メンデルスゾーン:交響曲第4番 イ長調 作品90 「イタリア」
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮 ミネアポリス交響楽団 1961年11月25日録音
Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 Italian [1.Allegro vivace]
Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 Italian [2.Andante con moto]
Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 Italian [3.Con moto moderato]
Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 Italian [4.Saltarello. Presto]
弾むリズムとほの暗いメロディ
メンデルスゾーンが書いた交響曲の中で最も有名なのがこの「イタリア」でしょう。
この作品はその名の通り1830年から31年にかけてのイタリア旅行の最中にインスピレーションを得てイタリアの地で作曲されました。しかし、旅行中に完成することはなく、ロンドンのフィルハーモニア協会からの依頼を受けて1833年にようやく完成させています。
初演は同年の5月13日に自らの指揮で初演を行い大成功をおさめるのですが、メンデルスゾーン自身は不満を感じたようで、その後38年に大規模な改訂を行っています。ただ、その改訂もメンデルゾーン自身を満足させるものではなくて、結局彼は死ぬまでこの作品のスコアを手元に置いて改訂を続けました。そのため、現在では問題が残されたままの改訂版ではなくて、それなりに仕上がった33年版を用いることが一般的です。
作品の特徴は弾むようなリズムがもたらす躍動感と、短調のメロディが不思議な融合を見せている点にあります。
通常この作品は「イタリア」という名が示すように、明るい陽光を連想させる音楽をイメージするのですが、実態は第2楽章と最終楽章が短調で書かれていて、ほの暗い情感を醸し出しています。明るさ一辺倒のように見える第1楽章でも、中間部は短調で書かれています。
しかし、音楽は常に細かく揺れ動き、とりわけ最終楽章は「サルタレロ」と呼ばれるイタリア舞曲のリズムが全編を貫いていて、実に不思議な感覚を味わうことができます。
アメリカというのは凄い国だった
リビング・ステレオのカタログを眺めてみると、メンデルスゾーンの交響曲に関しては以下の3名の指揮による録音が並んでいます。
- 交響曲第3番 イ短調 作品56 「スコットランド」:アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1956年7月3~5日録音
- 交響曲第4番 イ長調 作品90 「イタリア」:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮 ミネアポリス交響楽団 1961年11月25日録音
- 交響曲第5番 ニ長調 作品107 「 宗教改革」:ポール・パレー指揮 デトロイト交響楽団 1958年3月21日録音
今となってはそれほど注目される録音ではないのでしょうが、あらためて聞き直してみると、そのとんがり具合にはいささか感動させられます。そして、そのとんがり具合もまた、三者三様で実に面白いのです。
「アンタル・ドラティ」「スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ」「ポール・パレー」と並べてみると、最も穏健な表現が期待されるのはドラティだと思うのですが、聞いてみて最も男性的な表現になっているので驚かされます。この「男性的」という言葉はかなり気を遣った言葉遣いであって「暴力的」と置き換えてもそれほど異論は出ないだろうと思うようなスタイルです。
ただし、この3つの中では録音年代が最も古いので、細部がそれほどクリアに録れていないという面も否定できません。しかし、それでもでっかいハンマーでぶん殴るような響きが充満していて驚かされます。
おそらく、「スコットランド」という愛称を持つこの憂愁に満ちた音楽の表現としては、この演奏は最大限の好意をもって見ても内角高めのかなりきわどいところをついたぎりぎりストライクと言うのが限界です。普通に見れば打者の胸元をえぐって仰け反らせる類のボールという感じでしょう。
ただし、これもまたいつも言っているように、あれこれの「スコットランド」を聞いてきていささか食傷気味だという人にとっては、その手のビーンボールもまた「かかってこい」感覚で面白いのかもしれません。
次に意外だったのは、この3人の顔ぶれならば最もシャープな表現を期待してしまうパレーが、結果としては最も正統派の表現に徹していることです。
第5番の「宗教改革」はこの3曲の中では最も甘さに溢れた音楽なのですから、その手の甘さを期待すれば肩すかしを食らうのですが、それでもエキセントリックな感じは全くしない範囲で堂々たるシンフォニーとして仕上げています。とりわけ、第3楽章の憂愁から最終楽章にかけての盛り上がりについては、ちょっと涙が出るほどの素晴らしさです。
そう言えば、
彼とデトロイト響の代表作であるシューマンの交響曲全集では、最初の第4番(54年録音)では「ザッハリヒカイトという言葉が裸足で逃げていきそうなくらいの割り切れた演奏」だったのが、最後の第1番(58年録音)ではもう少し常識的な範疇に収まるようになっていました。
この「宗教改革」もシューマンの1番と同時期の録音ですから、考えてみれば当然なのかもしれません。
そして、最後の「Mr.S」ですが、これはもう怖ろしいまでのキレキレの「イタリア」です。
スクロヴァチェフスキは自分のことを基本的には「作曲家」だと認識していましたから、「表現したいことは全て楽譜に詰め込んまれている」というのが基本的なスタンスでした。ですから、そのスコアに書かれた音は全て聞き手に伝えるべき努力をするのが指揮者の仕事だというスタンスを絶対に崩さない人でした。そう言う彼の信念が最もよく表現されているのがこの「イタリア」の録音だと言えます。
彼の指揮者としてのキャリアは、セルの目にとまってクリーブランド管の客演に招かれた事がきっかけだったのですが、これを聞けば、セルの「イタリア」がきわめて叙情的で優美な演奏だったと思えるほどです。
まあ、それにしても、こういう3人を起用して、こんなにも多様性に満ちた録音を残していたこの時代のアメリカというのは、本当に凄い国だったんだ!!と、しみじみと感心させてくれます。(2016年11月9日:トランプ大統領誕生の日に記す)
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