Home|
カイルベルト(Joseph Keilberth)|モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551
モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551
カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音
Mozart:Symphony No.41 in C major K551 "Jupiter" [1.Allegro vivace]
Mozart:Symphony No.41 in C major K551 "Jupiter" [2.Andante cantabile]
Mozart:Symphony No.41 in C major K551 "Jupiter" [3.Menuetto: Allegretto]
Mozart:Symphony No.41 in C major K551 "Jupiter" [4.Molto Allegro]
これもまた、交響曲史上の奇跡でしょうか。
モーツァルトはお金に困っていました。1778年のモーツァルトは、どうしようもないほどお金に困っていました。
1788年という年はモーツァルトにとっては「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」を完成させた年ですから、作曲家としての活動がピークにあった時期だと言えます。ところが生活はそれとは裏腹に困窮の極みにありました。
原因はコンスタンツェの病気治療のためとか、彼女の浪費のためとかいろいろ言われていますが、どうもモーツァルト自身のギャンブル狂いが一番大きな原因だったとという説も最近は有力です。
そして、この困窮の中でモーツァルトはフリーメーソンの仲間であり裕福な商人であったブーホベルクに何度も借金の手紙を書いています。
余談ですが、モーツァルトは亡くなる年までにおよそ20回ほども無心の手紙を送っていて、ブーホベルクが工面した金額は総計で1500フローリン程度になります。当時は1000フローリンで一年間を裕福に暮らせましたから結構な金額です。さらに余談になりますが、このお金はモーツァルトの死後に再婚をして裕福になった妻のコンスタンツェが全額返済をしています。コンスタンツェを悪妻といったのではあまりにも可哀想です。
そして、真偽に関しては諸説がありますが、この困窮からの一発大逆転の脱出をねらって予約演奏会を計画し、そのための作品として驚くべき短期間で3つの交響曲を書き上げたと言われています。
それが、いわゆる、後期三大交響曲と呼ばれる39番〜41番の3作品です。
完成された日付を調べると、39番が6月26日、40番が7月25日、そして41番「ジュピター」が8月10日となっています。つまり、わずか2ヶ月の間にモーツァルトは3つの交響曲を書き上げたことになります。
これをもって音楽史上の奇跡と呼ぶ人もいますが、それ以上に信じがたい事は、スタイルも異なれば性格も異なるこの3つの交響曲がそれぞれに驚くほど完成度が高いと言うことです。
39番の明るく明晰で流麗な音楽は他に変わるものはありませんし、40番の「疾走する哀しみ」も唯一無二のものです。そして最も驚くべき事は、この41番「ジュピター」の精緻さと壮大さの結合した構築物の巨大さです。
40番という傑作を完成させたあと、そのわずか2週間後にこのジュピターを完成させたなど、とても人間のなし得る業とは思えません。とりわけ最終楽章の複雑で精緻きわまるような音楽は考え出すととてつもなく時間がかかっても不思議ではありません。
モーツァルトという人はある作品に没頭していると、それとはまったく関係ない楽想が鼻歌のように溢れてきたといわれています。おそらくは、39番や40番に取り組んでいるときに41番の骨組みは鼻歌混じりに(!)完成をしていたのでしょう。
我々凡人には想像もできないようなことではありますが。
古き良きドイツのロマンティックなモーツァルト
最初の音が出てきた瞬間「野太い!!」と思って、いささか違和感を感じてしまうのはどうして?
もしかしたら、口ではピリオド演奏は否定しながらも、いつの間にかその響きに影響を受けてしまっているのでしょうか?
とはいえ、低域部をしっかりと鳴らし切ったどっしりとした響きは、例えばワルター最晩年のステレオ録音と較べてもかなりの重量級です。あのワルターのモーツァルトは、オケの響きは確かに低声部のしっかりとした響き基本としたピラミッド型の響きが特徴なのですが、全体としては内部の見通しが良くて、意外なほどにシャープな演奏に仕上がっています。それに対して、このカイルベルトの演奏は響きはどっしり、造形はごっついと言うことで、なんだかモーツァルトの優美さよりはベートーベンの剛毅さに近いような気がしてしまいます。
おそらく、こうなってしまう背景にオケのDNAみたいなものがあるのでしょう。
バンベルク交響楽団というのは、第2次世界大戦の敗北によってチェコから追放されたドイツ人によって結成されたオケです。
この「ドイツ人追放」は日本ではあまり知られていない事実です。
日本人が敗戦によって大陸から引き揚げたのは植民地支配の延長線上に起こった出来事です。しかし、この「ドイツ人追放」というのは父祖伝来の土地であったにもかかわらず、民族としてドイツ人というだけで追放されたのですから、かなり悲劇的な出来事だったようです。
追放した側にもそれなりの理由はあったのでしょうが、結果として1000万人を超えるドイツ人が生まれ育った地から追放され、その追放の途上で少なく見積もっても210万人が亡くなったとされています。
バンベルク交響楽団のメンバーはその様な過去を背負っていますから、どうしても「ドイツ」と言うことを意識せざるを得なかったのでしょう。結果として、ドイツ国内のどのオケよりもドイツらしいオケになったようです。
もちろん、「ドイツ的」という言葉の曖昧さや安易さはよく分かっています。「ドイツ的」とか「ウィーン風」とか、はたまた「アメリカナイズ」などという言葉で分かったような気になる安易さは警戒しなければなりません。しかし、ドイツのオケには、とりわけコスモポリタン化する以前のドイツのオケには、確かに他の国のオケにはない特徴があったことも事実です。
そして、その特徴を言葉だけで表現するのに困難を覚えたときに、取りあえずこれを聞いてくれと言って提示したくなるのが「カイルベルト&バンベルク交響楽団」がたたき出す響きと造形です。
ちなみに、このコンビでモーツァルトの後期交響曲を以下のように録音しています。
- 交響曲第35番「ハフナー」 K385 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1963年録音
- 交響曲第36番 ハ長調 「リンツ」 K386 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1963年録音
- 交響曲第38番 ニ長調 K.504 「プラハ」 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1955年録音
- 交響曲第39番 変ホ長調 K.543 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1955年録音
- 交響曲第40番 ト短調 K.550 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音
- 交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音
さらにこのコンビの最大の美点は管楽器の伸びやかな美しさです。その美点はこの交響曲の中でも十分に感じ取れますが、それ以上に堪能できるのがセレナードやディヴェルティメントです。曲のあちこちで管楽器が実に楽しげに飛び跳ねます。特に、「ディヴェルティメント第2番」などは出色です。
交響曲では少し重いかなと(かなり重い・・・?^^;)と思ったのですが、この飛び跳ねる管楽器とそれを支える弦楽器の絡み合いは、これぞ古き良きドイツのロマンティックなモーツァルトだと納得させられます。
- セレナード第6番 ニ長調 K.239「セレナータ・ノットゥルナ」 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音
- セレナード(ノットゥルノ)第8番 ニ長調 K.286(269a) : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音
- セレナード第13番 ト長調 K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音
- ディヴェルティメント第2番 ニ長調 K.131 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音
この演奏を評価してください。
- よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
- いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
- まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
- なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
- 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
2347 Rating: 5.6/10 (124 votes cast)
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-01]
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)