ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98
ラファエル・クーベリック指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1956年3月24日~25日録音
Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98 [1.Allegro non troppo]
Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98 [2.Andante moderato]
Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98 [3.Allegro giocoso]
Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98 [4.Allegro energico e passionato]
とんでもない「へそ曲がり」の作品

ブラームスはあらゆる分野において保守的な人でした。そのためか、晩年には尊敬を受けながらも「もう時代遅れの人」という評価が一般的だったそうです。
この第4番の交響曲はそういう世評にたいするブラームスの一つの解答だったといえます。
形式的には「時代遅れ」どころか「時代錯誤」ともいうべき古い衣装をまとっています。とりわけ最終楽章に用いられた「パッサカリア」という形式はバッハのころでさえ「時代遅れ」であった形式です。
それは、反論と言うよりは、もう「開き直り」と言うべきものでした。
しかし、それは同時に、ファッションのように形式だけは新しいものを追い求めながら、肝腎の中身は全く空疎な作品ばかりが生み出され、もてはやされることへの痛烈な皮肉でもあったはずです。
この第4番の交響曲は、どの部分を取り上げても見事なまでにロマン派的なシンフォニーとして完成しています。
冒頭の数小節を聞くだけで老境をむかえたブラームスの深いため息が伝わってきます。第2楽章の中間部で突然に光が射し込んでくるような長調への転調は何度聞いても感動的です。そして最終楽章にとりわけ深くにじみ出す諦念の苦さ!!
それでいながら身にまとった衣装(形式)はとことん古めかしいのです。
新しい形式ばかりを追い求めていた当時の音楽家たちはどのような思いでこの作品を聞いたでしょうか?
控えめではあっても納得できない自分への批判に対する、これほどまでに鮮やかな反論はそうあるものではありません。
- 第1楽章 Allegro non troppo ソナタ形式。
冒頭の秋の枯れ葉が舞い落ちるような第1主題は一度聞くと絶対に忘れることのない素晴らしい旋律です。
- 第2楽章 Andante moderato 展開部を欠いたソナタ形式
- 第3楽章 Allegro giocosoソナタ形式
トライアングルやティンパニも活躍するスケルツォ楽章壮大に盛り上がる音楽は初演時にはアンコールが要求されてすぐにもう一度演奏されたというエピソードものっています。
- 第4楽章 Allegro energico e passionatoパッサカリア
管楽器で提示される8小節の主題をもとに30の変奏とコーダで組み立てられています。
50年代のウィーンフィルによるブラームスを聴くべき演奏
クーベリックは1956年から1957年にかけてウィーン・フィルとブラームスの交響曲の全曲録音を行っています。
クーベリックにとってこの時期は、チェコからイギリスに亡命し、その後にシカゴ響での不遇の時代を過ごし、再びイギリスに戻ってコヴェント・ガーデン王立歌劇場の音楽監督をつとめていた時期でした。この時期にDeccaとの結びつきが多くなり、ウィーン・フィルとは随分多くの録音を残しています。
しかし、何故かこのブラームスの交響曲の録音はあまり話題になることはありません。何故ならば、多くの人はクーベリックのブラームスと言えばバイエルン放送交響楽団との録音を思い出してしまうからです。
さらに、ブラームスの交響曲という側面から見てみれば、この50年代というのはLPレコードが広く普及していくことで、SP盤の時代にはとんでもない大事業だった全曲録音というものが随分と垣根が低くなりました。ですから、この時代には数多くの大物を起用して各レーベルは積極的に録音を行ったために、そう言う大波の中ではクーベリックという名前はそれほど目立つものではなかったようです。
さらに言えば、クーベリックと言う指揮者は安易な効果を狙うことを潔しとせず、真っ正面から作品と向き合って外連味なく楽曲を構築するタイプです。良く言えば玄人好み、悪く言えば地味と言うことになります。どうしても、カラヤンのような人気を集めるのは向いていませんし、フルトヴェングラーやワルターのようなカリスマ性を発揮する時代は過ぎ去っていますし、さらに言えばセルやライナーのように極限までオケを絞り上げるには好人物にすぎました。
そこへ持ってきて、相手はウィーン・フィルです。
この世界でもっとも性悪なオーケストラは、クーベリックのような芸風にはあまり向いていないように思えます。要は、彼らは隙を見つけては指揮者の言うことを聞かないのです。おそらく、クーベリックは作品本来の姿を求めて丁寧に造形したいと思っているのでしょうが、ウィーンフィルのメンバーは隙あれば好き勝手に己の腕前を誇示しようとします。そして、それを咎めて駄目出しをすることはやはり難しかったのでしょう。
その意味では、彼が手兵のバイエルン放送交響楽団との録音では、オケは実に献身的にクーベリックの思いに応えています。おそらく、クーベリックの棒でブラームスを聴くならばファーストチョイスはやはりバイエルン放送交響楽団との録音でしょう。
しかし、音楽というのは不思議なもので、そのウィーンフィルの好き勝手が思わぬいい味を醸し出していることも事実なのです。ウィーンフィルから見れば、未だ40歳過ぎのクーベリックなどは鼻垂れ小僧に見えたのかもしれません。彼らにとってブラームスは我が町の作曲家であり、そことへの矜恃もあったでしょう。
おかげで、ある意味では50年代のウィーンフィルらしい響きが実現しています。
しかし、そう言う性悪のオケを相手にクーベリックも必死でブラームスの音楽を古典的な形式感の中に描き出そうと頑張っています。
それともう一つ、この時期のウィーンフィルのウィーンフィルらしい響きが、ステレオ録音で残されていることにはも感謝したいと思います。
そう言う意味では、これはクーベリックのブラームスと言うよりは、50年代のウィーンフィルによるブラームスを聴くものだと思った方がいいのかもしれません。
よせられたコメント
2021-10-30:コタロー
- この演奏を聴いて真っ先に感じるのは、当時のウィーン・フィル、とりわけ弦楽器群の優美さでしょう。
それにしても、昨今のウィーン・フィルにはこのようなあでやかさがなくなってしまったことに、いささか寂しさを感じます。もちろん、ウィーン・フィルのメンバーは、ウィーン国立歌劇場管弦楽団の一員ですから、いわば国家公務員です。したがって、いくら優秀なメンバーであっても定年になれば演奏活動から身を引かなければなりません。
それじゃ来年のニューイヤーコンサートは見るのをやめて、裏番組の浜ちゃんの格付けチェックでも見ようかな(笑)。
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