クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:ピアノソナタ第13番 変ホ長調 作品27-1

(P)ナット 1955年9月20日録音





Beethoven:ピアノソナタ第13番 変ホ長調 作品27-1 「第1楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第13番 変ホ長調 作品27-1 「第2楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第13番 変ホ長調 作品27-1 「第3楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第13番 変ホ長調 作品27-1 「第4楽章」


おそらくはもっとも有名なピアノ曲の一つでしょうね。

幻想曲風ソナタと題したのはベートーベン自身であり、そこからはっきりと彼がこの作品にあたえようとした音楽的な方向性を見て取ることができます。
当時のベートーベンはこのピアノソナタという形式を使って様々なチャレンジを繰り返していましたが、これもまたそのようなチャレンジの一つであることは明らかです。

とりわけ作品1の方はソナタと言いながら一つもソナタ楽章を持たない作品で、どちらかと言えば即興曲のような雰囲気を持っています。またスコアを見てみると終結の縦線がないことから全曲が通して演奏されることを想定していたとも言えます。
その意味でも、この二つの作品が「二つの幻想ソナタ」ではなくて「幻想風ソナタ」となっていることも納得がいきます。

なお、あまりにも有名な月光ソナタですが、このネーミングはベートーベンが与えた物ではありません。後世ににとある詩人がこの作品の第1楽章を評して「ルツェルン湖の月光の波にゆらぐ小舟のようだ」と語ったことに由来します。

第1楽章
 アンダンテーアレグローアンダンテ 変ホ長調 2分の2拍子(アンダンテ) 8分の6拍子(アレグロ) 三部形式 
第2楽章
 アレグロ・モルト・エ・ヴィナーチェ ハ短調 4分の3拍子 スケルツォ(?)
第3楽章
 アダージョ・コン・エスプレッシオーネーアレグロ・ヴィヴァーチェ 変イ長調 4分の3拍子
前半のアダージョの部分を一つの楽章と見なす人もいます。と言うのも、その部分だけで完結した三部形式と見なすことができおるからで、まさに一遍の叙情詩とも言うべき音楽です

アンドレ・シャルランの業績


うっかりしていた。
この、ナットの全集はアンドレ・シャルランの業績でもあったのです。アンドレ・シャルランって聞いて「それって誰?」という人は、クラシック音楽マニアとしてはまだまだ修行が足りません。もちろん、ナットの全集がシャルランによって録音されたことを今頃になって気づくユング君も、残念ながら修行がまだまだ足りないようです。

アンドレ・シャルランというのはフランスを代表する伝説の録音技師で、彼が60年代におこした「シャルランレーベル」の中古LPは現在数万円からモノによっては数十万円で取引されているというおじさんです。
何故に?といえば、彼が生涯の信念としていた「ワンポイント録音」の素晴らしさと、名前に惑わされずに彼が実力で採用した演奏家の「音楽」の素晴らしさによってです。(一例を挙げれば、一部で熱烈なファンを持つハイドシェクは、シャルランが見いだしたピアニストです)
ご存知のように、理屈から言ってワンポイント録音の優位は明らかです。しかし、問題なのは、その「ワンポイント」を見いだす能力です。
どこでもいいから適当なワンポイントにマイクをおいて録音したのでは、それはただの素人芸です。広い演奏空間の中のどこかに、最適なバランスで音楽をすくい取ることのできる「ワンポイント」が存在します。シャルランは、その理想の「ワンポイント」を求めて、一切の妥協を排して録音活動に取り組んだ人物でした。ですから、EMIという大レーベルの要職を投げ捨てて自分のレーベルをおこしたのも、己の理想に殉じたからだとも言えます。
その後のメジャーレーベルは、広いホールの中をマイクとケーブルを持ってはいずり回って理想の「ワンポイント」を探し出すような「コストパフォーマンス」の悪い仕事は時代遅れだとして、マルチ録音に移行していきました。そうすれば、多少のバランスの悪さがあっても「後から」、いくらでもやり直しができるからです。しかし、その様にしてできあがった録音からは、音楽が演奏される場所の「空気感」が失われていました。言葉をかえれば、「音」はそれぞれの場所に定位して鳴っていても、そこから人間の気配を感じ取ることはできないのです。
ところが、「ワンポイント録音」という恐ろしく効率の悪い仕事に生涯をかけたシャルランの録音では、まさしく人間が演奏している気配が聞き手に伝わってきます。

しかし、その晩年は不遇なものだったようです。ハッキリ言って偏屈としか言いようのない彼の性格が災いして、レーベルの経営は思うようにいかず、国税の未納で差し押さえられた貴重なマスターテープは「ゴミ」として海に埋め立てられてしまいます。おそらくは、「ワンポイント録音」などという時代遅れのやり方で作られたテープなどは「ゴミ同然の無価値なもの」と判断されたのでしょう。中古レコードが数万円もするのですから、マスターテープが残っていればとんでもない「お宝」になっていたはずなのですが、税務署の人間というのはどこの国に行っても「文化」というものは解さないようです。

さて、そんな偏屈の天才がEMI時代に残した代表的な仕事がこのナットの全集と、リリー・クラウスのモーツァルトのピアノソナタ全集です。(ただし、クラウスは60年代にステレオでもう一度録音していますが、そちらの方はシャルランとはなんの関係もない録音ですのでご注意あれ。}
このナットの録音は左手の冴え冴えとした響きが実に印象的です。そして、「明晰」という言葉で評価されるナットの演奏のかなりの部分がシャルランの手腕によって引き立てられていることにも気づかされます。
年代の古い録音に関しては、高音域がキャンキャン泣きわめくスピッツのようにうるさく感じる場面もありますが、最後の55年に録音された一連のものは実に素晴らしいです。彼の録音はよく「楽器の中に頭をつっこんだような生々しさがあるにもかかわらず、それとは反するような香り立つような空気感が奇跡のように共存している」と評されますが、その様な彼の録音の片鱗がここからも感じ取れます。

演奏といい、録音といい、もっともっと評価されていいアルバムです。

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