ベートーヴェン:弦楽三重奏曲 第1番 変ホ長調, Op.3(Beethoven:String Trio in E-flat major, Op.3)
パスキエ・トリオ:1950年代録音(Pasquier Trio:Recorded on 1950s)
Beethoven:String Trio in E-flat major, Op.3 [1.Allegro con brio]
Beethoven:String Trio in E-flat major, Op.3 [2.Andante]
Beethoven:String Trio in E-flat major, Op.3 [3.Minuet. Allegretto] - Trio]
Beethoven:String Trio in E-flat major, Op.3 [4.Adagio]
Beethoven:String Trio in E-flat major, Op.3 [5.Minuet. Moderato Trio]
Beethoven:String Trio in E-flat major, Op.3 [6.Finale. Allegro]
三重奏曲の限界まで行き着いた若きベートーベンを代表する傑作の一つ

ベートーベンはヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという三重奏曲の楽器編成による作品を幾つか残しています。しかし、その内の作品3の三重奏曲は6楽章からなるディヴェルティメントであり、作品8のそれも5楽章構成のセレナードに属するものだと言えます。ですから、いわゆる室内楽作品としての弦楽三重奏曲は作品9の3曲だけだと言えます。ただし、長年の習慣で作品3の三重奏曲にも「第1番」というナンバリングがされて、作品9の3曲には2番から4番のナンバーが付される事が多いようです。
ちなみに、室内楽の分野では、ベートーベンはこれ以外にも作品4と作品29という二つの弦楽五重奏曲も残しているのですが、最終的に彼が選び取ったジャンルは弦楽四重奏曲だったことは言うまでもありません。それは想像にしか過ぎませんが、より厳密な声部の処理を目指したベートーベンにしてみれば、三重奏では素材がシンプルに過ぎ、五重奏曲では過剰に過ぎたのでしょうか。
確かに、弦楽三重奏曲の最後を飾るハ短調の作品は、三重奏曲という編成の限界に挑むような音楽になっています。そして、それでもなおベートーベンのあふれ出すパッションはその枠の中に収まりきらず、より一層の音響の拡大を要求しているように聞こえるのです。ただし、そう考えると、何故にベートーベンが弦楽五重奏曲という編成を結果的には捨ててしまったのか、そして、結果的には弦楽四重奏曲という編成に力を傾注したのは何故か、という疑問は残ります。
しかしながら、ハイドンもまたあれほど膨大な弦楽四重奏曲を残しながら、弦楽五重奏曲は残さなかったという事実に突き当たります。さらに付け加えれば、モーツァルトは弦楽四重奏曲というジャンルでは天才らしくもなく「大変な労苦」を強いられたのに、弦楽五重奏というジャンルでは思い切り想像の羽を羽ばたかせることが出来たというのも興味深い事実です。
素人目からすれば、弦楽器が3台なのか4台なのか、はたまた5台なのかというのはちょっとした違いのように思えるのですが、その根底には音楽そのものの本質に関わるような違いがあると言うことなのでしょう。
弦楽三重奏曲 第1番 変ホ長調, Op.3
若きベートーヴェンが故郷ボンを離れ、ウィーンで「時代の寵児」として頭角を現し始めた時期のエネルギーが凝縮された一曲です。
この曲が6楽章構成である最大の理由は、当時の貴族の社交場などで演奏されていた「ディヴェルティメント」や「セレナード」の伝統を継承しているからです。
深刻な思索よりも、聴衆を楽しませるための軽快さ、優雅さが重視されています。
また、当時人気のあったモーツァルトの「弦楽三重奏曲 K.563」と同じ「変ホ長調・6楽章構成」という土俵に乗って自身の腕前を誇示しようとした野心作でもあります。
- 第1楽章 (Allegro con brio)
冒頭の和音からして自信に満ち溢れています。若々しい覇気を感じさせます。
- 第2楽章 (Andante)
3つの楽器が追いかけっこをするような、可愛らしくも精緻な構成です。
- 第3楽章 (Menuetto)
非常に短く、ウィットに富んだ楽章です。
- 第4楽章 (Adagio)
この曲の重心です。ゆったりとした時間の中で、後の「不滅の恋人」への手紙を予感させるような、深い愛の吐露が感じられます。
- 第5楽章 (Menuetto)
第3楽章よりも少し素朴で、民俗舞踊的な力強さがあります。
- 第6楽章 (Finale)
猛烈なスピード感で進むロンド。演奏者には非常に高い技術が要求されます。
常設団体ならではの魅力
それにしても「弦楽三重奏曲と言うのは不思議な演奏形態です。見た目には世間に山ほど存在する弦楽四重奏曲からヴァイオリンが一つぬけただけなのですが、音楽がつくり出す様相は随分と変わってしまいます。
もちろん、ヴァイオリンが一つぬけるのですからその分響きは薄くなります。しかし、そのマイナスと引き替えに響きの透明感は高まります。
あのモーツァルトの「ディヴェルティメント(弦楽三重奏曲) 変ホ長調, K.563」が「神品」と言われるのは、その透明感によってそれぞれの楽器の絡み合い、墓妙なフレーズの移ろいやダイナミズムの変化などが聞き手に深い集中力を要求するからでしょう。
しかし、それは裏返せば、演奏する側に、そう言う聞き手の高い集中力を十分に納得させるだけの音楽性と精緻な呼吸の共有が必要です。そう、「精緻なアンサンブル」ではなくて「精緻な呼吸の共有」です。
おそらく、楽譜通りに縦のラインが揃っているだけでは話にはなりません。
もちろん、緊張度の高い精緻なアンサンブルが必要なことは言うまでもないのですが、ここぞと言うところで何か遊び心のような部分が出てこないと三重奏曲の本当の魅力は見えてこないのです。
ですから、ハイフェッツ、フォイアマン、プリムローズのような腕利きの三人が揃っただけではどうしても不満な部分が残るのです。やはり、常設の、いつも顔をあわしているメンバーでなければ表現し得ないものがあります。
パスキエ・トリオはその名の通りパスキエ3兄弟によって1927年に結成された室内楽団です。
彼らは父親はヴァイオリニスト、母親はピアニストという音楽家の家庭で育ち、長男のピエール・パスキエがヴィオラ、次男のジャン・パスキエがヴァイオリン、三男のエティエンヌ・パスキエがチェロという弦楽三重奏団です。
言うまでもなく、「弦楽三重奏」というスタイルは作品に恵まれているスタイルではありません。おそらく、今後も「弦楽三重奏」というグループが常設で存在することはまずないでしょう。
「弦楽三重奏」というスタイルは作品に恵まれているスタイルではありません。どうしても、そこにピアノとかフルート、オーボエなどが加わらないとプログラムが広がりません。
そこで、彼らはゲストとしてピアニストのマルグリット・ロン、フルーティストのランパルなどと組んで演奏会や録音を活発に行うことになります。
もちろん、それはそれで魅力的な演奏も多いのですが、やはり彼らならではの魅力が溢れているのは「弦楽三重奏」です。
ですから、モーツァルトだけでなくベートーベンなど、数少ない弦楽三重奏曲の録音はもれなく拾っていきたいと思います。
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