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シューリヒト(Carl Schuricht)|ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90
カール・シューリヒト指揮:バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団 1962年9月録音
Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [1.Allegro con brio]
Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [2.Andante]
Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [3.Poco allegretto]
Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [4.Allegro]
秋のシンフォニー
私は長らくブラームスの音楽が苦手だったのですが、その中でもこの第3番のシンフォニーはとりわけ苦手でした。
理由は簡単で、最終楽章になると眠ってしまうのです(^^;(さすがに、今はそんな事はなくなりましたが・・・)
今でこそ交響曲の最後がピアニシモで消えるように終わるというのは珍しくはないのですが、ブラームスの時代にあってはかなり勇気のいることだったのではないでしょうか。
某有名指揮者が日本の聴衆のことを「最初と最後だけドカーンとぶちかませばブラボーがとんでくる」と言い放っていましたが、確かに最後で華々しく盛り上がると聞き手にとってはそれなりの満足感が得られることは事実です。
そういうあざとい演奏効果をねらうことが不可能なだけに、演奏する側にとっても難しい作品だといえます。
第1楽章の勇壮な音楽ゆえにか、「ブラームスの英雄交響曲」と言われたりもするのに、また、第3楽章の「男の哀愁」が滲み出すような音楽も素敵なのに、「どうして最終楽章がこうなのよ?」と、いつも疑問に思っていました。
つまりは、第1楽章が英雄的な勇壮さを持っていて、第3楽章が際だってメロディックであり、最後はピアニシモで終わると言うことで、全体的なバランスの悪さは否定できないような気するのです、ですから、ブラームスの4曲の交響曲の中でも、そのアンバランス故に、指揮者にとってもオケにとっても難しい作品だといえるでしょう。
しかしながら、ふと気がついたのが、これは「秋のシンフォニー」だという思いです。あー、また私の悪い文学的解釈が始まったとあきれている人もいるでしょうが、まあお付き合いください。
この作品、実に明るく、そして華々しく開始されます。しかし、その明るさや華々しさが音楽が進むにつれてどんどん暗くなっていきます。明から暗へ、そして内へ内へと音楽は沈潜していきます。
そういう意味で、これは春でもなく夏でもなく、また枯れ果てた冬でもなく、盛りを過ぎて滅びへと向かっていく秋の音楽だと気づかされます。
そして、最終楽章で消えゆくように奏されるのは第一楽章の第1主題です。もちろん夏の盛りの華やかさではなく、静かに回想するように全曲を締めくくります。
そう思うと、最後が華々しいフィナーレで終わったのではすべてがぶち壊しになることは容易に納得ができます。
人生の苦さをいっぱいに詰め込んだシンフォニーです。
ブラームスと共鳴する何か
シューリヒトという指揮者はベートーベンであれ何であれ、己の理性というか知性というか、そう言うものの中に取り込んで、その枠の中からはみ出すことなくスッキリと仕上げてしまうと言う印象があります。
それは、シューマンやブルックナーのような癖の強い作品であっても事情は変わりません。
それ故に「偉大な解釈者」と評価され、「作曲家の作品に対して完全に一歩下がった芸術的な謙虚さ」をもった指揮者だと褒め讃えられてきたのです。そして、その事を私は彼の芸術が持っている「軽み」と表現しました。暑苦しさとは一切無縁のスッキリとした彼の表現を好む人は少なくありません。
ところが、不思議なことに、彼のブラームスの録音を聞いていると、なんだか常とは違うものを感じてしまうのです。
それは、いつもは作品を完璧に解釈してその枠の中でスッキリと構成している彼が、ブラームスの場合はそう言う理性の中に己を押し留めることが耐えかねるようなのです。
結果として、その理性の奥に秘めている主情性のようなものがあちこちでこぼれ出すような雰囲気があるのです。
この北西ドイツ交響楽団との1958年のライブ録音などもその典型と言えるでしょう。1956年のウィーンフィルとの未完成の録音においてカルショーから耄碌したと酷評されたシューリヒトですが、なかなかどうして、こういうライブ録音を聞く限りでは覇気満々ですし、オケに対する統率力も見後なものです。そして、こういう演奏の延長線上に、彼のブラームス録音の中でももっとも有名な
コンサートホールでの4番の録音も存在したのでしょう。(バイエルン放送交響楽団 1961年9月録音)
シューリヒトにしてみれば最晩年の録音にあたると思うのですが、そこには指揮者としての衰えを指摘されながらも、それでも最後まで戦い続ける「老いたるチャンピオン」の覇気を感じました。
そうして考えてみれば、ブラームスというのは内に強烈なロマン主義的感情を持ちながらも、それを古典派の正統的スタイルの中に押し留めようとした人でした。
そして、その姿勢は、ブラームスとシューリヒトの間に、作曲家と演奏家という違いはあってもどこか互いに共鳴するものがあったのかもしれません。
そして、そう言う共鳴する部分が二人の中で重なり合うような場面にくると、シューリヒトもまた常の己を忘れて奥に秘めていた主情性が前に出てしまったのでしょうか。
面白いのは、それはライブでの演奏だけでなく、スタジオで録音したウィーンフィルやバーデン=バーデンのオケとの演奏でも同じ姿を垣間見ることが出来ることです。
シューリヒトにとってブラームスというのは、どこか特別な意味を持たざるを得ない特別な存在だったのかもしれません。
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