クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

J.S.バッハ:カンタータ第51番「全地よ、神を向かえて歓呼せよ」,BWV 51(J.S.Bach:Cantata: "Jauchzet Gott in Allen Landen", BWV 51)

(S)エリーザベト・シュヴァルツコップ:ペーター・ゲルホルン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1950年10月6日録音(Elisabeth Schwarzkopf:(cpn)Peter Gellhorn Philharmonia Orchestra Recorded on October 6, 1950)



J.S.Bach:Cantata: "Jauchzet Gott in Allen Landen", BWV 51 [1.Arie: Jauchzet Gott in Allen Landen]

J.S.Bach:Cantata: "Jauchzet Gott in Allen Landen", BWV 51 [2.Reziativt: Wir Beten Zu Dem Tempel An]

J.S.Bach:Cantata: "Jauchzet Gott in Allen Landen", BWV 51 [3.Arie: Hchster, Mache Deine Gter Ferner]

J.S.Bach:Cantata: "Jauchzet Gott in Allen Landen", BWV 51 [4.Choral: Sei Lob Und Preis Mit Ehren]

J.S.Bach:Cantata: "Jauchzet Gott in Allen Landen", BWV 51 [5.Arie: Alleluja]


極めてコンパクトかつ特殊な編成

バッハの教会カンタータの多くは合唱を伴いますが、この曲はソプラノ独唱、トランペット、弦楽器、通奏低音という、極めてコンパクトかつ特殊な編成で書かれています。
ソプラノ歌手には、きわめて高い音域と息の長い峻烈な技巧(コロラトゥーラ)が要求されます。
同時に、トランペットもソプラノと対等に渡り合う華やかなファンファーレを吹き鳴らします。

  1. 第1曲 アリア(Jauchzet Gott in allen Landen!)
    幕開けと同時に、トランペットが目が覚めるような鮮烈なファンファーレを響かせます。
    それに続いてソプラノが全く同じ主題を歌い出し、まるでソプラノとトランペットによる二重協奏曲のような華々しい競演が繰り広げられます。
    「全地よ、神に向かって歓呼せよ!」という歌詞の通り、息の長いコロラトゥーラ(細かい音符による装飾的な旋律)が、宗教的な歓喜を高らかに表現します。

  2. 第2曲 レチタティーヴォ(Wir beten zu dem Tempel an)
    前曲の熱狂から一転し、弦楽器の落ち着いた和音に乗せて、神への感謝を語りかけるように歌う抒情的な楽章です。
    バッハはここで、「つたない人間の口(表現)」であっても、神はその真摯な賛美を喜んで受け入れてくれるというメッセージを、優しく穏やかなメロディに託しています。

  3. 第3曲 アリア(Hochster, mache deine Gute)
    全曲のちょうど中心に位置する、内省的で非常に美しい哀愁を帯びたアリアです。
    12/8拍子という独特のゆったりとしたリズムのなかで、通奏低音の刻むラインに乗せてソプラノが切々と祈りを捧げます。華やかなトランペットをあえて完全に沈黙させることで、神と人間の1対1の深い対話(信仰)が強調されます。

  4. 第4曲 コラール(Sei Lob und Preis mit Ehren)
    ヨハン・グラウマンの有名な伝統的讃美歌(コラール)「わが魂よ、主を褒め称えよ」の第5節が使われています。
    音楽的な構造が非常にユニークで、2つのヴァイオリンが16分音符で激しく、かつ緻密な対位法(フーガ風の掛け合い)を繰り広げるストリングス・ウェブ(蜘蛛の巣)のなかを、ソプラノが長い音符で堂々と賛美歌のメロディを歌い上げていきます。
    この緻密な職人技のようなアンサンブルは、バッハの真骨頂と言えます。

  5. 第5曲 アリア(Allelujah!)
    第4曲のコラールから切れ目なく演奏される最終楽章です。ここで満を持してトランペットが再び参入し、祝祭的な空気が一気に戻ります。
    この楽章の歌詞は「アレルヤ(神を讃えよ)」というたった一言だけです。その一言だけで、ソプラノとトランペット、そして弦楽器が複雑に絡み合う「歓喜のフーガ(追いかけっこ)」を展開します。
    最後はソプラノが最高音域のトリルと圧倒的なコロラトゥーラを披露し、トランペットの華々しいファンファーレとともに、まばゆい光に包まれるように曲を閉じます。



シュヴァルツコップとウォルター・レッグ


私にとってシュヴァルツコップといえば、気品があって、卓越した歌唱技術と深い知性に裏打ちされた表現力の持ち主でした。
そして何よりも歌声もお姿も圧倒的な美しさを誇る神々しい存在でした。

しかし、彼女の録音をあれこれと聞いていると、1940年代の録音などは結構粗削りな歌唱で、私が思い浮かべるシュヴァルツコップとは異なるるので「フーン…」という感じになります。
彼女の歌唱の特徴は歌の隅々まで配慮が行き届いていて完成度が高いと言うことなのでしょうが、40年代の歌唱は勢いにまかせて気持ちよく歌っている感じがします。

この違いはなんだろうと思ってあれこれ考えていて、思いついたのがウォルター・レッグとの関係でした。
二人の出会いは第二次世界大戦直後の1946年のことでした。

レッグは新しい才能を求めてウィーンに赴き、そこでカラヤンからシュヴァルツコップを紹介されます。
彼は勧めに従って彼女の舞台を聞いてすぐにその才能を認め契約を申し出ます。

ここからは、全くの私の邪推です。
レッグがシュヴァルツコップの舞台を聞いて惚れ込んだのは「才能」なのか「美貌」なのか、シュヴァルツコップは疑ったのかもしれません。
おそらく、彼女ほどの美貌であればそう言うこともよくあったはずです。

普通ならば「契約」という言葉に飛びつきそうなところですが、伝えられるところでは、「私をきちんとオーディションしてから契約してちょうだい」みたいな事をいったそうです。
それに対してレッグも「生意気な女め」などと思わず、カラヤンにピアノ伴奏をさせてヴォルフの短い歌曲を歌わせました。

まあ、普通ならば何曲か歌って「はい、合格ね!」となるところなのでしょうが、レッグはヴォルフの短い歌曲を「今度はこういうニュアンスで」「次はもっと言葉に重みを持たせて」と、1時間以上にわたって何度も繰り返し歌わせたというのです。
かなり無茶苦茶なオーディションなのですが、シュヴァルツコップはレッグの要求にこたえて歌い続け、そこで初めて「契約」を受け入れたというのです。

後年に伝わる話では、その過酷なオーディションにレッグの本気と育てる才能を感じとって「この人こそ私のすべてを引き出してくれる指導者だ」と確信したというのです。

そして、そこで築かれた信頼関係はやがて1953年には「結婚」という形で落ち着くことになります。
しかし、レッグは彼女が妻となっても一切妥協はせず、何時間もスタジオに籠もり、発音の不自然さやわずかな音程のズレを指摘し続け、シュヴァルツコップが涙を流すことも日常茶飯事だったと言われています。

私がイメージするシュヴァルツコップというのは、疑いもなくこの二人によって磨き上げられた作品だったのです。

と、ここで話が終わればよかったのですが、どうしても触れておかなければいけないことがあります。
それが彼女とナチスとの関係です。この時代を生きたドイツ人にとってそれは避けては通れない重荷です。

結論から言えば、彼女はナチスの党員でした。
しかし、その事実を彼女は一貫して否定し、隠蔽し続けました。
戦後の「非ナチ化」の審査においてもナチスとの関わりを隠蔽することで追放を免れています。

この隠蔽が暴かれたのは、なんと1980年代に入ってからでした。
その間、彼女は入党の事実を頑なに否定していました。

しかし、80年代の調査で党員番号「7,548,960」を付与されていた事実が明らかにされました。
すると彼女は「家族を守るために従わざるを得なかった」「キャリアを継続するための形式的なものだった」などと自己弁護に終始しました。

その様なシュヴァルツコップの姿勢は強い批判を浴びました。
さらには、口さがない人々はレッグとの結婚も過去を隠蔽ずるための隠れ蓑だったのではないかなどと疑われることになります。
ちなみにレッグはイギリス系ユダヤ人でした。

しかし、少なくともレッグとの関係は自己保身のための隠れ蓑だったとは私には思えません。
それほどに、レッグ以前と以後では彼女の歌唱は大きく異なります。

とは言え、証拠を突きつけられるまでナチス入党の事実を偽っていたのはいただけません。
20世紀を代表するディーバにとっては拭いがたい汚点と言うしかありません。

とは言え、「芸術家がナチスのような極めて強権的な政治に対してどの様に向き合うべきだったのか」、そして、「事がただされた後に、その過去にどう誠実に向き合うべきなのか」と言うことは、いつも時代も向き合わざるを得ない事です。
それは他人事ではなく、全ての人が形を変えながらも問われ続けていることなのです。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2026-10-07]

J.S.バッハ:カンタータ第51番「全地よ、神を向かえて歓呼せよ」,BWV 51(J.S.Bach:Cantata: "Jauchzet Gott in Allen Landen", BWV 51)
(S)エリーザベト・シュヴァルツコップ:ペーター・ゲルホルン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1950年10月6日録音(Elisabeth Schwarzkopf:(cpn)Peter Gellhorn Philharmonia Orchestra Recorded on October 6, 1950)

[2026-10-05]

J.S.バッハ:管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV1069(J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069)
クルト・レーデル指揮:ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団 1962年2月録音(Kurt Redel:The Pro Arte Chamber Orchstra of Munich Recorded on February, 1962)

[2026-10-02]

ルイス・デ・ミラン:「エル・マエストロ」からのファンタジア、舞曲、そしてロマンセ(Luys Milan:Fantasias, Dances And Romances From El Maestro)
(Lute)ヴァルター・ゲルヴィッヒ:(T)ベルンハルト・ミヒャエリス 1956年11月30日~12月1日録音(Walter Gerwig:(T)Bernhard Michaelis Recorded on Novembar 30~December 1, 1956)

[2026-09-30]

ヴィヴァルデ:オーボエ協奏曲 ハ長調, Rv.447(Vivaldi:Oboe Concerto in C major, RV.447)
レナート・ファッサーノ指揮:(Ob)レナート・ザンフィーニ ローマ合奏団 1958年発行(Renato Fasano:(Ob)Renato Zanfini Virtuosi Di Roma Published in 1958)

[2026-09-28]

マヌエル・ポンセ:南の協奏曲(Manuel Ponce:Concierto del Sur)
(Gt)アンドレス・セゴビア:エンリケ・ホルダ指揮 シンフォニー・オブ・ジ・エア 1958年録音(Andres Segovia:(con)Enrique Jorda the Symphony of the Air Recorded in 1958)

[2026-09-26]

モーツァルト:モテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」{エクスルターテ・ユビラーテ), K.165(Mozart:Exsultate, Jubilate, K.165/K.158A)
(S)エリーザベト・シュヴァルツコップ:ワルター・ジュスキント指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1947年5月26日,28日録音(Elisabeth Schwarzkopf:(con)Walter Susskind Philharmonia Orchestra Recorded on May 26,28, 1947)

[2026-09-24]

マラン・マレー:組曲第4番 ニ長調(Marin Marais:Suite No. 4 In D Major)
アウグスト・ヴェンツィンガー:(Vdg)ハンネロレ・ミュラー (harpsichord)フリッツ・ノイマイヤー 1956年4月4日~5日録音(August Wenzinger:(Vdg)Hannelore Mulle (harpsichord)Fritz Neumeyer Recorded on April 4-5, 1956)

[2026-09-22]

J.S.バッハ:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068(J.S.Bach:Orchestral Suite No.3 in D major, BWV 1068)
クルト・レーデル指揮:(Fl)クルト・レーデル ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団 1962年2月録音(Kurt Redel:(Fl)Kurt Redel The Pro Arte Chamber Orchstra of Munich Recorded on February, 1962)

[2026-09-20]

ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調, Op.92(Beethoven:Symphony No.7 in A major, Op.92)
エーリッヒ・クライバー指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1950年5月録音(Erich Kleiber:Royal Concertgebouw Orchestrar Recorded on May, 1950)

[2026-09-18]

ベートーベン:交響曲第3番変ホ長調 作品55 「英雄」(Beethoven:Symphony No.3 in E flat major , Op.55 "Eroica")
エーリッヒ・クライバー指揮 ウィーン・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Erich Kleiber:Vienna Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

?>