クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

シュナーベル ガリエラ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1947年録音





Beethoven:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」 「第1楽章」

Beethoven:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」 「第2,3楽章」


演奏者の即興によるカデンツァは不必要

ピアノ協奏曲というジャンルはベートーベンにとってあまりやる気の出る仕事ではなかったようです。ピアノソナタが彼の作曲家人生のすべての時期にわたって創作されているのに、協奏曲は初期から中期に至る時期に限られています。
第5番の、通称「皇帝」と呼ばれるこのピアノコンチェルトがこの分野における最後の仕事となっています。

それはコンチェルトという形式が持っている制約のためでしょうか。
これはあちこちで書いていますので、ここでもまた繰り返すのは気が引けるのですが、やはり書いておきます。(^^;

いつの時代にあっても、コンチェルトというのはソリストの名人芸披露のための道具であるという事実からは抜け出せません。つまり、ソリストがひきたつように書かれていることが大前提であり、何よりも外面的な効果が重視されます。
ベートーベンもピアニストでもあったわけですから、ウィーンで売り出していくためには自分のためにいくつかのコンチェルトを創作する必要がありました。

しかし、上で述べたような制約は、何よりも音楽の内面性を重視するベートーベンにとっては決して気の進む仕事でなかったことは容易に想像できます。
そのため、華麗な名人芸や華やかな雰囲気を保ちながらも、真面目に音楽を聴こうとする人の耳にも耐えられるような作品を書こうと試みました。(おそらく最も厳しい聞き手はベートーベン自身であったはずです。)
その意味では、晩年のモーツァルトが挑んだコンチェルトの世界を最も正当な形で継承した人物だといえます。
実際、モーツァルトからベートーベンへと引き継がれた仕事によって、協奏曲というジャンルはその夜限りのなぐさみものの音楽から、まじめに聞くに値する音楽形式へと引き上げられたのです。

ベートーベンのそうのような努力は、この第5番の協奏曲において「演奏者の即興によるカデンツァは不必要」という域にまで達します。

自分の意図した音楽の流れを演奏者の気まぐれで壊されたくないと言う思いから、第1番のコンチェルトからカデンツァはベートーベン自身の手で書かれていました。しかし、それを使うかどうかは演奏者にゆだねられていました。自らがカデンツァを書いて、それを使う、使わないは演奏者にゆだねると言っても、ほとんどはベートーベン自身が演奏するのですから問題はなかったのでしょう。
しかし、聴力の衰えから、第5番を創作したときは自らが公開の場で演奏することは不可能になっていました。
自らが演奏することが不可能となると、やはり演奏者の恣意的判断にゆだねることには躊躇があったのでしょう。

しかし、その様な決断は、コンチェルトが名人芸の披露の場であったことを考えると画期的な事だったといえます。

そして、これを最後にベートーベンは新しい協奏曲を完成させることはありませんでした。聴力が衰え、ピアニストとして活躍することが不可能となっていたベートーベンにとってこの分野の仕事は自分にとってはもはや必要のない仕事になったと言うことです。
そして、そうなるとこのジャンルは気の進む仕事ではなかったようで、その後も何人かのピアノストから依頼はあったようですが完成はさせていません。

ベートーベンにとってソナタこそがピアノに最も相応しい言葉だったようです 。

味で聞かせるピアニスト?


ナチスの台頭でアメリカに亡命してからのシュナーベルはあまり恵まれなかったようで、彼自身も、ホロヴィッツ全盛のアメリカの音楽状況を受け入れることもできなかったようです。
「海の上のピアニスト」という映画がありましたが、その中で「ピアノ競争」なるものが繰り広げられる場面があります。それを見て、「なるほどこれが当時のアメリカにおける音楽状況だったのか!」と呆れ返りました。もちろん映画なので誇張はあるのでしょうが、軽業師のような超絶的な技巧だけがもてはやされた当時のアメリカの状況をよく表したシーンだと思いました。ご存じでない方は一度はご覧あれ、結構面白い映画です。
そして、なるほどこれではシュナーベルのようなタイプのピアニスが腐ってしまうのは仕方がないだろうなと変なところで納得させられました。

誤解を恐れずに言えば、シュナーベルというのは味で聞かせるピアニストだったようです。戦前にシュナーベルはマルコム・サージェントとのコンビでベートーベンのピアノ協奏曲を全曲録音しています。実はそちらの音源を追加しようと思ったのですが、録音が1932年という事であまり芳しくないので、戦後の録音の方を追加しました。ただし、シュナーベルのスタンスは全く変わっていないようで、実に味のあるベートーベンを聴かせてくれています。
いつも同じ事ばかり繰り返していてバカみたいですが、第2楽章の歌に満ちたピアノを聞くと「これぞシュナーベル!」と聞き入ってしまいます。

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