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ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98

サヴァリッシュ指揮 ウィーン交響楽団 1963年2月録音

Brahms:Symphony No.4 in E minor Op.98 [1st movement]

Brahms:Symphony No.4 in E minor Op.98 [2nd movement]

Brahms:Symphony No.4 in E minor Op.98 [3rf movement]

Brahms:Symphony No.4 in E minor Op.98 [4th movement]


とんでもない「へそ曲がり」の作品

ブラームスはあらゆる分野において保守的な人でした。そのためか、晩年には尊敬を受けながらも「もう時代遅れの人」という評価が一般的だったそうです。

 この第4番の交響曲はそういう世評にたいするブラームスの一つの解答だったといえます。
 形式的には「時代遅れ」どころか「時代錯誤」ともいうべき古い衣装をまとっています。とりわけ最終楽章に用いられた「パッサカリア」という形式はバッハのころでさえ「時代遅れ」であった形式です。
 それは、反論と言うよりは、もう「開き直り」と言うべきものでした。

 
しかし、それは同時に、ファッションのように形式だけは新しいものを追い求めながら、肝腎の中身は全く空疎な作品ばかりが生み出され、もてはやされることへの痛烈な皮肉でもあったはずです。

 この第4番の交響曲は、どの部分を取り上げても見事なまでにロマン派的なシンフォニーとして完成しています。
 冒頭の数小節を聞くだけで老境をむかえたブラームスの深いため息が伝わってきます。第2楽章の中間部で突然に光が射し込んでくるような長調への転調は何度聞いても感動的です。そして最終楽章にとりわけ深くにじみ出す諦念の苦さ!!

 それでいながら身にまとった衣装(形式)はとことん古めかしいのです。
 新しい形式ばかりを追い求めていた当時の音楽家たちはどのような思いでこの作品を聞いたでしょうか?

 控えめではあっても納得できない自分への批判に対する、これほどまでに鮮やかな反論はそうあるものではありません。


伝統と対峙した演奏

サヴァリッシュという人は「ドイツの音楽の先生」という雰囲気で、穏やかに経歴を積み重ねてきたように見えるのですが、戦時中はかなり過酷な体験を強いられたようです。
たとえば、所属部隊がレニングラードに派遣されて全滅したにもかかわらず、たまたまピアノの腕を買われて慰問演奏に出かけていて一人取り残されたとか、戦車部隊の通信兵としてイタリア戦線の最前線を転戦させられたか、さらには敗戦後も敗残兵として放浪の憂き目にあったとかです。
「芸は身をたすく」ということばがありますが、サヴァリッシュの場合は本当に言葉の意味のままに命を長らえることができたようです。

戦後はアウクスブルク歌劇場の練習指揮者をスタートラインとして、アーヘンの歌劇場、ヴィースバーデンの歌劇場、ケルンの歌劇場の音楽総監督へとキャリアの階段を駆け上っていきます。
そして、ケルンの歌劇場の音楽総監督の職を得た1960年にはウィーン交響楽団の首席指揮者も勤めることになります。

まさに、ヨーロッパの伝統とも言うべき、地方の歌劇場からのたたき上げで力を伸ばしていった指揮者です。

しかし、その演奏を聴くと、特にこのブラームスなどは意識的にヨーロッパの伝統から距離を置いて、スコアだけを頼りにもう一度自分なりのブラームス像を作り上げようという意欲が読み取れます。

もちろん、聞きようによっては、あまりにも直線的に過ぎてスケールが小さいとか、奥行きが浅いなどと言う文句も出てくるのでしょうが、そう言う物言いは注意する必要があります。なぜならば、ここでのサヴァリッシュはそう言う「伝統的なブラームス像」を意識的に避けているからです。ですから、本人が意識的に拒否しているような部分が実現していないことを持ってだめ出しをするのはあまりにも物が見えていないと言わざるを得ません。特に、1番などは意図的に力こぶが入るのを避けていることがよく分かります。4番なども同様で、この曲にまとわりついている「舞い落ちる秋の枯れ葉」みたいなイメージからは距離を置こうといている様子が手に取るように分かります。

では、ここでサヴァリッシュは何を求めているのかと言えば、それはブラームスが書いたスコアを過不足なく、かつバランスよく鳴らし切ることに力を傾注し、結果として、重くない颯爽としたブラームス像を立ち上げることです。
確かに、このサヴァリッシュの的確な指揮によって、各声部がバランス良く鳴ることによって世間で言われるほどには渋くもならず、逆に風通しの良い颯爽とした姿が浮かび上がってきます。
また、録音の方もそう言う細部の見通しを良くするために、かなりデッドな感じで音をすくい取っています。もっとも、この時代のフィリップスの録音はみんなデッドなのですが、しかし、これに関してはかなり確信犯です。

そう言えば、若い頃の小沢もこんな音楽をやっていました。
まるで、夏の朝露にぬれたような瑞々しい音楽はとても魅力的でした。
どちらも、伝統という名に胡座をかいておけば80点の平均点がとれる道を捨てて、真摯にスコアと向き合った結果がしっかりと刻み込まれています。

もちろん、そのようにして提示されたブラームス像を是とするか否とするかは人それぞれでしょう。
しかし、それでも否とするときに「フルヴェンと比べればスケールが小さいね」などと言っていると、それは聞き手もまた「怠惰の別名である伝統」の上に胡座をかいていると言われても仕方がありません。

聞くところによると、この時期、フィリップスはサヴァリッシュとウィーン交響楽団の組み合わせでモーツァルトやハイドンの交響曲をまとめて録音する計画を持っていたそうです。しかし、その計画の中心にいたプロデューサーがフィリップスを去ってしまったためにその計画は立ち消えになってしまったそうです。
実現していれば、それなりに興味深い録音が残ったと思えるので、実に残念な話ではあります。

この演奏を評価してください。

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