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レイボヴィッツ(Rene Leibowitz) |ムソルグスキー:交響詩「禿山の一夜」
ムソルグスキー:交響詩「禿山の一夜」
ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1962年録音
Mussorgsky: Night On Bald Mountain
これもまたリムスキー=コルサコフによって世に出た作品
この作品はムソルグスキーの代表作となっているのですが、そして、それはその通りなのですが、細かく見ていくと幾つかのエクスキューズがつかざるを得ません。
まずは、この作品は合唱と管弦楽のための作品として構想されたものなのですが、残されたのはピアノ譜だけでした。もとはオペラ「ソロチンツィの定期市」の中の間奏曲として構想されたものなのですが、ムソルグスキーにはよくある話の「未完のままの放置」によって、そうなった次第です。
ただし、そこで構想された「間奏曲」は物語とは直接関係のない「悪魔の饗宴」を描いたものだったので、それならば、放置されたオペラとは関係無しに管弦楽曲として完成させたのがリムスキー=コルサコフだったのです。タイトルも、この作品の遠い原型となった「兀山のヨハネ祭の夜」にちなんで交響詩「兀山の一夜」となった次第です。
その意味では、音楽の骨格部分は紛れもなくムソルグスキーのものなのですから、これを彼の代表作に数え上げることになんの不都合もありません。しかしながら、そう言う骨格部分を一つにまとめ上げ華麗なオーケストレーションを施した功績は疑いもなくリムスキー=コルサコフにあります。ですから、これを交響詩「兀山の一夜」(リムスキー=コルサコフ版)と呼ぶのは実に正しい表記の仕方だと言えるのです。
なお、この楽譜の冒頭には次のような説明が付けられています。
「治下から響いてくる不気味な声。闇の精たちの登場。続いて闇の王チェルノボグの出現。チェルノボグに対する賛美と暗黒ミサ。魔女たちのサバドの饗宴。この狂乱が絶頂に達したとき、遠く野村の教会の鐘が鳴り始め闇の精たちは退散する。そして夜明け。」
驚くほどに精緻で知的なムソルグスキー
ルネ・レイボヴィッツ指揮とロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団によって録音された「展覧会の絵」と「禿山の一夜」は、一枚のアルバムにまとめられて「The Power Of The Orchestra」というタイトルが付けられてRCAからリリースされました。
曲目が「展覧会の絵」と「禿山の一夜」で、タイトルが「The Power Of The Orchestra」なのですから、さぞやとんでもない「ブッチャキサウンド」が聞けるのかと思いきや、これがそれとは全く真逆、驚くほどに精緻で知的なムソルグスキーが展開されるのです。
考えてみれば指揮者がレイボヴィッツなのですから、そんな馬鹿げた音楽になるはずはないのです。にもかかわらずアルバムのタイトルを「The Power Of The Orchestra」としたレコード制作側のセンスは誉められたものではないでしょう。
ただし、そう言うタイトルをこ付けた理由は、納得は出来ないものの、幾つかの理由は思い当たります。
一つめは、これがとんでもないほどの優秀録音だと言うことです。
この当時のRCAはDeccaと提携関係を結んでいました。ですから、ヨーロッパでの録音に関してはRCAはDeccaの録音陣に丸投げをしていました。逆もまた真であって、Deccaもまたアメリカでの録音はRCAに丸投げをしていたようです。
このいい加減さが、後に提携関係が解消されたときに、音盤の権限がどちらにあるのかを仕分けるときに大きな混乱を招く要因となったようです。
ですから、この録音はRCAからリリースされたのですが実際に録音に携わったのはDeccaの録音陣であり、エンジニアはケネス・ウィルキンソン(Kenneth Wilkinson)だったのです。そして、数多くの優秀録音を残したウィルキンソンにとっても、このレイホヴィッツとの録音はとびきり優秀な一枚だったのです。
そして、そう言う極めつけの優秀録音が生み出す迫力のあるオーケストラの響きゆえに「The Power Of The Orchestra」というタイトルが閃いたのかもしれません。
しかし、そこで展開される音楽は驚くほどに知的なものであって、「The Power Of The Orchestra」と言うタイトルから誤解されるような勢いだけの音楽とは最も遠い位置にある音楽です。
おそらく、これほどに知的で精緻な「展覧会の絵」はなかなか他で聞けるものでないことだけは確かです。
もう一つの理由は、「禿山の一夜」の方は何ともいえずおどろおどろしい雰囲気になっている事です。そして、その雰囲気が何処か「The Power Of The Orchestra」というタイトルに結びついてしまったのかもしれません。
しかしながら、よく聞いてみれば、その「禿山の一夜」は怪しげな雰囲気にあふれているにもかかわらず「展覧会の絵」に劣る事がないほどの精緻な演奏なのです。
これは実に不思議な感覚を呼び起こすのですが、その原因はスコアに大幅な改変が加えられているからです。
「禿山の一夜」はすでに何曲かアップしてあるので聞き比べてもらえればすぐに分かると思うのですが、例えば、フリッツ・ライナー指揮&シカゴ交響楽団による真っ当なR=コルサコフ編の「禿山の一夜」と較べてみれば違う曲になっているのではないかと思うほどに改変されています。そして、その改変がもともとからしておどろおどろしいこの音楽をより一層妖しいものにしてしまっているのです。
しかい、誤解の無いように言い添えておきますが、その妖しさが実に精緻に表現されているのこの録音の特徴です。
これは考えてみれば不思議な話です。
何故ならば、この時代にあってレイボヴィッツと言えば「新即物主義」の旗手の一人とも言うべき存在だったからです。それは、彼が同じロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と録音したベートーベンの交響曲全集を聞けばすぐに納得がいくはずです。
何よりも作曲家の意図を尊重することを原理原則とする指揮者が、何故か「禿山の一夜」にかんしてだけは信じがたいほどの改変を行っているのです。
しかしながら、さらにじっくりと考えてみれば、この「禿山の一夜」はもともとがリムスキー=コルサコフによって編曲されたものでした。最近になってムソルグスキー自身の手になる原典版が発見されたようなのですが、この時代にはリムスキー=コルサコフによって編曲されたヴァージョンを使用するのが一般的でした。
そして、おそらく、レイホヴィッツにしてみればラヴェル編曲による「展覧会の絵」は我慢は出来ても、リムスキー=コルサコフ編曲による「禿山の一夜」には我慢できない部分があったのでしょう。それ故に、「禿山の一夜」にかんしては、よりムソルグスキー自身の意図に近いと思われる形に書き直したのだとすれば、彼の「新即物主義」という原理・原則とも矛盾しないことになります。
もっともも、そんな小難しいことなどは考えなくても、聞いてみてこれほど面白い「禿山の一夜」はないのですから、要はそれだけで十分なのかもしれません。
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