ワーグナー:「タンホイザー」序曲(Wagner:Tannhauser Overture)
ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1964年12月7日録音(Eugene Ormandy:Philadelphis Orchestra Recorded on December 7, 1964)
Wagner:Tannhauser Overture
男の身勝手
オペラのストーリーというのは男の身勝手というものが前面に出ているものが多いのですが、その最たるものがワーグナーでしょう。そのワーグナーの中でも、とりわけ「酷い」なあ・・・!!と感心させられるのがタンホイザーです。
誰かが似たようなことを書いていたような気がするのですが、このお話を現代風に翻案してみればこんな風になります。
『都会に出て行って風俗のお店通いに狂ってしまった男とそんなアホ男を田舎でひたすら待ちわびる純情な娘、そしてそんな娘に密かに心を寄せる堅気の田舎青年・・・というのが基本的な人間関係です。
この男、一度は改心したかのように見えて田舎に戻ってきます。ところが、村の祭りで例の堅気の青年が「徳」だの「愛」だのとほざくのを聞いて心底うんざりしてしまって、「やっぱり町の風俗の姉ちゃんが一番だ!」なんどと叫んでしまいます。
驚いたのは村の衆であり、とりわけその純情娘の親や親戚から総スカンを食って再び村にはおれなくなってしまいます。
しかし、それでも世間知らずの純情娘はそのアホ男のことが忘れられず、必死で彼のことをとりなします。
仕方がないので、一族の連中は、「そんならハローワークに言ってまともな仕事について堅気の生活をするなら許してやる。(ローマ法王の許しを得るなら許してやる)」といいます。
男は仕方なくハローワークに通うのですが(ローマ巡礼)、基本的に考えが甘いので上手く職を得ることなど出来るはずもなく「世間の連中はどうせ俺のことなんか何も分かってくれないんだ!やっぱり俺には風俗の姉ちゃんが一番だ!!」と叫んで男は再び都会に出て行こうとします。
ところが、嫌と言うほど裏切り続けられたにもかかわらず、その純情娘はそれでもアホ男のことを忘れられず、最後は自分の命を投げ出して彼を救ってくれるのです。
さすがのアホ男もその娘の献身的な愛のおかげでようやくにして目覚め、おまけに、世間の人もその娘の心を思ってアホ男を許します。』
・・・という、男の身勝手を絵に描いたようなお話です。
あらためて指摘するまでもないことですが、このアホ男とは疑いもなくワーグナー自身のことです。
彼は己のアホさ加減と身勝手さを嫌と言うほど知っていました。
でも、そんなあほうな自分でもいつか命をかけてでも愛して救ってくれる純情な女性が現れることを本気で信じていたのもワーグナーという男でした。
音楽の楽しさと美しさにひたらせてくれる
最近の事ですが、仲間内で「名曲喫茶」のことが話題になりました。
話題を提供されたのはかなりの年配の方なのですが、大学時代を京都で過ごされた方で、学生の街と言うことで幾つか有名な「名曲喫茶」があって、京大御用達とか同志社御用達みたいな雰囲気で棲み分けていたそうです。
その方の話によると、京大御用達の店のメインはバッハやベートーベンで、同志社御用達の店ではチャイコフスキーなどが人気があったそうです。
ただし、両者には共通点があって、どちらも雑談をしながら音楽を聞くなどと言うのは御法度で、誰もが無言で姿勢を正して音楽に聴き入ることが当然の約束事だったそうです。
そして、「そうそう、あの雰囲気は今から思えば懐かしいけれど、今から思えばちょっと滑稽ですよね」などと語っていました。
レコードが貴重品で、個人で購うには二の足を踏むような時代にあっては、クラシック音楽に身近にふれる場として「名曲喫茶」は貴重な存在だったようです。
しかし、そう言う名曲喫茶では人生の苦悩を全て引き受けたような佇まいで目を瞑って聞き入る学生が多くいたようで、おそらくはそう言う土壌がこの国におけるクラシック音画の受容のあり方に少なからず影響を与えたことは間違いないようです、
つまりは、クラシック音楽というのは楽しむものではなくて人間の奥深い精神性を高めるためのものだという受容のされ方です。
もちろん、それもまたクラシック音楽が持つ美点の一つであることは否定しませんが、その呪縛から抜け出すのは容易ではなかったようです。
言うまでもなく、クラシック音楽といえどもそれは音楽なのですから、まずは聞いて楽しめるエンターテイメント性が大前提です。
修行のために音楽を聞きに行くわけではないのですから、まずは聞いて楽しいと言うことが必須条件であるはずです。
しかし、どうしても「聞いて楽しい」だけでは音楽に深みがないとか、精神性が足りないなどと言って、そう言うエンターテイメント性を前面に押し出す音楽家は一段も二段も低く評価されてきました。
おそらく、通のクラシック音楽ファンからオーマンディやカラヤンが低く見られてきた背景にはそういう事情があったことは否定出来ません。
しかし、音楽を楽しく、そして美しく聞かせるというのは意外と難しくて、高いスキルが必要だということに人は次第に気づいていきます。
手兵のオケを極限まで鍛え上げることで作りあげたベルリンやフィラデルフィアの響きはそう容易く実現できるような代物ではなかったのです。
そう思えば、私も途中で回心して(?)カラヤンはかなりまとまって紹介したのですが、オーマンディに関してはまだまだ取りこぼしが多いようです。
カラヤンは70年代以降すっかり変わってしまいましたが、オーマンディは最後まで「レガート・カラヤン」のような違和感なしに楽しめる音楽を提供してくれました。
このワーグナーなどは、オーマンディとフィラデルフィア管以外では絶対に聞けないものです。オーマンディが鍛え上げたフィラデルフィア管の凄さを堪能できます。
やはり、とりこぼしている彼の録音はもう少し丁寧に拾っていく必要があるようです。
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2026-10-25]
ヴォーン・ウィリアムス:トマス・タリスの主題による幻想曲(Vaughan Williams:Fantasia on a Theme_by Thomas Tallis)
マルコム・サージェント指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1959年録音(Sir Malcolm Sargent:The Philharmonia Orchestra Recorded on 1959)
[2026-10-23]
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 Op.30(Rachmaninov:Piano Concerto No.3 in D minor, Op.30)
(P)モーラ・リンパニー:アンソニー・コリンズ指揮、ロンドン新交響楽団(Moura Lympany:(Con)Anthony Collins New Symphony Orchestra of London Recorded on 1952)
[2026-10-21]
リリ・ブーランジェ:古い仏教の祈り(Boulanger:Vieille Priere Bouddhique)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ラムルー管弦楽団 エリーザベト・ブラッスール合唱団 (T)レイモンド・アマデ 1958年録音(Igor Markevitch:Orchestre Des Concerts Lamoureux Elisabeth Brasseur (T)Alain Fauqueur Recorded on 1958)
[2026-10-19]
エマヌエル・ポンセ:イ短調組曲(Poncw:Suite In A minor)
(Gt)アンドレス・セゴビア:1930年録音(Andres Segovia:Recorded on 1930)
[2026-10-17]
ベートーベン:ヴィンターの歌劇「妨げられた奉納式」より四重唱「子供よ、静かにお休み」の主題による7つの変奏曲 WoO 75(Beethoven:7 Variations on the Quartet Kind, willst du ruhig schlafen from Winter's Das unterbrochene Opferfest, WoO 75)
(P)アルフレッド・ブレンデル 1958年&1960年録音(Alfred Brendel:Recorded on 1958 & 1960)
[2026-10-15]
メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1番 ト短調, Op.25(Mendelssohn:Piano Concerto No.1 in G minor, Op.25)
(P)モーラ・リンパニー:ラファエル・クーベリック指揮、フィルハーモニア管弦楽団 1952年録音(Moura Lympany:(Con)Rafael Kubelik The Philharmonia Orchestra Recorded on 1952)
[2026-10-13]
ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第2集 作品72(Dvorak:Slavonic Dances Op.72)
クルト・ザンデルリング指揮 レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 1952年&1954年録音(Kurt Sanderling:Leningrad Philharmonic Orchestra Recorded on, 1952 & 1954)
[2026-10-11]
ヴィオッティ:ヴァイオリン二重奏曲 ト長調(Viotti:Duet for Violin Solo in G minor)
(Vn)ジョコンダ・デ・ヴィート:(Vn)イェフディ・メニューイン 1955年12月4日&6日録音(Gioconda de Vito:(Vn)Yehudi Menuhin Recorded on Decembr 4&6, 1955)
[2026-10-09]
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 ハ長調 「喜び」 Op. 8, No. 6, RV 180(Vivald:Violin Concerto in C Major, Op. 8, No. 6, RV 180, "Il piacere")
(Vn)フェリックス・アーヨ:イ・ムジチ合奏団 1961年9月20日~28日録音(Felix Ayo:Musici, I Recorded on September 20-28, 1961)
[2026-10-07]
J.S.バッハ:カンタータ第51番「全地よ、神を向かえて歓呼せよ」,BWV 51(J.S.Bach:Cantata: "Jauchzet Gott in Allen Landen", BWV 51)
(S)エリーザベト・シュヴァルツコップ:ペーター・ゲルホルン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1950年10月6日録音(Elisabeth Schwarzkopf:(cpn)Peter Gellhorn Philharmonia Orchestra Recorded on October 6, 1950)