冗談のような絵巻物を最後の最後まで大真面目に演じきっています。
オーケストラのバランスも完璧で、偉大なるオーケストラ・トレーナーであったドラティの力量をあらためて思い知らされます。やはり、聞きもしないで、噂だけで悪口を言っちゃいけないですよね。

そして、おそらくはレーベルとしてはそれと同じライン上で二匹目の泥鰌を狙ったのがこのヘンデルの録音でしょう。
ヘンデルという人は、基本的には興業屋であり、それ故に偉大なエンターテナーでした。そんなエンターテナーとしてのヘンデルの力量が遺憾なく発揮されているのがこの「水上の音楽」と「王宮の花火の音楽」でしょう。そして、聞き手側から見てもよく知られている人気曲なのですから、これをマーキュリーの優秀録音で提供すればそれなりの売り上げは期待できると判断したのでしょう。

さらに、オーケストラも発展途上にあった手兵のミネアポリスのオケではなくて、当時としては世界のトップレベルの力量を持っていたロンドン響を起用したのですから、レーベルとしても気合いが入っていたことでしょう。
しかしながら、ドラティの方は意外なほどに端正に、そして精緻にこの二つの作品を仕上げています。おそらく、やろうと思えばいくらでも派手に演出できる作品ですが、ドラティは完璧なオーケストラ・コントロールで派手すぎず、もちろん地味になることもなく、とても立派な音楽を聞かせてもらったと思えるような演奏に仕上げています。

そう言えば彼は危機に瀕したオーケストラがあれば常に駆り出されてその立て直しを任され指揮者でした。さらに、幾つかのオーケストラをゼロから作りあげるという難事業も幾つか成し遂げています。
すでに出来上がったオケを振れば素晴らしい演奏は出来るものの、そうでないオーケストラになるとそのオケのレベルにあわせた演奏しかできない有名指揮者などとは根本的に格の違う指揮者だったのでしょう。

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