ハイドン:交響曲第7番 ハ長調「昼」, Hob.I:7
マックス・ゴバーマン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1960年~1962年録音
Haydn:Symphony No.7 in C major, Hob.I:7 "Le Midi" [1.Adagio - Allegro]
Haydn:Symphony No.7 in C major, Hob.I:7 "Le Midi" [2.Recitativo. Adagio - Allegro - Adagio]
Haydn:Symphony No.7 in C major, Hob.I:7 "Le Midi" [3.Adagio - Allegro - Adagio]
Haydn:Symphony No.7 in C major, Hob.I:7 "Le Midi" [4.Minuet - Trio]
Haydn:Symphony No.7 in C major, Hob.I:7 "Le Midi" [5.Finale. Allegro]
初期シンフォニーの最高傑作

「朝」「昼」「夕」の三部作の中で唯一自筆楽譜が残っている作品です。注目すべきは、その自筆譜には「昼」とのみ記されていて、「交響曲」という記述はないと言うことです。
つまりは、ハイドンはこの三部作を「交響曲」として認識していたのかどうかは疑問が残るのです。
ちなみに、この三部作が「交響曲」とされているのは、19世紀に入ってからハイドンの作品目録を作成したエルスラーが、この作品を交響曲として分類したことによると言われています。
確かに、この三部作には独奏楽器が活躍する場面が多いので、18世紀後半に流行した「サンフォニー・コンセルタント(協奏交響曲)」の方に近しいのかも知れません。
「サンフォニー・コンセルタント」とは幾つかの独奏楽器をもった交響曲のような形式の音楽で、18世紀後半のマンハイムやパリでは大いに流行したスタイルです。ただし、それらの音楽の大部分は現在では殆ど忘れ去られていて、モーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」くらいが記憶に残っている程度です。
ただし、そう言うモーツァルトの作品と較べてみれば、ハイドンの三部作ではより多くの独奏楽器が活躍するので、どちらかと言えばより古い「コンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)」の方に近しいのかも知れません。
しかし、音楽全体を俯瞰してみればソナタ形式に裏打ちされた強い形式感を持っていますから、管楽器や弦楽器に独奏場面を多く用意した交響曲という見方も出来ます。
そう考えれば、これもまた「交響曲」というジャンルにおいて様々な実験を行ったハイドンらしい作品だといえるのかもしれません
なお、この第7番の交響曲は5楽章構成という変則スタイルなのですが、ハイドン研究者であるランドンは第2楽章と第3楽章を連続した一つの楽章と見なす説を提起しています。
Hob.I:7 Symphony No.7 in C major "Le Midi"
- 第1楽章:Adagio - Allegro
コンチェルト・グロッソにおける「コンチェルティーノ」と「トゥッティ」の繰り返しを思わせる音楽です。
- 第2楽章:Recitativo. Adagio - Allegro - Adagio
オペラの伴奏つきのレチタティーボを思わせる音楽です。どこか悲劇的な雰囲気が漂います。
- 第3楽章:Adagio - Allegro - Adagio
二本のフルートの独奏によって音楽は一転して明るいものに変わります。
しかし、聞き所はそれに続くチェロとヴァイオリンによる二重奏であり、そこへヴァイオリンとチェロによるカデンツァを用意してエステハージの宮廷楽団を代表する二人の奏者(ヴァイオリン奏者のルイージ・トマーニとチェロ奏者のアントン・クラフト)にその腕間を披露する場を与えています。(
- 第4楽章:Minuet - Trio
バロック風のメヌエットなのですが、ここではホルンとファゴット、さらにはコントラバスにまで独奏場面を用意しています。
- 第5楽章:Finale. Allegro
まるでフルート・コンチェルトかと思わせるような始まりなのですが、最後はオーケストラの全ての楽器に独奏の場面を用意して曲を閉じます。
新しい副楽長ハイドンの素晴らしい気配りです!!
ミュージカルの世界で人気を博してきたゴバーマンには明るく軽やかに振る舞うというスタイルが身にしみついていたのかもしれません
世間ではこれを、「現在のピリオド楽器演奏の原型ともいうべき、スリムで新鮮な演奏を繰り広げて」いると評しているのですが、それは少し違うような気がします。
おそらく、ピリオド楽器による演奏というスタイルがクラシック音楽の演奏史における一つの到達点だと信じている人にしてみれば、それは「褒め言葉」のつもりなのでしょう。
しかしながら、クラシック音楽の演奏史というのはそんなところを目指して「進化」していったわけではないのですから、少しでも「似た」ところがあれば、それを「現在のピリオド楽器演奏の原型」だと主張するのは我田引水が過ぎます。
このゴバーマンの演奏は、疑いもなくモダン楽器を前提とした解釈に基づく演奏です。
それは、例えば、ハイドンの初期の有名作である6番から8番の「朝」「昼」「夕」というタイトルの3部作あたりを聞くだけですぐに了解できるはずです。
あの交響曲はハイドンがエステルハージの宮廷に仕えて、はじめて侯からの依頼で作曲した3部作でした。
ハイドンはそこで、宮廷楽団の各奏者の腕前を披露するために、それぞれの楽器に独奏場面を用意しています。
ゴバーマンはその独奏場面において管楽器の美しさを存分に振りまいているのです。
この録音のオーケストラは「ウィーン国立歌劇場管弦楽団」となっているのですが、これは疑いもなくウィーンフィルのメンバーも含んだ歌劇場のオケでしょう。
シェルヘンの場合は「ウィーン国立歌劇場管弦楽団」といっても怪しい部分も多くて、実際そのかなりの部分はフォルクスオーパーのオケであったことはよく知られているのですが、ここでは疑いもなくシュタッツオーパーのオケです。そして、この素晴らしい響きを聞く限りでは、ほとんどウィーンフィルのメンバーとニアイコールではないかと思われます。
こんなにもモダン楽器としての艶やかな美しさをふりまく演奏を「ピリオド楽器演奏の原型」などといわれるのは、到底納得行くものではありません。
おそらく、こういう演奏スタイルの背景には、彼が長年率いていた「ニューヨーク・シンフォニエッタ」というオーケストラが小ぶりな編成だったこと起因しているのかも知れません。
そして、それはミュージカル演奏のオケにおいても同様でしょう。
さらに言えば、長年ミュージカルという世界で人気を博してきたことが、音楽というものは重くてむっつりと演奏するのではなくて、明るく軽やかに振る舞うというスタイルが身にしみついていたのかもしれません。
ただし、それが「ポール・モーリア」とか「レイモン・ルフェーブル」のようなイージー・リスニング風の音楽にはならなかったのは、その根っこがクラシック音楽の世界に深く食い込んでいたからでしょう。
聞くところによると、「ポール・モーリア」とか「レイモン・ルフェーブル」のようなオケは、コンサートツアーなどが行われるたびに人を集めて編成されるようなので、そもそも「固有のオケの響き」などと言うものは存在しないとのことです。
そう考えれば、ゴバーマンが長年過ごしたブロードウェイの方がまだ音楽的だったのかも知れません。
そして、そんなゴバーマンが再びクラシック音楽の世界に帰ってきて最初に取り組んだのがハイドンの初期シンフォニーやヴィヴァルディの音楽だったというのは実に賢い選択肢だったと言えます。
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