ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調(Ravel:Piano Trio in A minor)
(Vn)ジャン・パスキエ:(P)リュセット・デカーヴ (Cello)エティエンヌ・パスキエ 1954年発行(Pierre Pasquier:(Cello)Etienne Pasquier (P)Lucette Descaves Published in 1954)
Ravel:Piano Trio in A minor [1.Modere]
Ravel:Piano Trio in A minor [2.Pantoum. Assez vif]
Ravel:Piano Trio in A minor [3.Passacaille. Tres large]
Ravel:Piano Trio in A minor [4.Final. Anime]
時代が生んだ音楽
第1次世界大戦の開戦直前、彼が軍に入隊する前にわずか5週間で一気に書き上げた作品です。
「5ヶ月かかるはずの仕事を5週間で終えた」と本人が手紙で語っています。通常は推敲を重ねる慎重なラヴェルにしては珍しいことです。
ラヴェルが第一次世界大戦に自ら志願した背景には強い愛国心と、戦地で命を懸けている友人たちへの思いがあったようです。。
徴兵の年齢制限を超えていたのですが、執拗に入隊を試みたようで、その背景には、母はバスク人、父はスイス人という出自があったようです。正当なフランス人として認められたいという思いもあったのかもしれません。
ですから、この作品にはある種の高揚感と同時に焦燥感のようなものも感じとられます。
彼の出自につながるバスクのメロディや古き良きヨーロッパへの挽歌のようなパッサカリア、そして当時のフランス人の高揚感を表したような終楽章。
まさに、時代が生んだ音楽と言えるのかもしれません。
第1楽章:Modere(モデレ)
ソナタ形式:ラヴェルの故郷であるバスク地方の踊り「ソルツィーコ」をモデルにした、「3+2+3」の8分の8拍子という変則的なリズムが全編を支配しています。
ヴァイオリンとチェロが2オクターブ離れて重なる独特の配置により、透明感のある響きが生まれます。
第2楽章:Pantoum. Assez vif(パントゥム。アッセ・ヴィフ)
スケルツォ:「パントゥム」とは、マレーシアに起源を持つ19世紀フランスで流行した詩の形式です。活発で技巧的な楽章です。
中間部では、弦楽器が3/4拍子を維持する一方でピアノが4/2拍子を弾くという、異なる拍子が同時に進行する「ポリメーター」の技法が用いられています。
第3楽章:Passacaille. Tres large(パッサカリア。トレ・ラルジュ)
パッサカリア:低音で繰り返される8小節の主題に基づき、静かに始まって劇的なクライマックスを築き、再び静寂へと戻るアーチ状の構成を持っています。
第一次世界大戦の影を感じさせる、葬送行進曲のような厳かな雰囲気が漂います。
第4楽章:Final. Anime(フィナル。アニメ)
ソナタ形式:5/4拍子と7/4拍子が交互に現れる力強い楽章で、再びバスクの影響が見られます。
室内楽の枠を超えたオーケストラのような壮大な響きで全曲を締めくくります。
常設団体ならではの魅力
それにしても「弦楽三重奏曲と言うのは不思議な演奏形態です。見た目には世間に山ほど存在する弦楽四重奏曲からヴァイオリンが一つぬけただけなのですが、音楽がつくり出す様相は随分と変わってしまいます。
もちろん、ヴァイオリンが一つぬけるのですからその分響きは薄くなります。しかし、そのマイナスと引き替えに響きの透明感は高まります。
あのモーツァルトの「ディヴェルティメント(弦楽三重奏曲) 変ホ長調, K.563」が「神品」と言われるのは、その透明感によってそれぞれの楽器の絡み合い、なフレーズの移ろいやダイナミズムの変化などが聞き手に深い集中力を要求するからでしょう。
しかし、それは裏返せば、演奏する側に、そう言う聞き手の高い集中力を十分に納得させるだけの音楽性と精緻な呼吸の共有が必要です。そう、「精緻なアンサンブル」ではなくて「精緻な呼吸の共有」です。
おそらく、楽譜通りに縦のラインが揃っているだけでは話にはなりません。
もちろん、緊張度の高い精緻なアンサンブルが必要なことは言うまでもないのですが、ここぞと言うところで何か遊び心のような部分が出てこないと三重奏曲の本当の魅力は見えてこないのです。
ですから、ハイフェッツ、フォイアマン、プリムローズのような腕利きの三人が揃っただけではどうしても不満な部分が残るのです。やはり、常設の、いつも顔をあわしているメンバーでなければ表現し得ないものがあります。
パスキエ・トリオはその名の通りパスキエ3兄弟によって1927年に結成された室内楽団です。
彼らは父親はヴァイオリニスト、母親はピアニストという音楽家の家庭で育ち、長男のピエール・パスキエがヴィオラ、次男のジャン・パスキエがヴァイオリン、三男のエティエンヌ・パスキエがチェロという弦楽三重奏団です。
言うまでもなく、「弦楽三重奏」というスタイルは作品に恵まれているスタイルではありません。おそらく、今後も「弦楽三重奏」というグループが常設で存在することはまずないでしょう。
「弦楽三重奏」というスタイルは作品に恵まれているスタイルではありません。どうしても、そこにピアノとかフルート、オーボエなどが加わらないとプログラムが広がりません。
そこで、彼らはゲストとしてピアニストのマルグリット・ロン、フルーティストのランパルなどと組んで演奏会や録音を活発に行うことになります。
もちろん、それはそれで魅力的な演奏も多いのですが、やはり彼らならではの魅力が溢れているのは「弦楽三重奏」です。
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