ショパン:即興曲(1番~3番&幻想即興曲)
アルフレッド・コルトー:1933年7月5日録音
Chopin:Impromptu No.1 in A-flat major, Op.29
Chopin:Impromptu No.2 in F-sharp major, Op.36
Chopin:Impromptu No.3 in G-flat major, Op.51
Chopin:Fantaisie-impromptu in C-sharp major , Op.66
見かけは自由で独特だが、構成的な感じがする
即興曲(アンプロンプチェ:Impromptu)とは、一般的にロマン派のキャラクターピースの一種として、その自由な即興性に彩られた作品に対して与えられた名称です。ショパンのこの「即興曲」を4曲残しているのですが、その他数多くのロマン派作曲家の手になる「即興曲」とは幾分雰囲気が異なっています。
それは、自由な即興性にあふれていることは間違いなのですが、全てを聞き終えた後に何か不思議なまとまりみたいなものを感じてしまうのです。この感覚は、例えば晩年の傑作である「舟歌」などにも共通していて、音楽を聴き終わったあとには不思議な統一感が残るのです。
つまりは、ピアノによる一編の詩を聞いたような幻想感に彩られながら、その優雅な衣の下には論理的な構成感が潜んでいるのです。
「即興の自由性を全て持ちながら、ショパンの即興曲はよく整った形式とをとっている。見かけは自由で独特だが、構成的な感じがする。」(ハネカー)なのです。
即興曲第1番 変イ長調 Op.29:1837年
幻想即興曲と並んで、最も有名な即興曲です。揺れ動く3連音符の音型が魅力的で「泉のごとく泡立ち。輝き渡り、岸辺をおおう茂みからもれる陽光がその上に揺らぐ(ニークス)」とたたえられました。
フィギュア・スケートの羽生弓弦選手のおかげで、もしかしたら今の日本では最も有名なショパン作品かもしれません。
即興曲第2番 嬰ヘ長調 Op.36:1839年
1番と較べると認知度は落ちるのですが、深い幻想性に彩られたこの作品こそが即興曲の最高傑作だと言う人もいます。確かに、1番のような滑らかな美しさには欠けるのですが、その深い瞑想性はどこかノクターンにも繋がっていくような表情を持っています。
即興曲第3番 変ト長調 Op.51:1842年
4曲ある即興曲の中では最も演奏機会の少ない作品です。それは、この作品には初期作品が持っていた素直な幻想性が後退して、その代わりにどこか救いのない病的な揺らぎが支配的になっているからでしょう。
幻想即興曲(即興曲第4番) 嬰ハ短調 Op.posth.66:1834年
ショパン24才の頃の作品と考えられているのですが、ショパンが存命中には出版されることはなく、彼の死後1855年に友人のフォンタナによって出版されました。決定稿と思われる自筆譜もしっかり残っていたので、何故に出版されなかったのかは不思議なのですが、おそらくは同時代に出版されたモシュレスの作品と主題が似ていたので断念したのだろうと推測されています。
音楽そのものについては今さら何もつけくわえる必要もないほどの超有名曲です。その人気の一端が「幻想即興曲」というタイトルにあることは間違いないのですが、その「幻想」はフォンタナが出版するときに勝手につけたもののようです。なかなかに商売上手な男だったようです。
テンポ・ルパートの何たるかを知っている演奏
SP番録音の真髄を伝えるほどの音質で、脂ののりきった時代のコルトーの演奏が大量に残されたことは幸運なことでした。
今もってその価値を失わない演奏と録音であり、その価値はさらに長きにわたって失われることはないでしょう。
本当な「永遠に失われることはない」と書きたいのですが、あまり軽々に「永遠」などと言う言葉は使わない方がいいでしょうから、控えめに「さらに長きにわたって失われることはない」にとどめました。
SP盤の時代でも驚くほど音質の素晴らしいものに時々出会うのですが、この30年代の前半に行われたコルトーの録音はその中でも極上の部類に分類されます。
おそらく、ブラインドで聞かされればモノラル録音時代のLP盤だと思うはずです。
そう言えば、金属原盤が戦災などをまぬがれて残されている場合があって、そう言う原盤から復刻したものはかなり音質がいいという話を聞いたことがあります。このコルトーの復刻盤もそう言う金属原盤からの復刻かと思ったのですが、あれこれ聞いていると少し違うのかなと思う部分があります。
それは、全体としてはほとんどノイズがのっていないのですが、人気があってよく聞かれる部分が来るとパチパチノイズがのるのです。
例えば、ショパンのピアノソナタだと葬送行進曲の部分にだけノイズがのります。ピアノ協奏曲の第2番だと第2楽章「Larghetto」にだけ、同じようにノイズがのるのです。さらには、「即興曲」の中でも一番の人気曲である「幻想即興曲」だけがパチパチノイズの量が多いのです。
おそらくは、そう言う人気曲ともなれば「未通針」に近いSP盤というのはあり得ないのでしょう。
コルトーの演奏と言えば、真っ先に思い浮かぶのは内田光子の言葉です。
彼女はコルトーの演奏に対して「テンポ・ルパートの何たるかを彼ほどに知っている人はいない」と述べていました。
そして、彼の演奏を聞くたびに「この助平親父」と思うのですが、それでもその魅力には抗しきれないみたいなことを話していた記憶があります。
音楽というのはやはり歌わなければ魅力は半減します。
いや、「歌ってこそなんぼ」の世界なのです。
しかし、どのように歌わせるかというのは、その人の中にどれだけの音楽力(おかしな言葉ですが)があるかにかかってきます。残念ながら、未だ持ってこれだけ見事にショパンを歌ったピアニストは、極めて控えめに言ってもこの30年代のコルトーを含めて数えるほどしかいないでしょう。
最近は一つのミスタッチも無しにあっさりと(無表情に)仕上げるのが美徳のように思っているピアニストが多いようです。
しかしながら、こういうコルトーの最盛期の演奏を聞いていると、嫌みな言い方になりますが、「あなたショパンとはそんなにも素っ気ない音楽を書いた人だと信じているのですか?」聞いてみたくなったりします。
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