クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

コダーイ:「ハーリ・ヤーノシュ」組曲 作品35a

ゲオルク・ショルティ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1955年2月21日~25日録音





Kodaly:Hary Janos suite [2.Viennese Musical Clock]

Kodaly:Hary Janos suite [3.Song]

Kodaly:Hary Janos suite [4.The Battle and Defeat of Napoleon]

Kodaly:Hary Janos suite [5.Intermezzo]

Kodaly:Hary Janos suite [6.Entrance of the Emperor and His Court]

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ハンガリー農民のイマジネーションと真実

1926年に喜歌劇「ハーリ・ヤーノシュ」が成功をおさめると、バルトークのすすめもあって、そのオペラから6つのエピソードを選び出して管弦楽用の組曲を作曲することになりました。そして、結果としてこの組曲がコダーイの代表作となりました。

この組曲は以下の6つの場面から成り立っています。各曲にはコダーイ自身によって説明が付与されています。


  1. 前奏曲、おとぎ話は始まる (Elojatek, Kezd0dik a tortenet)
    「意味深長なくしゃみの音で”お伽噺は始まる”ことになります。」

  2. ウィーンの音楽時計 (A becsi harangjatek)
    「場面はウィーンの王宮。ハンガリーからやって来た純朴な青年ハーリは、有名なウィーンの”オルゴール時計”を見て、すっかり驚き、夢中になってしまいます。時計が鳴り出すと、機械仕掛けの小さな兵隊の人形が現れます。
    華やかな衣装を身に纏ったからくり人形が、時計の周りをぐるぐる行進し始めるのです。」

  3. 歌 (Dal)
    「ハーリとその恋人(エルジュ)は、彼らの故郷の村のことや、愛の歌に満たされた静かな村の夕暮れのことを懐かしみます。」

  4. 戦争とナポレオンの敗北 (A csata es Napoleon veresege)
    「司令官となったハーリは、軽騎兵を率いてフランス軍に立ち向かうことになりました。ところが、ひとたび彼が刀を振り下ろすと、さあどうでしょう。フランス軍の兵士たちは、まるでおもちゃの兵隊のように、あれよあれよとなぎ倒されていくではありませんか!
    一振りで2人、ふた振りで4人、そして更に8人10人・・・と、フランス軍の兵隊たちは面白いように倒れてゆきます。
    そして最後に、ナポレオンがただ一人残され、いよいよハーリとの一騎討ちと相成りました。
    とはいっても、本物のナポレオンの姿など見たことのないハーリのこと、『ナポレオンという奴はとてつもない大男で、それはそれは恐ろしい顔をしておった・・・。』などと、想像力たくましく村人たちに話します。
    しかし、この熊のように猛々しいナポレオンが、ハーリを一目見ただけで、わなわなと震えだし、跪いて命乞いをしたというのです。
    フランスの勝利の行進曲”ラ・マルセイエーズ”がここでは皮肉にも、痛々しい悲しみの音楽に変えられています。」

  5. 間奏曲 (Intermezzo)
    「この曲は間奏曲ですので、特に説明はありません。」

  6. 皇帝と廷臣たちの入場 (A csaszari udvar bevonulasa)
    「勝利を収め、ハーリはいよいよウィーンの王宮に凱旋します。ハーリは、その凱旋の行進の様子を、想像力たくましく思い描きます。しかし所詮は、空想に基く絵空事。
    ここで描かれているのも、ハンガリーの農民の頭で想像した限りでの、それは豊かで、それは幸福な、ウィーンのブルク王宮の様子に過ぎません。」



この6つの場面は二つの世界から成り立っていることに気づかされます。
まず一つは、ハーリ・ヤーノシュという人物が生み出したイマジネーションの世界です。

第2曲の「ウィーンの音楽時計」はハーリがウィーンの王宮を訪れたときの話と言うことになっています。ハーリはその王宮でオーストリア皇帝フランツの娘から求婚されたが断ったと自慢するのですが、ここで描かれているのはその王宮にあった「オルゴール時計」の話です。
時計が鳴り出すと、機械仕掛けの小さな兵隊の人形が現れてぐるぐる行進し始め様子にハーリはすっかり驚き、夢中になってしまうのです。

そんなハーリは第4曲の「戦争とナポレオンの敗北」で、ハーリ一人の力でナポレオン軍を打ち破った話をはじめます。そのお話は3つの部分から成り立っていて、まずは勇ましくフランス軍が行進してきて、さらには英雄ナポレオンが登場するのですが、それもあっという間にハーリによって打ち破られるというのです。

そして、最後の第6曲では、ナポレオンに勝利したハーリは華々しくウィーンの宮廷に凱旋することになるのです。面白いのは、ここで描かれている皇帝や宮廷のお偉いさん達は、すべてハーリというハンガリーの素朴な農民が夢想した姿として描かれていることです。そして、それは第4曲で描かれるナポレオンにも共通しています。
小さな主題が馬鹿馬鹿しいまでの大仕掛けで表現されていく様子は、それが明らかに冗談音楽であることを示しているのですが、その冗談の向こう側に素朴なハンガリの農民の気質が刻み込まれていることにも気づかされるのです。

そして、その様なハンガリーの農民の真実の気質が美しく歌い上げられているのが、第1曲,第3曲,第5曲です。
つまり、この組曲はその様な真実と冗談のようなイマジネーションが交互に織りあわされているのです。

第1曲の前奏曲には、ただのホラ話ではなくて、それを生み出した民族の誇りが描かれています。
第3曲の「歌」はハンガリー民謡の「こちらはティーサ河、あちらはドゥーナ河」から編曲されたもので、民族がもつ深くて高貴な愛情が描かれています。

そして第5曲は「間奏曲」という素っ気ないタイトルがつけられ、コダーイ自身も「特に説明はありません。」と素っ気ないのですが、個人的にはこれがこの作品の中の白眉だと考えています。
私はこの音楽を聞くたびに、涙をふりはらいながら踊り続ける男の姿が浮かぶのです。
冒頭の旋律はヴェルブンコシュという、若者を軍に募るための舞曲によるものだと言うことなのですが、それがこの音楽に涙を感じさせる要因なのかもしれません。そして、ホルン・ソロに始まる素朴な美しさにあふれたトリオの部分がその涙にさらに深みを与えています。

与えられた仕事に対して期待された以上の結果を返すことでキャリを積み上げている


ショルティという人は世界的には非常に高い評価を得ているのですが、何故か日本での評判は芳しくない人です。

指輪の全曲録音にしても、その演奏と録音の素晴らしさは認めながらも、指揮者がショルティでなければもっとよかったなんて言われちゃいますからね。
しかし、カルショーの証言を待つまでもなく、あのようなとんでもない忍耐を強いられるようなプロジェクトはショルティのような男でなければ成し遂げられなかった事は事実なのです。

彼が残した膨大な録音の殆どは完成度の高いものばかりなので、不思議と言えば不思議な話なのですが、やはり偉い先生が駄目だと言えば駄目になってしまう典型なのかとも思ったりします。

そんなわけで、一度じっくりと、ショルティの業績を録音を通して追いかけてみようかと考えた次第なのです。
確かに、一人の音楽家を時系列に沿ってじっくりと聞いてみるといろいろなことが見えてくることも事実なのです。

ショルティの初期録音を眺めていると、同郷のバルトークやコダーイの録音が多いことに気づきます。
世界的名声を得た音楽家ならばレーベルと契約を結ぶときに、自分が録音したい作品をその契約の中に入れ込むことも可能です。

例えば、ビルギット・ニルソンなどはDeccaと専属契約を結ぶときの条件として「トリスタンとイゾルデ」を録音することを必須条件としていました。
有り体に言えば、「トリスタンとイゾルデ」を録音してくれるならアンタの所と契約してやってもいいわよ、と言うことです。

しかし、これから売り出そうかというようなぺーぺーの音楽家ならば、レーベルが指定する作品を黙々とこなしていくしかありません。使ってもらえるだけありがたいと言うことです。
そして、そこにはレーベルとしてカタログの内容をバランスよく整えていくために、その音楽家の適正なども見定めながら録音すべき作品を決めていくわけです。

カルショーはDeccaにはその様なポリシーは全くなかったと嘆いていますが、それでも、ショルティの立ち位置を考えればバルトークやコダーイの作品が回ってくるのは、当然と言えば当然なのかもしれません。
既に別の処でも述べたことなのですが、ショルティの願いはベートーベンの交響曲を録音することでした。しかしながら、その思いはいつ実現するのか全く先も見えない状況の下で、与えられた仕事を黙々とこなすしかなかったのです。

しかしながら、それでもショルティが偉いと思うのは、そう言う仕事であっても一切手抜きをしないと言うことです。彼はいつどんなときであっても完璧と言っていいほどのバランスでオケを鳴らしています。
言うまでもないことですが、この時代の録音は楽器の音量バランスを編集によって調整するなどと言うことは出来ません。

まさに、録音会場で鳴り響いているバランスが全てです。
ところが、そのバランスがマルチ・マイク録音によって徹底的に編集が加えられたバランスと較べても遜色がないというのは、ショルティの並々ならぬオケに対する統率力がうかがわれます。

なるほど、無名の指揮者というのは、こうして与えられた仕事に対して期待された以上の結果を返すことでキャリを積み上げていくものだと感心させられる録音なのです。

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