フンパーディンク:「ヘンゼルとグレーテル」組曲
ルドルフ・ケンペ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1961年1月録音
Humperdinck:Hansel Und Gretel Suite [1.Overture]
Humperdinck:Hansel Und Gretel Suite [2.The Wiches'Ride]
Humperdinck:Hansel Und Gretel Suite [3.The Gingerbread House]
Humperdinck:Hansel Und Gretel Suite [4.The Witch's Waltz]
Humperdinck:Hansel Und Gretel Suite [5.Dream Pantomime]
ワーグナーの強い影響を受けたオペラ
ヨーロッパでは子供向けのオペラとしてクリスマスシーズンになるとよく上演される作品だそうです。ただし、最後は魔女を竈のなかに放り込んで焼き殺してしまうと言う内容ですし、それ以前に子供達を魔女がいる森に追いやってしまう母親の描き方もかなりダーティーなので、その辺りはかなり「手加減」をして上演されるのが一般化しているようです。
お話の内容はあまりにも有名なのですが、取りあえずは簡単に紹介しておきます。
原作は言うまでもなくグリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」なのですが、それをもとにオペラの台本としたのはフンパーディンクの妹であったアーデルハイト・ヴェッテです。つまりは、このオペラもまた兄と妹の協力で出来上がった作品なのです。
それから、こもれもよく知られた話ですが、フンパーディンクはワーグナーのもとで長く働いていた音楽家でした。ですから、このオペラもワーグナーの強い影響を受けているので、「子供向けオペラ」と言われるわりにはかなり重厚な響きで彩られています。
第1幕:ペーターの家の中
箒を作って生計を立てているペーターのみすぼらしい家の中でヘンゼルとグレーテルがせっせと働いています。
しばらくすると兄妹は仕事に飽きて、「お腹が空いた」と言い出します。ヘンゼルは我慢できずに家のミルクを舐めます。
そして、グレーテルは踊りが苦手なヘンゼルを誘って、ダンスを踊ります。
そこに母親のゲルトルートが帰って来ます。母親は仕事をさぼって遊んでいた二人に怒り、懲らしめようとします。そして、二人を追いかけているうちに母親は大切なミルクの壷を壊してしまいます。
それを見ていたヘンゼルは隠れてクスクス笑うのですが、ますます怒りを募らせた母親は二人に「森の中でイチゴを探してきなさい!」と言います。
命じられた二人は渋々森へと出かけていきます。
やがて、母親が疲れて眠ってしまうのですが、そこへほうきが売れて上機嫌な父親のペーターが帰ってきます。
やがて、父親はヘンゼルとグレーテルがいないことに気付きます。
母親:「ポットを割った罰として、森の中にイチゴ狩りに行った。」
父親:「あそこにはお菓子の魔女が住んでいるんだぞ!魔女は子供たちをオーブンで焼いて食べてしまうんだ!」
二人は急いで子供たちを探しに向かいます。
第2幕:森の中
ヘンゼルとグレーテルは森の中を歩きながら「小人が森に立っている」という民謡を歌っています。
ヘンゼルはたくさんのイチゴを取り、グレーテルは花飾りを作っています。やがて二人はじゃれ合いながらイチゴの食べさせ合いを始め、とうとうイチゴをすべて食べ尽してしまいます。
あたりはすっかり暗くなり二人は道に迷ってしまいます。暗闇から眠りの精が小さな光になって近づいてくると「ぐっすり眠って素敵な夢を見なさい」と子供たちに砂を撒いて眠らせてしまいます。
やがて、光が射してきて14人の天使が光り輝く衣装をまとって降りてきて二人の眠りを静かに見守ります。
第3幕:夜明け
次第に明るくなってきてもヘンゼルとグレーテルは眠っています。
そこに露の精が現れ二人にその雫を振りかけるとグレーテルが目を覚まします。
彼女は兄を起こして夢に見た14人の天使たちのことを語り合います。
そうすると、太陽の光に照らされてお菓子の家が現れます。
二人はお菓子の家に近づいていき、お菓子の家を食べ始めると部屋の中から「私の家を食べているのは誰だ?」と言う聞こえます。
二人は「風の音だよ」と言って、気にせずに食べ続けます。
しばらくすると魔女が現れ、お菓子を夢中で食べている二人を捕らえてヘンゼルを檻の中に閉じ込めます。
魔女はヘンゼルを太らせて食べるために、お菓子を無理やり食べさせ、グレーテルには魔女の手伝いをさせます。
魔女はヘンゼルがどれくらい太ったかを調べるために指に触るのですが、ヘンゼルは咄嗟に細い木の棒を差し出します。その細い木の枝をつかんだ魔女はヘンゼルが痩せこけていると勘違いしてがっかりします。
グレーテルは魔女が魔法を使っているのを見て魔法を覚えます。そして魔法を唱えてヘンゼルの魔法を解いてあげます。
魔女はグレーテルに命じます。
「かまどに顔を突っ込んで、中の様子を確かめてみて。」
グレーテルは答えます。
「やり方がわからないから、お手本を見せてよ。」
魔女は「こうするんだよ」と竈の中に頭を入れるとヘンゼルとグレーテルは魔女をかまどの中に突き飛ばします。
こうして魔女を退治しや二人は大喜びで抱き合います。
また、魔法にかけられていた子供たちが現れてくるので二人は子供たちの魔法を解いてあげます。
最後に二人の両親もかけつけ、皆が神に感謝する中で幕となります。
オペラを見たような気分になれる「語り口の上手さ」
「語り口の上手さ」という言葉があります。
古典落語などはその最たるもので、全く同じネタを演じても上手と下手では全く別の話を聞いているほどの違いになってしまいます。
それでは「語り口」とは何かと言えば、まずは声の調子や間の取り方、テンポなどあげられるでしょうし、さらに落語のように一人で全ての役をこなさなければいけない芸能だと、その人物に合わせた言葉遣いや話し方などと言うものも重要です。
よくいわれる様に、その違いは「武士」と「町人」という違いだけでなく、同じ町人であっても「職人」と「商人」とでは全く異なっていたからです。
考えてみれば、指揮者というのもこの古典落語の演者とよく似ています。
演じるのはどちらも「古典」であり、聞き手は「マクラ」から「サゲ」まで全てを知り尽くしています。聞き飽きるほど聞いた話をまた聞きに行こうと思うのは、話の内容よりは、その話をどのように語ってくれるかを期待して寄席やコンサートに出かけるわけです。
この「ヘンデルとグレーテル」の組曲はフンパーディンクにとっては全くあずかり知らない作品です。
例えてみれば、桂米朝の十八番だった「地獄八景亡者戯」のような長編落語(フルに演じると軽く1時間を超える)を、演者が適当に美味しい場面だけを抜粋して短縮版にしたようなものです、っていっても全然喩えになっていなかったりしますね。(^^;
つまりは、指揮者であるケンペがオペラのなかから適当に美味しい部分を5曲ほど抜き出してコンサート用の組曲に仕立て直したものなのです。
- 前奏曲
- 魔女の騎行
- 生姜パンの家
- 魔女のワルツ
- 夢のパントマイム
こういう短縮版を上演するときは、それを聞いてオペラを見たような気分になれるかどうかがポイントです。
そのためには、オペラ全体を俯瞰できるように「部分」を切り出してくることと、何よりもその「部分」だけで「全体」をイメージできるような「語り口の上手さ」が不可欠なものとなります。
そして、ケンペの場合は、その辺りがもう実に上手いのです。
さらに言えば、ただ上手いだけでなくオーケストラをかなり重厚に響かせることで、このオペラの根っこにワーグナーがいることをどんなに鈍な聞き手に対しても分かるように演奏してくれています。
その意味では、オケがロイヤル・フィルではなくてウィーンフィルならもっとよかったのになど思ったりもするのですが、そう言う贅沢は言うのは止にしましょう。
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