バルトーク:管弦楽のための協奏曲 Sz.116
クーベリック指揮 ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団 1958年4月9~10日録音
Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [1st movement "Introduzione"]
Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [2nd movement "Giuoco delle coppie"]
Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [3rd movement "Elegia"]
Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [4th movement "Intermezzo interrotto"]
Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [5th movement "Finale"]
ハンガリーの大平原に沈む真っ赤な夕陽
この管弦楽のための協奏曲の第3曲「エレジー」を聞くと、ハンガリーの大平原に沈む真っ赤な夕陽を思い出すと言ったのは誰だったでしょうか?それも、涙でにじんだ真っ赤な夕陽だと書いていたような気がします。
上手いことを言うものです。音楽を言葉で語るというのは難しいものですが、このように、あまりにも上手く言い当てた言葉と出会うとうれしくなってしまいます。そして、この第4曲「中断された間奏曲」もラプソディックな雰囲気を漂わせながらも、同時に何とも言えない苦い遊びとなっています。ユング君はこの音楽にも同じような光景が目に浮かびます。
バルトークが亡命したアメリカはシェーンベルグに代表されるような無調の音楽がもてはやされているときで、民族主義的な彼の音楽は時代遅れの音楽と思われていました。そのため、彼が手にした仕事は生きていくのも精一杯というもので、ヨーロッパ時代の彼の名声を知るものには信じがたいほどの冷遇で、その生活は貧窮を極めました。
そんなバルトークに援助の手をさしのべたのがボストン交響楽団の指揮者だったクーセヴィツキーでした。もちろんお金を援助するのでは、バルトークがそれを拒絶するのは明らかでしたから、作品を依頼するという形で援助の手をさしのべました。
そのおかげで、私たちは20世紀を代表するこの傑作「管弦楽のための協奏曲」を手にすることができました。(クーセヴィツキーに感謝!!)
一般的にアメリカに亡命してから作曲されたバルトークの作品は、ヨーロッパ時代のものと比べればはっきりと一線を画しています。その変化を専門家の中には「後退」ととらえる人もいて、ヨーロッパ時代の作品を持ってバルトークの頂点と主張します。確かにその気持ちは分からないではありませんが、ユング君は分かりやすくて、人の心の琴線にまっすぐ触れてくるようなアメリカ時代の作品が大好きです。
また、その様な変化はアメリカへの亡命で一層はっきりしたものとなってはいますが、亡命直前に書かれた「弦楽四重奏曲第6番」や「弦楽のためのディヴェルティメント」なども、それ以前の作品と比べればある種の分かりやすさを感じます。そして、聞こうとする意志と耳さえあれば、ロマン的な心情さえも十分に聞き取ることもできます。
亡命が一つのきっかけとなったことは確かでしょうが、その様な作品の変化は突然に訪れたものではなく、彼の作品の今までの延長線上にあるような気がするのですが、いかがなものでしょうか。
<追記>
一度アップしてあったのですが、その後作品そのものの著作権が切れていないことが判明したので急遽削除した音源です。ところが、最近調べてみると、なぜか著作権が消滅していることが判明しました。
バルトークに関わる戦時加算の適用はきわめて複雑なようです。(よく分かりません^^;)
でも、無事にこの作品もパブリックドメインの仲間入りをしたようなので、再びアップしておきます。
美しさを抽出したオケコン
普通にイメージするオケコンとは随分雰囲気の違う演奏です。もっとも、「普通」という言葉は実に曖昧なもので、何を基準点として「普通」なのかを言わなければ、こういう物言いは何も言っていないことに等しくなります。
ですから、もう少し言葉をたす必要があります。
ここで、基準点となっているのはライナー、セル、ショルティというライン上にある演奏であり、もう一つの基準点はフリッチャイに代表されるような基準点です。
前者のラインを一言で言えば、オケの機能を存分に発揮して、さらにその機能を完璧にコントロールしてバルトークが持っている理知的な部分をクリアに作り上げる世界です。
それに対して、後者のラインはバルトークという男が持つ理知的な面ではなく、彼が本質的に持っていたハンガリーの民族性、土臭さを失っていない世界です。
きわめて単純化していってしまうと、バルトークという男は非常に理知的な作曲家というイメージがあるのですが、それとは真逆の民族的な土臭さというか野蛮さみたいなものも持ち合わせた音楽家でした。
ですから、彼の音楽を演奏しようとすれば、そのどちらかに重点がかからざるを得ないのです。
これが、最初に述べた「普通」が意味する基準点です。
ところが、このクーベリックの演奏は、そういう「普通」の演奏とは随分雰囲気が異なるのです。
これでやっと、何かものを言っている範疇に入りました。(^^;
一見すると、この演奏はロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団というそれほど機能性の高くないオケを駆使しながらも、バルトークのスコアを緻密に表現しようとしているように聞こえます。
実際、ロイヤル・フィルはその要求に誠実にこたえようとしています。
このロイヤル・フィルというのは不思議な楽団で、厳しすぎるトレーニングゆえにアメリカを追われたロジンスキーと組んで素晴らしい録音を残していたりします。その録音風景も残されているのですが、アメリカを追われた失意の指揮者であったロジンスキーに対して非常に協力的です。そして、ロジンスキーの細かい要求にも誠実にこたえようと奮闘努力している姿がうかがえます。
ですから、この録音でも、細部を入念に整えようとするクーベリックに対して誠心誠意こたえていることは十分に伺えます。
しかし、出来上がってきた音楽はライナーやセルのものとは全く違うものになっています。
もちろん、その違うものになってしまった原因はオケにではなく指揮者の方にあります。
クーベリックは、この作品が持っている尖った部分や引っかかりを感じるような部分は、全て綺麗に鉋がけをして滑らかに仕上げています。さらに、「管弦楽のための協奏曲」という、まじめに読めば意味不明か人をバカにしているとしか思えないようなタイトルを持っているこの作品に封じ込められた「美しい瞬間」を徹底的に拡大して提示しています。
NHKが「世界で一番美しいとき」などと言う番組を放送していますが、それになぞらえれば、「オケコンの一番美しいとき」みたいな演奏なのです。
古典派からロマン派までの音楽が守備範囲の人にとっては取っつきやすい部類には入らないのがバルトークの音楽です。しかし、この演奏は、そう言う取っつきの悪いバルトークの音楽を出来る限り取っつきやすくした演奏だと言えます。
もちろん、視点を変えれば、この作品の中に潜んでいる「美しい」瞬間を丹念に掘り起こした演奏だとも言えます。
まあ、どちらにしても「普通」ではない演奏であることは事実です。
とはいえ、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の健闘には拍手!!
よせられたコメント
2017-02-19:Guinness
- 1958年としては最高レベルの録音ではないでしょうか?聞きほれました。音源はEMIだと思うのですが、このころのEMIにはクレンペラーのスコットランドやカラヤンのシベ2の様に非常に優れた録音がありますね。
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