ショパン:ノクターン 第20番(ヴァイオリン編曲)
(Vn)ミルシテイン(P)ポンマー 1956年2月3日録音
Chopin:ノクターン 第20番(ヴァイオリン編曲)
初恋のノクターン
ショパンの数ある作品の中では、最近では認知度ナンバーワンかもしれません。
映画「戦場のピアニスト」ではこの音楽象徴的に使われましたし、最近では平原綾香が「風のガーデン」の主題歌として取り上げています。
特に、「風のガーデン」は人の生と死の問題を真正面から問いかけたもので、本当に素晴らしいドラマでしたね。
この作品は、もともとは姉のルドヴィカ・ショパンがピアノ協奏曲第2番を練習する時のための曲として書かれたものと言われています。ですから、このノクターンにも「初恋のコンチェルト」のテイストが流れ込んでいます。いや、コンチェルト以上に、甘く切ない雰囲気にあふれています。
「僕は悲しいかな、僕の理想を発見したようだ。この半年というもの、毎晩彼女を夢見るがまだ彼女とは一言も口をきいていない。あの人のことを想っているあいだに僕は僕の協奏曲のアダージョを書いた」
このショパンの言葉が、もっとも美しく刻み込まれた音楽だと言えます。
何か物足りない
50?60年代のミルシテインの録音を少しばかりまとめて聴いてみました。
少し前に、モノラル録音によるバッハの無伴奏をアップしたのですが、その時は「モノラルという録音のせいもあるのでしょうが、ガツン!!という感じの強靱なヴァイオリンの響きでグイグイとラインを描いていくような雰囲気が印象的で、晩年の美音を主体としたロマンティックな風情とはずいぶんと様子が異なります。」なんて書いていました。
今回聞いたのは、そこから数年しかたってないような時期の録音なのですが、明らかに「美音を主体としたロマンティックな風情」に雰囲気が変わっていることに驚かされました。
たとえば、ベートーベンのヴァイオリンソナタの5番「春」などは、弱音部はまさに「嫋々」という感じの歌い回しで、ロマンティックにテンポを揺らしながら演奏しています。あの、タルティーニの「悪魔のトリル」なんかも全く同様のアプローチで、何となくロマン派の小品を聞いているような錯覚に陥ります。
モーツァルトのヴァイオリンソナタも基本は同じで、あの有名なホ短調のソナタなんかも実にロマンティックに仕上がっています。
おそらく、この弱音部は徹底的に音量を抑えて、さらに細かい表情づけをしていくのがこの時期のミルシテインの特徴のようです。そして、こういうやり方は、ヴァイオリンソナタみたいな音楽では、結構プラスにはたいているように見えます。もっとも、「聴いてる最中はものすごくうまいと思うし、音色も非常に美しく感心することしきりなのだが、聴いてしばらく経つと、もうその感銘が残っていない。」という意見もあって、それはそれで十分納得がいくという演奏です。
つまりは、何というか、「腰が弱い」のです。
その「腰の弱さ」、言葉をかえれば「ナヨッとした雰囲気」が好きか嫌いかで、ずいぶん感想は変わってくるだろうなと思います。
しかし、これがベートーベンやチャイコフスキーなどの協奏曲になると、感想はがらっと変わってしまいます。明らかに、そのような大作になると、「腰の弱さ」は「好き嫌い」という範疇を越えて、明らかに「物足りない」という領域に踏み込んでしまいます。
そう言えば、その昔ハイフェッツが自分自身の役で映画に出演してメンコンを演奏するシーンがありました。
音はきわめて貧弱なものだったのですが、それはそれは、すさまじいまでの迫力に満ちたもので、ハイフェッツとは何者だったのかをはっきりと教えてくれるものでした。
まさに、こういう演奏こそが「腰が強い」と言える代物であって、音の悪さなんかおかまないなしに演奏する人の気迫が聞き手にグイグイと伝わってきます。もう、聞き終わったあとはノックダウン状態で、その感銘はいつまでも心の中に残り続けます。
そう考えると、音楽というのは恐ろしいものです。
テクニック的にも万全で、音色もこの上もなく美しいのに、作品によっては「何か物足りない」ものを感じてしまうのです。聞き手というのは、ホントに贅沢なものです。
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