バルトーク:管弦楽のための協奏曲 Sz.116
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1965年9月録音
Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [1.Introduzione]
Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [2.Giuoco delle coppie]
Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [3.Elegia]
Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [4.Intermezzo interrotto]
Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [5.Finale]
ハンガリーの大平原に沈む真っ赤な夕陽
この管弦楽のための協奏曲の第3曲「エレジー」を聞くと、ハンガリーの大平原に沈む真っ赤な夕陽を思い出すと言ったのは誰だったでしょうか?それも、涙でにじんだ真っ赤な夕陽だと書いていたような気がします。
上手いことを言うものです。音楽を言葉で語るというのは難しいものですが、このように、あまりにも上手く言い当てた言葉と出会うとうれしくなってしまいます。そして、この第4曲「中断された間奏曲」もラプソディックな雰囲気を漂わせながらも、同時に何とも言えない苦い遊びとなっています。ユング君はこの音楽にも同じような光景が目に浮かびます。
バルトークが亡命したアメリカはシェーンベルグに代表されるような無調の音楽がもてはやされているときで、民族主義的な彼の音楽は時代遅れの音楽と思われていました。そのため、彼が手にした仕事は生きていくのも精一杯というもので、ヨーロッパ時代の彼の名声を知るものには信じがたいほどの冷遇で、その生活は貧窮を極めました。
そんなバルトークに援助の手をさしのべたのがボストン交響楽団の指揮者だったクーセヴィツキーでした。もちろんお金を援助するのでは、バルトークがそれを拒絶するのは明らかでしたから、作品を依頼するという形で援助の手をさしのべました。
そのおかげで、私たちは20世紀を代表するこの傑作「管弦楽のための協奏曲」を手にすることができました。(クーセヴィツキーに感謝!!)
一般的にアメリカに亡命してから作曲されたバルトークの作品は、ヨーロッパ時代のものと比べればはっきりと一線を画しています。その変化を専門家の中には「後退」ととらえる人もいて、ヨーロッパ時代の作品を持ってバルトークの頂点と主張します。確かにその気持ちは分からないではありませんが、ユング君は分かりやすくて、人の心の琴線にまっすぐ触れてくるようなアメリカ時代の作品が大好きです。
また、その様な変化はアメリカへの亡命で一層はっきりしたものとなってはいますが、亡命直前に書かれた「弦楽四重奏曲第6番」や「弦楽のためのディヴェルティメント」なども、それ以前の作品と比べればある種の分かりやすさを感じます。そして、聞こうとする意志と耳さえあれば、ロマン的な心情さえも十分に聞き取ることもできます。
亡命が一つのきっかけとなったことは確かでしょうが、その様な作品の変化は突然に訪れたものではなく、彼の作品の今までの延長線上にあるような気がするのですが、いかがなものでしょうか。
くまなく鉋をかけたような・・・。
いわゆる「カラヤン美学」と呼ばれる流儀で音楽を演奏するようになるのはこの時期からのようです。もちろん、それ以前からもそれらしい雰囲気はあったのですが、誰が聞いても「ああ、これはカラヤンだ!!」と言う刻印が押されるようになるのはこの60年代の中頃からのようです。
まずは、精緻極まるアンサンブルであり(あれっ?と思う部分はありますが気のせいでしょう)、ある意味では妖艶とも思えるような響きです。そして、そうやって紡がれていく音楽の細部という細部がくまなく鉋をかけたように研かれていくのです。
それが宮大工ならば「いい仕事」と言うことになるのでしょうが、こういう場合だとどうなんでしょうか?
言ってみれば、一切のデコボコが全て滑らかに、そしてこの上もない丹念さで削られていくので、結果として全体の印象がなで肩の優美な姿にならざるを得ません。そして、それを美しいと思う人は文句なく美しいと思うことでしょう。
当然の事ながら、それをもって「これはバルトークではない!」という人が現れるでしょう。そして、そんな事はカラヤン自身が百も承知していたはずです。にも関わらず、カラヤンはこのような表現を選んだという事実を重く受け止めるべきなのでしょう。明らかに、カラヤンはベルリンフィルを完全に手中に収めた60年代の中頃から、彼が目指す「美しい音楽」を指向するようになったのです。
もちろん、自らの中にある価値観を大切にすることは大切なことです。しかし、それに拘泥するあまり、それに違えると思えるものを入り口で切って捨てるのは偏狭に過ぎるでしょう。
正直言って、私の中のバルトークというのは結構野蛮な面を持った人だと思うので、これはあまりにも「美し」すぎるとは思います。しかし、だからといって、この演奏を入り口で拒絶するような聴き方はしたくはありません。一度はゆっくりと相手の言い分も聞いた上で、その後も聞き続けるかどうかくらいは判断したいと思います。
少なくとも、自分の方向性と価値観を基準にして「あれが一番でこれが二番」みたいな阿呆な物言いは慎みたいとは思っています。
それから、もう一つ付け加えておきたいのは、この録音のクオリティに関わる評価です。これもまた、ネット上では残響過多の風呂場で録音したような響きだという酷評があふれています。確かに、たっぷりとホールトーンは取り込まれていることは事実ですが、それにマスキングされて個々の楽器の響きが曖昧になっているようなことは断じてありません。
録音というものが持つ価値を誰よりも知り抜いていたカラヤンが、そんなプアな録音を許可するはずはないのです。
よせられたコメント 2025-08-07:Duke Nyan 確かに数小節聴くと、指揮はあのお方だと分かりました。聞きやすくてバルトークの入口にふさわしいと考えます。
ある意味では、このような調理方法もあるのかと感心したり、音響の素晴らしさにびっくりしたりしました。もっと、現代音楽が理解されるといいなあと考えつつ、楽しく聴かさていただきました。ありがとうございました。
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