クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68

ジョージ・セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1957年3月1,2日録音





Brahms:交響曲第1番 ハ短調 作品68 「第1楽章」

Brahms:交響曲第1番 ハ短調 作品68 「第2楽章」

Brahms:交響曲第1番 ハ短調 作品68 「第3楽章」

Brahms:交響曲第1番 ハ短調 作品68 「第4楽章」


ベートーヴェンの影を乗り越えて

 ブラームスにとって交響曲を作曲するということは、ベートーヴェンの影を乗り越えることを意味していました。それだけに、この第1番の完成までには大変な時間を要しています。

 彼がこの作品に着手してから完成までに要した20年の歳月は、言葉を変えればベートーヴェンの影がいかに大きかったかを示しています。そうして完成したこの第1交響曲は、古典的なたたずまいをみせながら、その内容においては疑いもなく新しい時代の音楽となっています。


 この交響曲は、初演のときから第4楽章のテーマが、ベートーヴェンの第9と似通っていることが指摘されていました。それに対して、ブラームスは、「そんなことは、聞けば豚でも分かる!」と言って、きわめて不機嫌だったようです。

 確かにこの作品には色濃くベートーヴェンの姿が影を落としています。最終楽章の音楽の流れなんかも第9とそっくりです。姿・形も古典派の交響曲によく似ています。
 しかし、ここに聞ける音楽は疑いもなくロマン派の音楽そのものです。

 彼がここで問題にしているのは一人の人間です。人類や神のような大きな問題ではなく、個人に属するレベルでの人間の問題です。
 音楽はもはや神をたたるものでなく、人類の偉大さをたたえるものでもなく、一人の人間を見つめるものへと変化していった時代の交響曲です。

 しかし、この作品好き嫌いが多いようですね。
 嫌いだと言う人は、この異常に気合の入った、力みかえったような音楽が鬱陶しく感じるようです。
 好きだと言う人は、この同じ音楽に、青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感に魅力を感じるようです。

 ユング君は、若いときは大好きでした。
 そして、もはや若いとはいえなくなった昨今は、正直言って少し鬱陶しく感じてきています。(^^;;
 かつて、吉田秀和氏が、力みかえった青春の澱のようなものを感じると書いていて、大変な反発を感じたものですが、最近はこの言葉に幾ばくかの共感を感じます。
 それだけ年をとったということでしょうか。

 なんだか、リトマス試験紙みたいな音楽です。

時が変わってもスタンスは変わらない


セルは60年代にブラームスの交響曲をまとめて録音しています。おそらく、セルの指揮でブラームスを聴きたければ、この60年代のステレオ録音を聞くのがベストでしょう。そんな意識もあったためか、この57年に録音されたブラームスの1番をアップするのをすっかり忘れていました。
そして、このいささか古いモノラル録音をアップするために久しぶりに聞き直してみて、セルという指揮者は若いときも壮年期も、そして晩年においても、そのスタンスの変わらなさに改めて感心させられました。
同じ事はドヴォルザークの交響曲などにも言えることで、たとえば有名な第9番「新世界より」などは、SP盤、モノラル、ステレオと都合3回も録音していますが、その全てを聞いて「セルという人は死ぬまで、全く同じスタンスでドヴォルザークを解釈し続けたんだなと変なところで感心させられます。」などと書いたことがありました。
このブラームスでも、そのぶれない「解釈」には感心させられます。

よく、指揮者は年を重ねるにつれて円熟味を増して「芸が深まる」などと言われます。しかし、その実態は「深まる」どころか、ただの「衰え」でしかないことの方が多いものです。確かに、70代前半でなくなったセルは、衰える前に上手くこの世を去ったと言えるのかもしれませんが、それでもこの衰えのなさは凄いことです。
ただ、じっくりと聞き込んでみると、モノラルとステレオ録音の間に横たわる10年はセルという男を少しは丸くしたような形跡は感じ取れます。このモノラル録音からは、オケを睥睨するセルの怖い目があちこちで感じ取れると言えばいささか大袈裟にすぎるでしょうか。
というのは、このブラームスも素っ気なく構築しているように見えて、細部では結構細かいニュアンスをちりばめています。そして、その細かいニュアンスが60年代のステレオ録音では多少は手綱がゆるんだ中での自発性からもたらされるように聞こえるのに対して、このモノラル録音ではそれらは全て徹底した指示と練習の成果のように聞こえるのです。

ただ、惜しむらくは、57年の録音にしては、今ひとつ音が冴えないことです。部分的にはオケが有機的にうねるような雰囲気をとらえているところもあるのですが、全体的には音が乾き気味で潤いにかけます。かえすがえすも、それが残念です。

よせられたコメント

2012-11-30:ヨハネス


2013-02-16:セル好き


2013-02-17:セル好き


2017-01-29:koinu


【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-11-24]

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98(Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

[2024-11-21]

ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)

[2024-11-19]

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)

[2024-11-17]

フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)

[2024-11-15]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-11-13]

ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)

[2024-11-11]

ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)

[2024-11-09]

ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

[2024-11-07]

ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)

[2024-11-04]

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

?>