クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

シベリウス:交響詩「エン・サガ」 Op.9

エドワルド・フォン・ベイヌム指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1952年録音





Sibelius:交響詩「エン・サガ」 Op.9


私の青春のすべてが含まれている

シベリウスの最初の「交響詩」ですが、この作品のことをシベリウスは次のように述べています。
「心理的に言えば、《エン・サガ》は、私の最も深みのある作品の一つです。私の青春のすべてが含まれていると言っても構いません。」
ウィキペディアで紹介されていた言葉なのですが、いつ頃のものなのかあれこれ調べてみても分かりませんでした。しかし、「私の青春のすべてが含まれている」という表現から、おそらくは晩年になってからの言葉ではないかと推測されます。そして、もしそうだとすれば、これは自己批判力の強いシベリウスにしては実に思い切った表現だと言わざるを得ません。

この作品はクレルヴォ交響曲の成功を受けて、コンサートのアンコールピース用としてカヤヌスが依頼したことで生み出されました。しかし、できあがった作品は交響詩としてはかなり規模の大きなもので、アンコールピースとして使えるような代物ではありませんでした。

実は、シベリウスはこの時期、とても悩んでいました。
原因は「オペラ」の創作です。

どこかで読んだ話ですが、録音技術が進歩してレコードからまとまった収入が期待できるまでは、作曲家にとって「オペラ」で成功することが経済的に成功する唯一の手段だったそうです。
つまり、いくら交響曲や室内楽ですぐれた作品を生み続けても、それらの作品が何度もコンサートで取り上げられることはありません。しかし、オペラならば一度成功すれば同じ作品が何度も劇場で取り上げられますからまとまった収入が保証されます。事実、オペラで大成功したロッシーニはさっさと作曲家を引退して、後半生は好きな料理で人生を楽しみました。ですから、この時代の作曲家はオペラで成功することを最終目標としていたのです。
もちろん、シベリウスがその様な「金銭」絡みの動機だけでオペラに取り組んだかどうかは分かりませんが、クレルヴォ交響曲の成功をステップとしてオペラの創作に着手した経過は同時代の作曲家たちと全く同じです。やはり、この時代の作曲家にとってオペラでの成功というのは魅力的だったのです。
しかし、そこに立ちはだかった男がいました。ワーグナーです。

「カレワラ」を題材としたオペラに取り組み始めたシベリウスは、オペラという形式の学習を深めるためにバイロイトへと向かいます。しかし、そこで出会ったワーグナーの音楽は彼を魅了するとともに、己の能力の可能性に対して深い疑念を生み出すきっかけともなってしまったのです。
シベリウスという人は若い頃から少しばかり頓珍漢でエキセントリックな面がありましたから、この時も妻に宛てて肉体労働者として生きていくことを提案し、釘作りの工場で実際に己の能力を試したりもしています。しかし、幸いなことに彼の手からは曲がった釘ばかりが生み出され、職人よりは音楽家としての方が適性があることを再び悟ることになります。

「エン・サガを作曲している間、私は自分を混乱させたあらゆることを無事に切り抜けなければならなかったのです。エン・サガほどに私をへとへとに草臥れさせた作品はほかにありません。」と述べているのは、おそらくその様な事情を思い返してものなのでしょう。
そして、その後も時にはオペラへの誘惑に駆られることもあったようですが、基本的には「最後のシンフォニスト」としての活動を展開していくことになります。この「エン・サガ」は、その様なシンフォニストとしてのシベリウスを方向付けた作品だと言えます。
そして、それ故に、シベリウスの「伝説」と言えば常にフィンランドの古い民話である「カレワラ」と結びつけるのが一般的なのですが、このエン・サガだけは「カレワラ」とは結びつけられていません。では、この伝説の英雄は誰なのかと問われてもシベリウスは「エン・サガの解釈だけは、どうにも私の性分に合わないのです。」と述べて何も語ろうとしていません。
もしかしたら、ここで描かれている英雄はワーグナーであり、それを彼の心の中で葬ったのがこの作品なのかもしれません。あくまでも、ユング君の独りよがりの妄想ですが・・・。

実にダイナミックなシベリウスです


シベリウスが未だ存命中は、今からでは想像も出来ないほど彼のポジションは高かったようです。ですから、この50年代の初頭という時期はまさにシベリウスの評価が絶頂にあった時期で、実に多くの指揮者が彼の作品を取り上げています。
このエン・サガも今ではかなりのマイナー曲に分類されるようになってしまいましたが、調べてみるとあのフルトヴェングラーやトスカニーニも50年代には録音を残しているのです。ですから、コンセルトヘボウとシベリウスというのは何だかミスマッチな気がするのですが、この時代ならばみんなシベリウスを取り上げていたのです。
さて、ベイヌムの指揮によるこの演奏ですが、実にダイナミックで雄大な音楽に仕上がっています。果たしてシベリウスがこの作品にこのような派手な身振りを期待していたかは疑問ですが、聞いていて楽しいのは間違いありません。
さらに注目するのは、録音の質の高さです。録音を担当したのはデッカのカルショウらしいのですが、流石と言うしかありません。

よせられたコメント

2011-12-09:トリス


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