シューベルト:歌曲集「冬の旅」
バリトン:ゲルハルト・ヒュッシュ 1933年録音
Schubert:「冬の旅」-おやすみ
Schubert:「冬の旅」(全曲)
Schubert:「冬の旅」-風見の旗
Schubert:「冬の旅」-凍った涙
Schubert:「冬の旅」-凍結
Schubert:「冬の旅」-菩提樹
Schubert:「冬の旅」-洪水
Schubert:「冬の旅」-流れの上で
Schubert:「冬の旅」-回想
Schubert:「冬の旅」-鬼火
Schubert:「冬の旅」-憩い
Schubert:「冬の旅」-春の夢
Schubert:「冬の旅」-孤独
Schubert:「冬の旅」-郵便馬車
Schubert:「冬の旅」-白髪
Schubert:「冬の旅」-カラス
Schubert:「冬の旅」-最後の希望
Schubert:「冬の旅」-村にて
Schubert:「冬の旅」-嵐の朝
Schubert:「冬の旅」-幻
Schubert:「冬の旅」-道しるべ
Schubert:「冬の旅」-宿屋
Schubert:「冬の旅」-勇気
Schubert:「冬の旅」-三つの太陽
Schubert:「冬の旅」-辻音楽師
現実と幻覚との彷徨
シューベルトは自らが意図したものとしては二つの歌曲集を残しています。一つが「美しき水車小屋の娘」であり、もう一つがこの「冬の旅」で、歌詞はともにミュラーによるものです。
ミュラーは1827年に33歳の若さでこの世を去りますが、シューベルトもその翌年にさらに若い31歳で夭折します。この二つの若い魂が巡り会ってこのような素晴らしい作品が残されたことを私たちは感謝しなければなりません。もちろん、詩人としてのミュラーの才能に疑問を呈する人もいますが、その作品こそがシューベルトの偉大な才能に火をつけたのだと言うことは認めざるを得ません。シューベルトは誰からも頼まれることなく、まさにミュラーの詩に触発されてこの偉大な歌曲集を作り出したのです。
しかし、4年の歳月を隔てて創作されたこの二つの歌曲集は筋立ては似通っているようでも雰囲気は随分と異なります。
今さら指摘するまでもないことですが、「美しき水車小屋の娘」と比べてみると「冬の旅」の救いがたい暗さは歴然としています。水車小屋の娘では悲哀に包まれたストーリーであってもどこかに慰めが存在していました。ところが冬の旅にはその様な慰めはどこにも存在せず救いがたい暗さが作品全体を支配しています。例えば、第5曲「菩提樹」や第11曲「春の声」にちらりと垣間見られる明るさもかえって闇の深さを浮かび上がらせるかのようです。
さらに水車小屋の娘との相違点は、「冬の旅」には明瞭な筋立てが存在しないことです。
ですから24の歌曲から成り立っていると言っても、物語は現実と幻覚の間を彷徨うように展開されていきます。そして、その彷徨の行き着く先で、一人の男の寂寞とした思いは狂気へと変容していきます。とりわけ第20曲「道しるべ」から最後の「辻音楽師」までの音楽は、誤解を恐れずに言えば「狂人の歌」となっています。
クラシック音楽の中で最も陰鬱で最も素晴らしい作品の一つであることは間違いありません。
実は結構困ったおじさんだったりします。
SP盤の時代に「冬の旅」と言えばこのヒュッシュの歌唱が定番であり、今でもこの作品のベスト盤にあげる人がいるほどです。今回改めて聞き直してみてその様な評価には大いに納得させらられるものがありました。
昨今はさすがにフィッシャーディースカウあたりが定番なのでしょうが、聞き比べてみるとフィッシャーディースカウがいかに技巧の限りを尽くして歌い上げているかがよく分かります。
そして正直に告白すると、ユング君はフィッシャーディースカウの録音でこの冬の旅を聞くのがどうにも好きになれなかったのですが、その理由も分かりました。それは、24もの歌曲をそこまで念入りに技巧の限りを尽くして歌い上げられると、途中で入力オーバーになってしまうのです。
それに反して、ヒュッシュの歌唱は実にシンプルですから、一つ一つの歌曲を聴けば多少の物足りなさは感じても、トータルとして聞けば決して物足りなさも感じなければ退屈もしません。聞いていて途中でしんどくなることもなく、音質的にはかなり苦しい面があるにもかかわらず実にすんなりと最後まで聞き通すことが出来ます。
確かに、歌曲集の中から好きな歌だけを何曲かピックアップして聞くにはフィッシャーディースカウの歌唱は最高に素晴らしいものです。その一つ一つがまるで完成された小宇宙のようです。しかし、そう言う歌唱が24曲連なればさらに素晴らしい歌になるのかというとそうな言い切れないところが不思議であり、難しいところです。
ただ、ヒュッシュという人はこういう素晴らしい歌唱を聴かせてくれたかと思うと、ナチスのための歌を高らかに歌うというちょっと困ったおじさんだったりもします。そのため戦後はほとんどドイツで活躍することが出来ず、晩年は来日して東京芸大で教鞭をとったりしていました。ですから、今もって日本では絶大な支持があるのですが、ヨーロッパではほとんど忘れ去られているようです。しかし、こういう録音を聞くと忘れ去ってしまうのはちょっともったいないような気もします。
よせられたコメント
2009-08-14:W. Amadeus M.
- 実にすばらしい「冬の旅」ですね。この演奏のCDも持っていますが、全曲を聴き終わった後に残るなんとも言えない心持は、ほかの演奏では味わえません。
また、第一曲「おやすみ」の切迫したテンポも忘れ難い印象を残します。このテンポは、SPの片面に収めるためにとられたテンポで、さらに第二節の繰り返しを省略して何とか収めたそうですが、このおかげで、1933年という時代にかかわらず、ある種の現代性を、この録音が獲得できたのでしょう。ハンス・ウド=ミュラーの伴奏も素晴らしいです。
ぜひ、これに関連して他のシューベルト歌曲(ヒュッシュは「美しき水車小屋の娘」や「魔王」「ふたご座に寄せる舟人の歌」などを、ウド=ミュラーやジェラルド・ムーアの伴奏で残しています)、シューマン、ブラームス、ヴォルフの歌曲(ヴォルフは、エレーナ・ゲルハルトのものがもうパブリックドメインになっているので?)などをUPしていただきたいなと思います。
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