クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 OP.74「ハープ」

バリリ四重奏団 1956録音





Beethoven:弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 OP.74「ハープ」 「第1楽章」

Beethoven:弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 OP.74「ハープ」 「第2楽章」

Beethoven:弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 OP.74「ハープ」 「第3楽章」

Beethoven:弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 OP.74「ハープ」 「第4楽章」


過渡期の2作品

 「傑作の森」を代表するラズモフスキーの3曲が書かれるとこの分野においてベートーベンは再び沈黙します。おそらくのこの時期のベートーベンというのは「出力」に次ぐ「出力」だったのでしょう。己の中にたぎる「何者」かを次々と「音楽」という形ではき出し続けた時期だったといえます。ですから、この「分野」においてはとりあえずラズモフスキーの3曲で全て吐き出し尽くしたという思いがあったのでしょう。
 しばらくの沈黙の後に作り出された2曲は、ラズモフスキーと比べればはるかにこぢんまりとしていて、音楽の流れも肩をいからせたところは後退して自然体になっています。しかし、後期の作品に共通する深い瞑想性を獲得するまでには至っていませんから、これを中期と後期の過渡期の作品と見るのが一般的となっています。

弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 OP.74「ハープ」
第1楽章の至る所であらわれるピチカートがハープの音色を連想させることからこのニックネームがつけられています。
この作品の一番の聞き所は、ラズモフスキーで行き着くところまで行き着いたテンションの高さが、一転して自然体に戻る余裕を聞き取るところにあります。ですから、ラズモフスキー第3番のぶち切れるような終結部を聞いた後にこの作品を続けて聞くと得も言われぬ「味わい」があったりします。(^^;

弦楽四重奏曲第11番 ヘ短調OP.95「セリオーソ」
第10番「ハープ」で縮小した規模は、この「セリオーソ」でさらに縮んでいきます。もうこの作品からは中期の「驀進するベートーベン」は最終楽章の終結部にわずかばかりかぎ取ることができるぐらいで、その他の部分はベートーベン自身が名付けた「セリオーソ」という名前通りにどこか「気むずかしい」表情でおおわれています。

重心の低い分厚い響きによるベートーベン


「18歳でウィーンフィルに入団、翌年にコンサートマスターに就任。1945年からはバリリ四重奏団のリーダー。1959年原因不明の右ひじ故障により四重奏団を解散した後もコンマスとしての活動を続け1966年から69年までウィーン・フィル楽団長をつとめた。」
これがまあ、ワルター・バリリの公式プロフィールとなのでしょうか。
このバリリがリーダーを務めたバリリ四重奏団によるベートーベンの弦楽四重奏曲は長らくスタンダードな位置にありました。ただし、録音をしたウェストミンスターというレーベルは戦後の荒廃のなかで意欲的な録音活動を行ったものの、経営的には必ずしも成功せず、やがては資金繰りに行き詰まるようになり、オーナーも次々と変わるという「不幸」に見舞われました。そのために、このバリリ四重奏団による録音も、疑似ステレオの上に片面に40分も詰め込むというとんでもないレコードの形で売られていたりしました。
何せひどい盤質で、聞いていると頻繁に「バリバリバリリ」と雑音が入るので、「流石はバリリ四重奏団!}などと言うくだらない自虐的なギャグが入るような代物でした。
これらの歴史的価値は高いものの、不幸な末路をたどった録音が再び日の目を見たのは、日本のMCAビクター・スタッフがニューヨークのビクターの倉庫から段ボールに詰め込まれたマスターテープを発掘してくれたおかげです。その後、これらの録音はユニバーサル傘下から安定的にきちんとした形で供給されるようになったことはよく知られた話です。

さて、前置きはそれぐらいにしてこのバリリ四重奏団によるベートーベンの弦楽四重奏曲ですが、昨今のハイテクカルテットを聞き慣れた耳からすれば明らかに「緩い」演奏であることは確かです。まず何よりも音色が現在のカルテットとは全く異なります。これは、オケにも言えることですが、この時代のヨーロッパの響きは低声部をしっかりとならした重心の低いものです。
このバリリ四重奏団もチェロを軸として低声部がかなり分厚く鳴り響いています。それは明らかに、細身の音でラインをくっきりと描き出す現在風とは全く異なります。そして、それぞれのパートが実によく歌っていることもこのカルテットの特徴です。ただし、その歌い方は同じウィーンフィルのメンバーによるコンツェルトハウスSQのような灰汁の強い歌わせ方ではなくて、あくまでも自然体の上品さを失なわないことが魅力でしょう。
ですから、こういう響きと、その様な響きに相応しいと思えるふんわりとして寛いだ上品な音楽作りをどの様に受け取るかで評価はずいぶん変わってくるかと思います。
個人的には、いささか物足りなく思えるというのが正直なところです。
この時代のものならば、かえってコンツェルトハウスSQの方が灰汁が強くて面白く思える部分があることも事実ですし、きちんと作品と向き合いたいならば、昨今のハイテクカルテット(例えばアルヴバン・ベルクSQとか)によるすぐれた録音が目白押しです。
ただし、ともすれば取っつきにくい感じのするベートーベンの弦楽四重奏曲を気楽に聴いてみたい向きにはもしかしたらピッタリかもしれません。

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