シューベルト:ピアノのための舞曲(A面)
(P)イェルク・デームス:1965年9月録音
Schubert:12 Walzer, D.365
Schubert:Variation C-moll Uber Einen Walzer Von Anton Diabelli, D. 718
Schubert:2 Scherzi D.593
Schubert:12 Deutsche Tanze Genannt Landler, D. 790
生粋のウィーン子による舞曲

シューベルトのピアノのための舞曲というのはかなり珍しいのではないでしょうか。一連のソナタや楽興の時、さすらい人幻想曲や4つの即興曲等は頻繁に演奏されるのですが舞曲となると録音も決して多くはありません。
それだけに、ウィーン三羽烏とよばれたうちの一人、イェルク・デームスがこのようなアルバムを残してくれたことは実に嬉しい限りです。
アルバムに収められている作品は以下の通りです。
A面
- 12のワルツ, D.365
- アルマンド変ホ長調,D.366, ディアベッリの主題による変奏, D.718, コティヨン舞曲, D.976
- 2つのスケルツォ,D.593
- 12のドイツ舞曲(レントラー), D.790
B面
- 6つのワルツ, D.145
- 11のエコセーズ,D.781
- メヌエットとトリオ,D.600,D.610
- 2つのトリオ, D.146, クーペルヴィーザー・ワルツ 変ト長調, D.番号なし
- 3つのレントラー, D.734, 2つのワルツ, D.779, 4つのドイツ舞曲, D.146, ドイツ舞曲, D.973
実にユニークな選曲であり、デームスらしい工夫が施された一枚です。
生粋のウィーン子としての感性を持って仕立てなおした
「ウィーン三羽烏」とはフリードリヒ・グルダ、イェルク・デームス、パウル・バドゥラ=スコダの3名です。ただし、この「ウィーン三羽烏」というのは日本でだけ通用する言い方のようで、英語圏では「ウィーンのトロイカ」(Viennnese Troika)とよばれるようですし、肝心のウィーンではこの3人を特別にひとくくりにする発想はないようです。
おそらくは、この3人がウィーンで生まれ、ウィーンで学び、そしてウィーンで活躍したという「生粋のウィーン子」と言うことで特別視したのは、ウィーンを音楽の都として有り難がる日本の特殊事情がもたらしたのかもしれません。
そして、考えてみればウィーンの作曲家と言えばモーツァルト、ベートーベン、ブラームス、ブルックナー、マーラーなどがすぐに思い浮かぶのですが、彼らは全てウィーンで生まれたわけではありません。そう言う意味では、シューベルトこそがある意味では生粋のウィーンの作曲家と言えるわけです。
ですから、シューベルト+デームスという組み合わせはまさに生粋のウィーンの音楽と演奏だと言うことになるのかもしれません。
もっとも、あまり「ウィーン」を有り難がるのも考え物なのですが、このアルバムにはそう言うつながりを根っこにしたデームスならではなの工夫が施されていることも事実です。それは選曲のユニークさに表れています。
A面
- 12のワルツ, D.365
作品番号6としてシューベルトにとっては器楽曲としては初めて出版された作品です。そのために「最初のワルツ集」とも言われます。しかし、そのタイトルは「32のワルツ集」でした。
実は、その32曲のワルツは出版社が恣意的に選び出したもので、そこにシューベルトの意向は全く反映されていません。
そこで、デームスはその32曲から12曲(1,2,6,13,,14,21,22,26,29,32,34,36)を選び出して、それを一つの曲のようにつなぎ合わせて美しい花飾りのような音楽に仕立て直しています。
- アルマンド変ホ長調,D.366, ディアベッリの主題による変奏, D.718, コティヨン舞曲, D.976
アルマンドは「12のドイツ舞曲」から抜き出した短い作品であす。
変奏曲はベートーベンの巨大な作品で有名な作品と同じようにシューベルトが応募したもので集められた変奏曲の38曲目として収録されています。
コティヨンは当時流行した舞踏スタイルです。これもまた一つの音楽のようにデームスは結びつけています。
- 2つのスケルツォ,D.593
これは独立した2曲からなる作品で、ここにはデームスは何も手を加えていません。
- 12のドイツ舞曲(レントラー), D.790
これも「レントラー集」として知られていて、ごく短い12曲の作品から成り立っています。しかし、シューベルトらしい多様な歌謡性にあふれた作品で、デームスは反復は省略しているものの順序通りに演奏しています。
とまあ、このようにデームスによって徹底的に手を加えられて仕上がったのがこのアルバムなのです。
これを原典を無視した暴挙などと言うような野暮なことはやめましょう。ここにあるのは、まさに生粋のウィーン子としての感性を持って仕立てなおしたシューベルト本来の姿が蘇っているのです。
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