モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551
ライナー指揮 シカゴ交響楽団 1954年4月26日録音
交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551 「第1楽章」
交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551 「第2楽章」
交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551 「第3楽章」
交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551 「第4楽章」
これもまた、交響曲史上の奇跡でしょうか。

モーツァルトはお金に困っていました。1778年のモーツァルトは、どうしようもないほどお金に困っていました。
1788年という年はモーツァルトにとっては「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」を完成させた年ですから、作曲家としての活動がピークにあった時期だと言えます。ところが生活はそれとは裏腹に困窮の極みにありました。
原因はコンスタンツェの病気治療のためとか、彼女の浪費のためとかいろいろ言われていますが、どうもモーツァルト自身のギャンブル狂いが一番大きな原因だったとという説も最近は有力です。
そして、この困窮の中でモーツァルトはフリーメーソンの仲間であり裕福な商人であったブーホベルクに何度も借金の手紙を書いています。
余談ですが、モーツァルトは亡くなる年までにおよそ20回ほども無心の手紙を送っていて、ブーホベルクが工面した金額は総計で1500フローリン程度になります。当時は1000フローリンで一年間を裕福に暮らせましたから結構な金額です。さらに余談になりますが、このお金はモーツァルトの死後に再婚をして裕福になった妻のコンスタンツェが全額返済をしています。コンスタンツェを悪妻といったのではあまりにも可哀想です。
そして、真偽に関しては諸説がありますが、この困窮からの一発大逆転の脱出をねらって予約演奏会を計画し、そのための作品として驚くべき短期間で3つの交響曲を書き上げたと言われています。
それが、いわゆる、後期三大交響曲と呼ばれる39番〜41番の3作品です。
完成された日付を調べると、39番が6月26日、40番が7月25日、そして41番「ジュピター」が8月10日となっています。つまり、わずか2ヶ月の間にモーツァルトは3つの交響曲を書き上げたことになります。
これをもって音楽史上の奇跡と呼ぶ人もいますが、それ以上に信じがたい事は、スタイルも異なれば性格も異なるこの3つの交響曲がそれぞれに驚くほど完成度が高いと言うことです。
39番の明るく明晰で流麗な音楽は他に変わるものはありませんし、40番の「疾走する哀しみ」も唯一無二のものです。そして最も驚くべき事は、この41番「ジュピター」の精緻さと壮大さの結合した構築物の巨大さです。
40番という傑作を完成させたあと、そのわずか2週間後にこのジュピターを完成させたなど、とても人間のなし得る業とは思えません。とりわけ最終楽章の複雑で精緻きわまるような音楽は考え出すととてつもなく時間がかかっても不思議ではありません。
モーツァルトという人はある作品に没頭していると、それとはまったく関係ない楽想が鼻歌のように溢れてきたといわれています。おそらくは、39番や40番に取り組んでいるときに41番の骨組みは鼻歌混じりに(!)完成をしていたのでしょう。
我々凡人には想像もできないようなことではありますが。
隠れた名演をパブリックドメインに加えられたことに感謝!!
昨年がモーツァルトの生誕250年だったという事は、その50年前は生誕200年だったことになります。そんなことは、小学生でも計算できることなのですが、パブリックドメインの世界ではこれがとても重要な事になります。何故かと言えば、50年前の生誕200年の時も、それを当て込んでいろいろとモーツァルト関連の録音がリリースされたのですが、それから50年が経過してそういうめぼしい録音が生誕250年をむかえて一気にパブリックドメインの仲間入りを果たすようになったからです。
おかげで、モーツァルトの交響曲に限ってみても、ラインスドルフの成し遂げた世界最初の交響曲全曲録音も一気にすべてがパブリックドメイン!!と言うわけにはいきませんが、ポツポツとその仲間入りを果たすようになってきました。(2007年現在で29番以降のすべての録音がパブリックドメインとなりました)さらに、若きヨッフムが残した興味深いモーツァルト録音も仲間入りし、ついには隠れた本命とも言うべきライナー&シカゴ交響楽団による一連の録音もそのリストに数え上げることができるようになりました。特に注目すべきは41番「ジュピター」であって、同じ時期に集中的に録音されたのにもかかわらず、これだけがステレオで録音されています。そして、その他のモノラルで録音されたものと聞き比べてみるとそのアドバンテージは非常に大きいと言わざるを得ません。当時のRCAの技術陣がすでにステレオ録音のノウハウを確立していたことは明らかなだけに、ジュピターをのぞく作品がすべてモノラルで録音されたことはかえすがえすも惜しい話だと思わざるをえません。
さて、ライナーとモーツァルトと言えば決して相性はよくないように思えます。実際、コンサートでもあまり取り上げなかったようですし、残された録音も決して多くはありません。どちらかと言えば、彼の芸風を考えれば苦手としていたのかもしれません。
しかし、このモーツァルトの生誕200年を記念してリリースされたこれら一連の録音を聴くと、正直言って「唖然」とさせられるほどの凄味に圧倒されます。ライナーが正面からモーツァルトを料理すればこうなるだろうという予想をと言うか期待にきっちりと応えてくれる内容であって、時にはその様な期待すら上回るほどの「凄味」です。
ライナーとシカゴ響が作り出す響きはヨッフム&バイエルンほどは重くはありませんが、ラインスドルフほど軽くもありません。十分に中身のつまった充実した響きでありながら、そのリズムの明晰なことには驚かされます。フィナーレにおけるたたみ込むような迫力も凄いのですが、それよりも歌い上げる部分では決して甘い情感に流されることなくクールに歌いきるところが凄いです。そして、そのクールな歌い回しの中から、モーツァルト特有の透明で静謐な悲しみが浮かび上がってきます。その意味ではセル&クリーブランドのモーツァルト演奏なんかと相似形だと思うのですが、あれよりは「熱い」ことは確かです。セルの演奏の精緻さには心ひかれるけれども「体温の低さ」が残念だ(もちろん、ユング君は感じませんが・・・^^;)と言う方にはちょうどいいかもしれません。
このような隠れた名演をパブリックドメインに加えられたことに感謝!!
よせられたコメント
2008-04-26:ますだよしお
- これは隠れた名演ですよ。
凄いスピード!一糸乱れず着いていくシカゴのオケメンたち。
録音がいいので、メカニックの優秀さが一層楽しめます。
もちろんそれだけじゃ、すぐに厭きます。どう言うのかな?
トスカニーニそっくり、は言い過ぎでしょうか?
ともかく、熱さも十分伝わってくる演奏なのです。
ついでながら、アイネクライネも良かったですね。
小生がこの演奏に触れたのは、10代の頃、世界名曲全集モーツァルトの巻でした。このシリーズにはライナーのレアものがあって、田園、ハイドンのV字(88番)など楽しんだものです。
(若杉弘・読響の軍隊・ト短調とか、大橋国一の「楽に寄す」とか今思うと貴重な音源です)
YUNG氏にリクエストですが、ライナー時代のシカゴで、上記の田園、V字のほかに、英雄の生涯、ドンファン、ブラームスの3番シンフォニーなどが入るようでしたら、ぜひアップロードしてください。
当時の主席ホルン奏者フィリップ・ファーカスの「いい音」が楽しめますよ。
2008-10-24:dive
- 快速テンポのジュピター、楽しんで聴き通せました。
いつも思うのですが、50年以上前の演奏をこんなにも良い音質で楽しめることに感動します。
モーツアルトは久しぶりでしたが、やはり楽しいですね。
2016-12-13:アニやん
- 素晴らしい演奏をリストに加えていただきありがとうございます。実にテキパキしていて、小さな美しい王国が出来上がりました。予定調和が韻律として流れる完成形、ピリオッド…‥重ねてすばらしい
2020-03-21:joshua
- たびたびリピーターになって恐縮です。12年振り、コメントします。まるで、ライナーはルスランとリュドミラを振るように終わりのフーガを演奏しています。鮮やか!!ラインスドルフほど軽くない、というのはやや異論はありますが、立派なベームよりも、繰り返して聞きたくなるは、理屈抜きの感想。そう思える演奏だから、これは私なりの名演なんですが、私などを超えた普遍性も、ここには有るようにも思えるのです。
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