クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

サンティーノ・ガルシ:リュート曲集(Santino Garsi:Pieces For Lute)

(Lute)ヴァルター・ゲルヴィッヒ:1953年4月7日~8日録音(Walter Gerwig:Recorded on April 7-8, 1953)



Santino Garsi:Pieces For Lute [1.Aria Del Gran Duca]

Santino Garsi:Pieces For Lute [2.Corenta]

Santino Garsi:Pieces For Lute [3.Balletto]

Santino Garsi:Pieces For Lute [4.La Cesarina]

Santino Garsi:Pieces For Lute [5.Gagliarda Manfredina]

Santino Garsi:Pieces For Lute [6.Ballo Del Serenissimo Duca Di Parma]

Santino Garsi:Pieces For Lute [7.La Mutia]

Santino Garsi:Pieces For Lute [8.Le Ne Mente Per La Gola]


バロック期への橋渡し

サンティーノ・ガルシは、16世紀末から17世紀初頭のイタリア・ルネサンス後期(後期ルネサンスから初期バロックへの過渡期)を代表する高名なリュート奏者、および作曲家です。
ガルシの生涯は、北イタリアの強力な領主であったファルネーゼ家(パルマ公国)の宮廷を中心に展開しました。

彼の音楽史における最大の業績は、ルネサンス期の複雑な多声法(ポリフォニー)から、メロディを重視するバロック期への橋渡しをしたことにあります。

彼は、当時パルマの宮廷で踊られていた貴族たちのダンス音楽を、芸術性の高いリュート曲へと昇華させました。
内声を複雑に絡ませる従来のスタイルではなく、「最上声部の明確で美しいメロディ」と「躍動感のある低音のリズム」を際立たせる手法を取り入れました。
これは後のバロック音楽を先取りするものでした。

ガルシ自身は生前に印刷譜として曲集を出版しませんでした。
しかし、彼の楽曲は他の音楽家たちによって書き写され、現代まで語り継がれることになりました。

とりわけ、近代イタリアの作曲家オットリーノ・レスピーギが彼の作品を引用したことで多くの人に知られるようになりました。
レスピーギは、ガルシの手稿譜から「ガリアルダ・マンフレディーナ(Gagliarda Manfredina)」などの旋律を巧みに取り入れて、「リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲」の「シチリアーナ」を完成させました。

リュート曲集(Pieces for Lute)



  1. Aria Del Gran Duca(大公のアリア)
    当時ヨーロッパ中で大流行したエミリオ・デ・カヴァリエーリ作曲の「大公の舞踏(Ballo del Gran Duca)」の旋律を、ガルシがリュート用に精緻にアレンジした作品です。華やかで宮廷的な気品に満ちています。

  2. Corenta(コレンタ)
    フランス発祥の軽快な3拍子の舞曲「クーラント(Courante)」のイタリア版。
    ガルシらしい、流れるように走る最上声部の美しいメロディラインと、リズミカルな低音の掛け合いが心地よい小品です。

  3. Balletto(バッレット)宮廷の ダンス・イベントの入場や社交のために書かれた、スクエアで非常に端正な2拍子の舞曲です。
    ゲルヴィッヒの録音などでは「Balletto I - II - I」という三部形式の構成で演奏されます。

  4. La Cesarina(ラ・チェザリーナ)
    特定の人物(チェザリーナという名の女性、あるいはチェーザレ家にちなんだ人物)に捧げられたとされるカンツォーナ風の楽曲。
    歌うような愛らしさと切なさを併せ持つ、ガルシの旋律美が際立つ1曲です。

  5. Gagliarda Manfredina(ガリアルダ・マンフレディーナ)
    ガルシの最も重要な作品です。3拍子の躍動的な跳躍舞曲(ガリアルダ)です。
    どこか哀愁を帯びたメロディは、近代イタリアの作曲家オットリーノ・レスピーギの耳に留まり、組曲「リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲」の有名な「シチリアーナ」としてオーケストラ用に編曲されました。

  6. Ballo Del Serenissimo Duca Di Parma(パルマ公爵の舞踏)
    ガルシが終生仕えたパルマ公国の君主、ラヌッチョ1世・ファルネーゼ大公に献呈された御前舞曲です。
    君主の威厳とパルマ宮廷の栄華を象徴するような、堂々とした風格のあるリズムが特徴です。

  7. La Mutia(ラ・ムティア)
    「静かな、物言わぬ」といったニュアンスを持つタイトル通り、アルバムの中でも一際繊細で内省的な美しさを持つ小品。
    音数が抑えられており、リュートという楽器が持つ独特の「静寂の響き」が最も美しく映える曲です。

  8. Le Ne Mente Per La Gola(喉元まで嘘をつけ/嘘つきめ!
    タイトル(フランス語混じりの当時の俗語表現)からも分かる通り、宮廷の演劇や世俗的な流行歌、あるいはちょっとした風刺劇の音楽からインスピレーションを得て作られたと考えられているユニークな楽曲です。
    他の優雅な舞曲とは異なり、少しドラマチックで、当時の生々しい宮廷文化の空気を感じさせます。



近代リュート演奏のパイオニア


リュートという楽器は19世紀から20世紀初頭にかけて近代音楽の表舞台からほぼ途絶えていました。
ヴァルター・ゲルヴィッヒその様なリュートを歴史的レパートリーの開拓と後進の育成を通じて現代に蘇らせた「近代リュート演奏のパイオニア」です。。

ドイツのフランクフルト・アム・マインに生まれ、当初は建築学などを学んでいました。しかし、ワンダーフォーゲル運動などのドイツ青年運動の影響を受け、ギターやリュートといった弦楽器に深く傾倒していきました。
そして、30代半ばには独学でルネサンス・バロック期の古い記譜法や歴史的演奏法を研究し、独奏者としての演奏活動を開始します。
その後、ケルン音楽大学の教授を務めるなど、高等教育機関でリュート科の基礎を築き、国際的なコンサートツアーや録音活動を行い、欧米全域にリュートの魅力を広めました。

ゲルヴィッヒの業績の中で、注目すべきは歴史的リュートの復元とレパートリーの開拓でした。
ゲルヴィッヒが登場する前はリュートは歴史的資料や博物館の展示品としてしか存在せず、時折演奏される際もギターの調律に合わせた変形楽器が主流でした。
彼はルネサンス期やバロック期の本来の複弦構造や調律を取り戻し、多くのの作曲家たちの膨大な作品を現代のコンサート・レパートリーとして定着させました。

とりわけ、バッハのリュート組曲を蘇らせ、ジョン・ダウランドをはじめとする英ルネサンス期のリュートソングや独奏曲、シルヴィウス・レオポルト・ヴァイスらのバロック・リュート作品の再発見などは注目に値します。
そして、演奏家としてもArchiv Produktion(アルヒーフ)などのレーベルに録音を残し、世界中の音楽愛好家に「本物のリュートの音」を届ける重要な役割を果たしました。
また、ケルン音楽大学を中心に数多くの優れた弟子を育成したことも見逃せません。
彼の手から育った奏者たちは、その後ヨーロッパ各地の音楽院で教鞭を執り、現代の古楽ムーブメントの基盤を造り上げました。

しかし、彼の演奏は後の「過度に学術的な古楽アプローチ」とは一線を画し、深い歌心と直感的なロマンチシズム、洗練された音色の美しさに満ちています。おそらく、その後の原理主義者から見れば物足りないものだったことでしょう。
柔らかく豊かなトーンを奏で、リュート特有の余韻と繊細な強弱表現を最大限に引き出す演奏には、私などは心が安らぎます。
また、複音音楽の各声部を緻密かつ自然に浮き彫りにする、高い技術的・構造的洞察力を持っていました。

ヴィオラ・ダ・ガンバの復興に尽くしたアウグスト・ヴェンツィンガーと並んで、忘れてはいけない存在です。

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