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ブルックナー:交響曲第9番 二短調(ノヴァーク版)

オイゲン・ヨッフム指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1964年12月録音



Bruckner:Symphony No.9 in D minor, WAB 109 [1.Feierlich, misterioso]

Bruckner:Symphony No.9 in D minor, WAB 109 [2.Scherzo. Bewegt, lebhaft; Trio. Schnell]

Bruckner:Symphony No.9 in D minor, WAB 109 [3.Adagio. Langsam, feierlich]


ブルックナーの絶筆となった作品です

しかし、「白鳥の歌」などという感傷的な表現を寄せ付けないような堂々たる作品となっています。ご存じのようにこの作品は第4楽章が完成されなかったので「未完成」の範疇にはいります。
もし最終楽章が完成されていたならば前作の第8番をしのぐ大作となったことは間違いがありません。

実は未完で終わった最終楽章は膨大な量のスケッチが残されています。専門家によると、それらを再構成すればコーダの直前までは十分に復元ができるそうです。
こういう補筆は多くの未完の作品で試みられていますが、どうもこのブルックナーの9番だけはうまくいかないようです。今日まで何種類かのチャレンジがあったのですが、前半の3楽章を支えきるにはどれもこれもあまりにもお粗末だったようで、今日では演奏される機会もほとんどないようです。

それは補筆にあたった人間が「無能」だったのではなく、逆にブルックナーの偉大さ特殊性を浮き彫りにする結果となったようです。

ブルックナー自身は最終楽章が未完に終わったときは「テ・デウム」を代用するように言い残したと言われています。その言葉に従って、前半の3楽章に続いて「テ・デウム」を演奏することはたまにあるようですが、これも聞いてみれば分かるように、性格的に調性的にもうまくつながるとは言えません。

かといって、一部で言われるように「この作品は第3楽章までで十分に完成している」と言う意見にも同意しかねます。
ブルックナー自身は明らかにこの作品を4楽章構成の交響曲として構想し創作をしたわけですから、3楽章までで完成しているというのは明らかに無理があります。

天国的と言われる第3楽章の集結部分を受けてどのようなフィナーレが本当は鳴り響いたのでしょうか?永遠にそれは聞くことのできない音楽だけに、無念は募ります。



剛毅な部分と柔らかい部分が上手く融合していますし、色んな意味でヨッフムの乱暴さがいい形で出ている

ヨッフムのブルックナーと言えば一つのブランドでもあります。ただし、トップブランドではなく、それでも、いつの時代にも根強い支持者が存在する老舗ブランドという風情でした。
ですから、彼は生涯に二度、ブルックナーの交響曲全集を完成させています。そして、ここで紹介しているブルックナー録音はその最初の方の全集に収録されているものです。
いうまでもないことですが2度目の全集は1975年から1980年にかけてシュターツカペレ・ドレスデンとのコンビで録音されています。

最初の全集は、バイエルン放送交響楽団とベルリン・フィルを使って録音されていて、録音年順に並べると以下の通りとなっています


  1. 交響曲第5番変ロ長調(ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 録音時期:1958年2月

  2. 交響曲第8番ハ短調(ノヴァーク版) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1964年1月

  3. 交響曲第7番ホ長調 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1964年10月

  4. 交響曲第9番二短調(ノヴァーク版)ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1964年12月

  5. 交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」(1886年稿ノヴァーク版) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1965年7月

  6. 交響曲第1番ハ短調 (リンツ稿ノヴァーク版): ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1965年10月

  7. 交響曲第6番イ長調(ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 録音時期:1966年7月

  8. 交響曲第2番ハ短調(ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 録音時期:1966年12月

  9. 交響曲第3番二短調(1889年稿ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 録音時期:1967年1月



58年に第5番を録音したときは、それが全集になると言うことは全く想定していなかったでしょう。おそらくは、自分が得意とする作品を単発で世に問うという録音だったと思われます。だからと言うわけではないのでしょうが、この全集の中でも優れた部類の演奏に仕上がっているように感じます。
特に最終楽章の壮大な盛り上がりは結構聴き応えがあります。ただし、この少し前にクナ&ウィーンフィルによるお化けみたいな録音があるのでどうしても印象が薄くなってしまうのが悲しいところです。

この後の録音のスケジュールを眺めてみれば、7,8,9番が64年、4,1番が65年、そして6,2番が66年、3番が67年に録音されて全集として完成していますから、64年1月の8番を録音した時点では全集が視野に入っていたものと想像されます。そして、この全集はベルリンフィルを使って完成させるつもりだったのでしょうが、66年からはオケが手兵のバイエルン放送交響楽団に変わっています。
これもまた、想像の域を出ませんが、おそらくはカラヤン&ベルリンフィルの活動が忙しくなって、ヨッフム相手にブルックナーのマイナー作品なんかは録音している暇がなくなったのでしょう。

しかし、結果的に見れば、オケがここで変わったことはよかったようです。
こういう書き方をすると顰蹙を買いそうなのですが、ヨッフムという指揮者の魅力は乱暴さにあると思われます。ついでながら、我らが朝比奈隆も随分と乱暴な指揮者であって、そう言う乱暴さというのは何故かブルックナーとは相性がいいのです。
そして、そう言う乱暴さが持つ美質というものは、「レガート・カラヤン」の色がしみ込みはじめていたベルリンフィルとは相性がいいとは思えなかったのです。

64年からヨッフムはベルリンフィルとブルックナーの録音をはじめるのですが、64年と言えばすでにカラヤンとの間でベートーベンの交響曲を全曲録音した後です。
カラヤンという男は傲慢な男のように見えて結構賢い奴で、ベルリンフィルの「終身首席指揮者兼芸術総監督」というポストを手に入れても、己のやり方をすぐに押しつけるようなことはしませんでした。それこそ時間をかけて少しずつ自分好みの色に染めていったという雰囲気が濃厚です。そして、その「色に染める」最終過程が61年から62年にかけて行われたベートーベンの交響曲録音でした。

ですから、64年と言えば、ベルリンフィルはすでにドイツの田舎オケの風情は失ってしまい、完全にカラヤンのオケになってしまっていました。
そんなオケにヨッフムが乗り込んでみても、すでに「レガート・カラヤン」の色がしみ込みはじめていたこのオケから出てくる響きはどこか軟体動物のようなものでした。

もちろん、こういうオケの響きのような繊細な問題を録音だけで判断するのは危険であることは承知していま。しかし、66年からのバイエルンとの録音から聞くことが出来る響きとは異質であることは間違いありません。
例えば、この全集の最後を締めくくる第3番の録音から聞こえてくるオケの響きは、カラヤンの色に染まったオケの響きとは全く異質です。
そして、個人的には、こういう軟体動物のような芯のはっきりしない響きでブルックナーを聞かされるのはあまり嬉しくはありません。

さらに言えば、ベルリンフィルに対してヨッフムの指示は十分に貫徹していないようにも思えます。
それもまた、ヨッフムは基本的に乱暴な指揮者であって、カラヤンのような技巧的な指揮者ではないことに原因があります。

カラヤンのもとで、ベルリンフィルは指揮者が出す適切な指示に対して機敏に反応する「機能的なオケ」に変身していました。
ですから、ヨッフムのような乱暴な指揮者のもとでは曖昧な部分は自分たちのやりやすいように適当に演奏するしかなかったのかも知れません。

まあ私ごときがヨッフムに対して偉そうなことが言えた話ではないのですが、それでもヨッフムというのは余所のオーケストラに乗り込んで、短時間で掌握して的確に指示を出せるようなタイプの指揮者でなかったことだけは事実です。

ドイツグラモフォンにしてみればベルリンフィルと組んだ方が売れると判断したのでしょうが、出来れば手兵のバイエルン放送交響楽団だけで全集を完成させてほしかったです。
ただし、私が軟体動物のようだと感じた8番の録音に対してヨッフムらしい剛毅さが現れた演奏と絶賛する向きもあるのですから、もしかしたら私の聴き方が悪いのかもしれませんが・・・。

それから、ここで紹介しているブルックナーの最後の交響曲となった第9番に関して言えば、これは意外なまでに剛毅な部分と柔らかい部分が上手く融合しています。それから、歌い回しに関してもかなり自由に振る舞っているようで、色んな意味でヨッフムの乱暴さがいい形で出ていると思います。ただし、その乱暴さが翌年の第4番「ロマンティック」になると影をひそめてしまうのはどうしてどうしてだったのでしょうか。
個人的にはヨッフムとベルリンフィルとで録音したブルックナーの中ではこれが一番のお気に入りかもしれません。

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