Home|
トスカニーニ(Arturo Toscanini)|モーツァルト:交響曲第40番ト短調K.550
モーツァルト:交響曲第40番ト短調K.550
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1938年3月7日&1939年2月27日録音
Mozart:Symphony No.40 in G minor, K.550 [1.Molto Allegro]
Mozart:Symphony No.40 in G minor, K.550 [2.Andante]
Mozart:Symphony No.40 in G minor, K.550 [3.Menuetto]
Mozart:Symphony No.40 in G minor, K.550 [4.Allegro assai]
これもまた、交響曲史上の奇跡でしょうか。
モーツァルトはお金に困っていました。1778年のモーツァルトは、どうしようもないほどお金に困っていました。
1788年という年はモーツァルトにとっては「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」を完成させた年ですから、作曲家としての活動がピークにあった時期だと言えます。ところが生活はそれとは裏腹に困窮の極みにありました。
原因はコンスタンツェの病気治療のためとか、彼女の浪費のためとかいろいろ言われていますが、どうもモーツァルト自身のギャンブル狂いが一番大きな原因だったとという説も最近は有力です。
そして、この困窮の中でモーツァルトはフリーメーソンの仲間であり裕福な商人であったブーホベルクに何度も借金の手紙を書いています。
余談ですが、モーツァルトは亡くなる年までにおよそ20回ほども無心の手紙を送っていて、ブーホベルクが工面した金額は総計で1500フローリン程度になります。当時は1000フローリンで一年間を裕福に暮らせましたから結構な金額です。さらに余談になりますが、このお金はモーツァルトの死後に再婚をして裕福になった妻のコンスタンツェが全額返済をしています。コンスタンツェを悪妻といったのではあまりにも可哀想です。
そして、真偽に関しては諸説がありますが、この困窮からの一発大逆転の脱出をねらって予約演奏会を計画し、そのための作品として驚くべき短期間で3つの交響曲を書き上げたと言われています。
それが、いわゆる、後期三大交響曲と呼ばれる39番?41番の3作品です。
完成された日付を調べると、39番が6月26日、40番が7月25日、そして41番「ジュピター」が8月10日となっています。つまり、わずか2ヶ月の間にモーツァルトは3つの交響曲を書き上げたことになります。
これをもって音楽史上の奇跡と呼ぶ人もいますが、それ以上に信じがたい事は、スタイルも異なれば性格も異なるこの3つの交響曲がそれぞれに驚くほど完成度が高いと言うことです。
39番の明るく明晰で流麗な音楽は他に変わるものはありませんし、40番の「疾走する哀しみ」も唯一無二のものです。そして最も驚くべき事は、この41番「ジュピター」の精緻さと壮大さの結合した構築物の巨大さです。
40番という傑作を完成させたあと、そのわずか2週間後にこのジュピターを完成させたなど、とても人間のなし得る業とは思えません。とりわけ最終楽章の複雑で精緻きわまるような音楽は考え出すととてつもなく時間がかかっても不思議ではありません。
モーツァルトという人はある作品に没頭していると、それとはまったく関係ない楽想が鼻歌のように溢れてきたといわれています。おそらくは、39番や40番に取り組んでいるときに41番の骨組みは鼻歌混じりに(!)完成をしていたのでしょう。
我々凡人には想像もできないようなことではありますが。
正直に言うとね、僕は時々モーツァルトの音楽にうんざりするんだ
トスカニーニはモーツァルトに関してはあまり積極的ではなかったようです。オペラに関しても「魔笛」をのぞけばほとんど取り上げていないはずです。
あるインタビューで「正直に言うとね、僕は時々モーツァルトの音楽にうんざりするんだ。」と述べていましたが、そのあとに「でもト短調、これは偉大なる悲劇だよ、それと、コンチェルトは別だよ。」という言葉を付け加えていました。
つまりは、彼がモーツァルトの音楽を全く評価していなかったわけではないのですが、その評価はかなり微妙なものだったようです。
インタビューの言葉を考えれば、トスカニーニにとってモーツァルトはそれほど積極的にあれこれと取り上げたくなる作曲家ではなかったようです。
とはいえ、例えば、ここで紹介している後期の三大交響曲のような作品ならば、どこかで取り上げる必要はあったでしょうし、何よりも多くの聴衆はトスカニーニの棒でそれらの作品を聞きたいと思ったことでしょう。
幸いにして、録音年代は古いのですが、音質は決して悪くはありません。一番古い40番にしても、貧しい音を我慢して聞き通すというような苦労とは全く無縁です。それよりは、46年録音の「ジュピター」の方がやや響きがやせ気味かもしれませんが、巨大な構築物を見上げるような最終楽章の壮麗さは十分に味わうことが出来ます。
今さらいうまでもないことですが、ワルター的なモーツァルトをここで求めればその期待は大きく裏切られます。
ここにあるのは、あのマルケヴィッチが50年代に録音したようなシャープで鋭利なモーツァルト像に、さらなる凄みと勢いを持たせたような音楽です。とりわけ、48年に録音された39番の交響曲はおそらく「限界」をこえているでしょう。
フレーズは短めに切り上げてともすれば前のめりになりがちなのがトスカニーニの特長なのですが、第3楽章からの突き進み方は聞いていて思わず仰け反ってしまいます。しかし、それでもメヌエット楽章のトリオは十分にモーツァルト的な美しさを失っていないのが不思議です。
それから、この交響曲の最終楽章はどの演奏を聞いても「あれ、ここで終わり?」みたいな消化不良の思いが残ってしまうのですが、このスピードで突き進んだ上でのこの終わり方ならば「ああ、これで終わりね!」と納得してしまいます。
まさか、そこまで計算に入れてこのテンポを設定したのではないではないでしょうが、異形は異形なりに筋が通っています。
それに対して、ト短調シンフォニーとジュピターはある意味ではハイドン的な純音楽的な構築を聞き取ることが出来ます。しかし、フレーズをそれほど短く切り上げてもいないし前のめりにもなっていないので、そこに立ちあらわれるのはモーツァルト的なるものの「結晶体」です。
おそらく、モーツァルトのエッセンスを抽出して、ここまで見事な結晶体に仕上げることが出来た指揮者はそれほどいないでしょう。
とりわけ、ト短調シンフォニーに関しては「偉大なる悲劇だよ」と彼が語ったように、この上もなく透明感を持った「悲劇の結晶体」になっています。ただし、その結晶はそれほど尖ってはいないようです。これは、トスカニーニとしては珍しいことかもしれませんし、ジュピターに関しても同じような傾向があります。
と言うことで、39番はさすがに「異形」と言うしかないのですが、残りのト短調とハ長調はトスカニーニ・マニア御用達だけの音楽にはなっていません。
「正直に言うとね、僕は時々モーツァルトの音楽にうんざりするんだ。」と言いながらも、取り組んだ以上はそれなりのクオリティの音楽に仕上げてしまうのがトスカニーニの凄いところなのでしょう。
この演奏を評価してください。
- よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
- いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
- まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
- なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
- 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
4499 Rating: 5.2/10 (70 votes cast)
よせられたコメント
2021-02-02:コタロー
- トスカニーニのこの演奏を一聴して驚いたのは、第1楽章の第1主題に、軽いポルタメントがかけられていることです。このことに象徴されるように、曲全体がしなやかで透徹した美しさに貫かれているのが魅力です。
ちなみに、私の手元には、トスカニーニが1950年に録音したこの曲を収めたCDがあるので、試しに聴いてみました。
1950年の録音は、より完成度の高い演奏ですが、全体に少し取り澄ました感じがします。
結果的には、トスカニーニ自身がより若い(といっても70代初めですが)この演奏に軍配が上がりそうです。
彼の「ジュピター」のアップも楽しみにしております。
2021-02-02:CanBeetho
- 私はモーツァルトを敬遠し続けてきました。ベートーヴェンの交響曲を千回聴いてようやく1回聴くかどうかくらいです。
ところが今回、管理人さんの解説で、私が最大級に評価しているトスカニーニが「モーツァルトの音楽にうんざりするんだ」と述べたらしいと知り、ちょっとうれしくなりました。そして演奏も聴かせてもらいました。
まず驚いたといいますか少々しゃくだったのが、ベートーヴェンの交響曲よりも音がいいことです。私はきわめて安いパソコンを使っていますが、それでも違いは明らかです。
そもそもベートーヴェンの第3番や7番の冒頭に典型的な、音を瞬間的に減衰・消音させるような不自然さがありません。ピアノや弦楽器ならともかく管楽器が一瞬で消音させることはありえないはずです。
レコードに加工される以前の録音が残っていて、それから最新の音響工学によるトスカニーニのベートーヴェンの復刻版が出てほしい、というのが私の見果てぬ夢です。
話がモーツァルトからはずれて恐縮です。そういえば、つい先日のラジオで、モーツァルトは少年時代に天然痘に感染して生死の境をさまよったと言ってました。
【最近の更新(10件)】
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-01]
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)