Home|
ヤッシャ・ホーレンシュタイン(Jascha Horenstein)|ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 , Op.68
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 , Op.68
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 フランス国立放送管弦楽団 1957年12月録音
Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op. 68 [1.Un poco sostenuto - Allegro]
Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op. 68 [2.Andante sostenuto]
Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op. 68 [3.Un poco allegretto e grazioso]
Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op. 68 [4.Piu andante - Allegro non troppo, ma con brio - Piu allegro]
ベートーヴェンの影を乗り越えて
ブラームスにとって交響曲を作曲するということは、ベートーヴェンの影を乗り越えることを意味していました。それだけに、この第1番の完成までには大変な時間を要しています。
彼がこの作品に着手してから完成までに要した20年の歳月は、言葉を変えればベートーヴェンの影がいかに大きかったかを示しています。そうして完成したこの第1交響曲は、古典的なたたずまいをみせながら、その内容においては疑いもなく新しい時代の音楽となっています。
の交響曲は、初演のときから第4楽章のテーマが、ベートーヴェンの第9と似通っていることが指摘されていました。それに対して、ブラームスは、「そんなことは、聞けば豚でも分かる!」と言って、きわめて不機嫌だったようです。
確かにこの作品には色濃くベートーヴェンの姿が影を落としています。最終楽章の音楽の流れなんかも第9とそっくりです。姿・形も古典派の交響曲によく似ています。
しかし、ここに聞ける音楽は疑いもなくロマン派の音楽そのものです。
彼がここで問題にしているのは一人の人間です。人類や神のような大きな問題ではなく、個人に属するレベルでの人間の問題です。
音楽はもはや神をたたるものでなく、人類の偉大さをたたえるものでもなく、一人の人間を見つめるものへと変化していった時代の交響曲です。
しかし、この作品好き嫌いが多いようですね。
嫌いだと言う人は、この異常に気合の入った、力みかえったような音楽が鬱陶しく感じるようです。
好きだと言う人は、この同じ音楽に、青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感に魅力を感じるようです。
私は、若いときは大好きでした。
そして、もはや若いとはいえなくなった昨今は、正直言って少し鬱陶しく感じてきています。(^^;;
かつて、吉田秀和氏が、力みかえった青春の澱のようなものを感じると書いていて、大変な反発を感じたものですが、最近はこの言葉に幾ばくかの共感を感じます。
それだけ年をとったということでしょうか。
なんだか、リトマス試験紙みたいな音楽です。
どうしてマイナーな小道を歩み続けたのか
ホーレンシュタインという指揮者は本当に謎としか言いようがありません。戦前はフルトヴェングラーの助手も務め順調にキャリアを積み上げていったのですが、ナチスの台頭でアメリカに亡命を余儀なくされ、戦後は1949年にヨーロッパに復帰するものの特定のポストに就くことはなく、終生客演指揮者として活動を続けました。
また、録音活動もほとんどがマイナー・レーベルが中心で、50年代はVox、そして60年代はReader's Digest等です。
それでは、指揮者としての能力に欠けていたので常任指揮者としてお呼びがかからなかったのか、さらには、メジャー・レーベルからオファーがなかったのかと言えば、それが全く持ってそうではないのです。
それは、VoxやReader's Digestに残した録音を聞けば一目瞭然(一聴瞭然?)です。
50年代にウィーン交響楽団と名乗ることが出来ずにウィーン・プロ・ムジカ管弦楽団としてVoxで録音した一連の演奏も見事なものでしたが、60年にReader's Digestで行った録音も実に見事なものです。さらには幾つか残されているライブ録音を聞いても然りです。
まず気づくのは、どの作品においてもやや遅めのテンポを採用していることです。
一般的に遅めのテンポというのはクレンペラーのように構築性を押し出すためや、クナパーツブッシュのように音楽にうねりをもたらして巨大化を図るために採用されたりするのですが、ホーレンシュタインの遅さはそのようなものとは全く異なります。
彼は、やや遅めのテンポを設定することで、柔らかく自然な流れをつくり出すことを目的としているのです。
それはドヴォルザークの「新世界より」ではもっとも顕著なのですが、ブラームスの第1番もフィナーレに向かって実に柔らかで自然でふくよかな雰囲気を醸し出しています。
もちろん、ワーグナーの一連の音楽でも同様で、とりわけ「ジークフリート牧歌」の優雅さは特筆ものでしょう。
そして、もう一つ注目したいのは、彼が紡ぎ出すオーケストラの音色の温かさです。おそらくは、各楽器のブレンドの仕方がこの上もなく絶妙で、やや厚めの低声部の響きを土台としてこの上もなく暖色系の美しい響きをつくり出します。そして、そう言う音色の魅力は50年代のウィーン・プロ・ムジカ管弦楽団(実態はウィーン響)で顕著だったのですが、それがロイヤル・フィルやロンドン響のようなイギリスのオケ、そして良く指揮台に立ったフランス国立放送管弦楽団のようなフランスのオケになっても本質的には変わらないのです。
ですから、この響きはまさにホーレンシュタイン独自のものだと言えます。
そう言えば、チェリビダッケなんかも晩年は妥協することなく彼独自の響きを求めたものですが、それと同じようなことを客演指揮で実現してしまうと言うのは驚くべきコントロール能力です。もっとも、チェリビダッケもまた客演指揮であっても鬼のようなリハーサルでどんなオケでも自ら望む響きに買えていましたが、ホーレンシュタインにはその様な強引さは見あたらないところが凄いです。
さらに、驚くべきはそう言う美しく自然に音楽が流れる中で、ここぞという場面では一気に迫力を持って畳み込んでくるのです。それは、50年代の録音ではいささか物足りなさを感じる部分であったのですが、60年代のReader's Digestでの録音ではその殻を打ち破っています。
そして、それは褒めすぎかもしれませんが、どこか彼の師であるフルトヴェングラーを思い出させる瞬間があります。
だから、実にもって不思議なのです。
これだけの能力を持った指揮者がどうしてマイナーな小道を歩み続けたのか?
おそらくは、まわりに見る目がなかったのではなくて、それが彼にとってもっとも心地よく音楽と向き合える環境だったのでしょう。
この演奏を評価してください。
- よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
- いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
- まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
- なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
- 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
5175 Rating: 5.4/10 (90 votes cast)
よせられたコメント
2022-12-08:小林正樹
- 感心+感動(心からの拍手を!)。
仏国立が美しすぎ。フルートソロ+第2奏者(フィナーレの、あの厭らしく難しい個所を、美しい迫力で吹き切ったね。フルートセクション万歳だ)
弦セクションも鳩尾の下あたりから美音でグイグイ迫ってくるなぁ。
管弦楽の面白さ全開です。当然このメンバーをリードしたホーレンシュタインは、掛け値なし。真実のマエストロでしょうよ!
めったに聴けるブラームスじゃあねえよ。永久保証付き!
ブルーさん、アップを有難う。感謝以外何物も無しです。
【最近の更新(10件)】
[2024-12-01]
グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲イ短調 作品82(Glazunov:Violin Concerto in A minor, Op.82)
(Vn)ナタン・ミルシテイン:ウィリアム・スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団 1957年6月17日録音(Nathan Milstein:(Con)William Steinberg Pittsburgh Symphony Orchestra Recorded on June 17, 1957)
[2024-11-28]
ハイドン:弦楽四重奏曲 ハ長調「鳥」, Op.33, No.3,Hob.3:39(Haydn:String Quartet No.32 in C major "Bird", Op.33, No.3, Hob.3:39)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1931年12月1日録音(Pro Arte String Quartet Recorded on December 1, 1931)
[2024-11-24]
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98(Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)