クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

J.S.バッハ:管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067(J.S.Bach:Orchestral Suite No.2 in B minor, BWV 1067)

クルト・レーデル指揮:(Fl)クルト・レーデル ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団 1962年2月録音(Kurt Redel:(Fl)Kurt Redel The Pro Arte Chamber Orchstra of Munich Recorded on February, 1962)



J.S.Bach:Orchestral Suite No.2 in B minor, BWV 1067 [1.Ouverture]

J.S.Bach:Orchestral Suite No.2 in B minor, BWV 1067 [2.Rondeau]

J.S.Bach:Orchestral Suite No.2 in B minor, BWV 1067 [3.Sarabande]

J.S.Bach:Orchestral Suite No.2 in B minor, BWV 1067 [4.Bourrees I & II]

J.S.Bach:Orchestral Suite No.2 in B minor, BWV 1067 [5.Polonaise & Double]

J.S.Bach:Orchestral Suite No.2 in B minor, BWV 1067 [6.Menuett]

J.S.Bach:Orchestral Suite No.2 in B minor, BWV 1067 [7.Badinerie]


ブランデンブルグ協奏曲と双璧をなすバッハの代表的なオーケストラ作品

ブランデンブルグ協奏曲はヴィヴァルディに代表されるイタリア風の協奏曲に影響されながらも、そこにドイツ的なポリフォニーの技術が巧みに融合された作品であるとするならば、管弦楽組曲は、フランスの宮廷作曲家リュリを始祖とする「フランス風序曲」に、ドイツの伝統的な舞踏音楽を融合させたものです。

そのことは、ともすれば虚飾に陥りがちな宮廷音楽に民衆の中で発展してきた舞踏音楽を取り入れることで新たな生命力をそそぎ込み、同時に民衆レベルの舞踏音楽にも芸術的洗練をもたらしました。
同様に、ブランデンブルグ協奏曲においても、ともすればワンパターンに陥りがちなイタリア風の協奏曲に、様々な楽器編成と精緻きわまるポリフォニーの技術を駆使することで驚くべき多様性をもたらしています。

ヨーロッパにおける様々な音楽潮流がバッハという一人の人間のもとに流れ込み、そこで新たな生命力と形式を付加されて再び外へ流れ出していく様を、この二つのオーケストラ作品は私たちにハッキリと見せてくれます。

ただし、自筆のスコアが残っているブランデンブルグ協奏曲に対して、この管弦楽組曲の方は全て失われているため、どういう目的で作曲されたのかも、いつ頃作曲されたのかも明確なことは分かっていません。
それどころか、本当にバッハの作品なのか?という疑問が提出されたりもしてバッハ全集においてもいささか混乱が見られます。

疑問が提出されているのは、第1番と第5番ですが、新バッハ全集では、1番は疑いもなくバッハの作品、5番は他人の作品と断定し、今日ではバッハの管弦楽組曲といえば1番から4番までの4曲ということになっています。


  1. 管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066
    荘厳で華麗な典型的なフランス風序曲に続いて、この上もなく躍動的な舞曲が続きます。

  2. 管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067
    パセティックな雰囲気が支配する序曲と、フルート協奏曲といっていいような後半部分から成り立ちます。終曲は「冗談」という標題が示すように民衆のバカ騒ぎを思わせる底抜けの明るさで作品を閉じます。

  3. 管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068
    この序曲に「着飾った人々の行列が広い階段を下りてくる姿が目に浮かぶようだ」と語ったのがゲーテです。また、第2曲の「エア」はバッハの全作品の中でも最も有名なものの一つでしょう。

  4. 管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV1069
    序曲はトランペットのファンファーレで開始されます。後半部分は弦楽合奏をバックに木管群が自由に掛け合いをするような、コンチェルト・グロッソのような形式を持っています。



J.S.バッハ:管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067



  1. 序曲 (Ouverture)
    フランス風序曲の定型(緩―急―緩)に忠実な、全曲中で最も規模の大きい楽章です
    。付点リズム(タッ、タ風の跳ねるリズム)を用いた、重厚で威厳のある宮廷風の音楽です。
    フルートと第1ヴァイオリンを中心に、軽快なフーガ(追いかけっこ)が展開されます。フルートの流れるようなソロが目立ち、協奏曲のような華やかさを見せます再び冒頭の重々しい付点リズムに戻り、格式高く締めくくります。

  2. ロンドー (Rondeau)
    「ロンド形式」を取り入れた、親しみやすく優雅なフランス風舞曲です。A-B-A-C-A のように、主要なテーマ(A)の間に異なるエピソード(BやC)が挟まれます。
    快活ながらも哀愁を帯びた、ロ短調ならではの美しいメロディが何度も繰り返されるため、耳に残りやすい楽章です。

  3. サラバンド (Sarabande)
    スペイン起源の、3拍子によるゆったりとした厳かな舞曲です。2拍目にアクセントが置かれる独特のリズムを持っています。
    バッハ得意の「カノン(模倣技法)」が使われており、高音(フルートと第1ヴァイオリン)が奏でる旋律を、1拍遅れて低音(通奏低音)がそっくりそのまま追いかけて演奏します。

  4. ブーレ I / II (Bourree I / II)
    フランス起源の、2拍子(4分の2拍子)による快活で力強い舞曲です。
    全合奏でハキハキとした推進力のあるテーマが演奏されます。対照的に、弦楽器が伴奏を止め、フルートが弦の低音だけをバックに寂しげで美しいソロを奏でます。
    ブーレI → ブーレII → 再びブーレI、という順で演奏されます。

  5. ポロネーズ (Polonaise) & ドゥブル (Double)
    ポーランドの宮廷行列に由来する、独特の節回しを持った3拍子の舞曲です。
    弦楽器の刻むリズムに乗って、フルートと第1ヴァイオリンが堂々とした気品あるテーマを歌います。
    低音(チェロなど)がポロネーズのテーマを演奏する裏で、フルートが目の覚めるような細かく華やかな変奏(装飾フレーズ)を即興的に吹き荒らします。

  6. メヌエット (Menuet)
    ルイ14世の宮廷で大流行した、もっとも有名な3拍子の宮廷舞曲です。
    非常にシンプルで無駄のない美しさを持っており、気品と哀愁が漂います。次の爆発的な終曲(バディネリ)に向けて、心を落ち着かせる嵐の前の静けさのような役割も果たしています。

  7. バディネリ (Badinerie)
    「冗談」「いたずら」「おしゃべり」を意味する、2拍子の超有名曲です。
    弦楽器の刻む軽快なリズムの上で、フルートが最初から最後まで1拍も休むことなく、激しい跳躍や細かなパッセージを演奏し続けます。
    息を継ぐ暇もないほどの圧倒的なスピード感と、フルート奏者の超絶技巧(タンギングなど)が爽快な疾走感を生み出し、組曲のフィナーレを最高潮に盛り上げます。



一つの救いのように聞こえる


40年代の終わり頃から50年代の初め頃に、何人もの若手音楽家が中心となって自主的にオーケストラを組織して、バッハ以前の音楽の復興を志しました。
リヒター、ミュンヒンガー、パウムガルトナー、そしてレーデル等です。もちろん、数え上げればきりがありません。

しかし、そのような古楽復興は戦後になって始まったものではなく、ランドフスカなどに代表されるようにその萌芽はすでに戦争前から始まっていました。そして、そのようなムーブメントは世界中を巻き込む戦争によって中断を余儀なくされました。しかし、そのような萌芽は戦争によって消え去ったわけではないので、戦争が終わると、その傷手が未だ癒えない時期から再びその芽は伸びはじめることになったのです。

そして、そう言うメンバーの中でもっとも成功したのは疑いもなくカール・リヒターでしょう。彼の描き出した峻厳なるバッハ像は、それまでのバッハ演奏の常識を覆すものでした。そして、彼のそのような峻厳なるバッハ像はリヒター一人による成果ではなくて、その音楽の根っこは彼の師でであったギュンター・ラミンから受け継いだものであったことも忘れてはいけません。

芸術における創造的活動というのは確かに一人の天才の出現を求めますが、その天才もまた多くの前人の肩の上にのってこそ成し遂げられるものです。
そして、そう言うリヒターなどと較べると、このレーデルは今となってはもっとも影の薄い存在なのかもしれません。

彼の経歴を見てみると、1952年にミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団を組織して指揮活動を積極的に行うようになります。しかし、彼はそれ以前に、基本的にはフルート奏者であり、そしてフルート演奏の教育者でした。おそらく、そう言う経歴の故か、彼のバッハ演奏はリヒターのような強烈な個性を発揮する演奏とは大きく異なった、ある意味では時代の常識に少しばかりのスパイスを混ぜたくらいのものでした。
それ故に、時を経るにつれてその名前も忘れ去られていったのでしょう。

さらに言えば、彼らの後に続いたピリオド演奏のムーブメントが始まると、リヒターでさえも、そのモダン楽器を使った演奏スタイルは時代遅れのものとされていったのですから、レーデルのスタイルの演奏ならばさらにその忘却は加速されました。

しかし、あらためて、レーデルの音楽を今という時代に聞き直してみれば、ある意味では穏やかで常識的な演奏はそれはそれで悪くはないなと言う気にさせられます。とりわけ、低声部を厚めにならしたふくよかな響きは聞くものの心を穏やかにしてくれます。

厳しいばかりがバッハではありません。
おそらく、このような柔和な表情もまたもう一つのバッハの素顔であり、それを否定するのは狭量に過ぎるでしょう。
もちろん、モダン楽器を使用した演奏などは全て「間違い」だと糾弾した一部の原理主義者たちも幸いなことに最近は姿を消したようです。

そうしてみれば、歴史は一つの「環」のようにまた再びもとあったような場所に舞い戻ってきたりするものです。
こうして、レーデルが見せてくれる世界は厳しいコロナ禍に喘ぐ閉塞社会では一つの救いのように聞こえる…と、かつては書いたものです。
しかしながら、たえざる戦争と災害、貧困と分断という息苦しいまでの日常の中に身を置いてみれば、レーデルのバッハは疑いもなく一つの救いであるかのように思えてきます。

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