クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」 ハ長調 Op.53(eethoven:Piano Sonata No.21 in C major, Op.53 "Waldstein")

(P)ハンス・リヒター=ハーザー 1956年3月録音(Hans Richter-Haaser:Recorded on March, 1956)



Beethoven:Piano Sonata No.21 in C major, Op.53 "Waldstein" [1.Allegro con brio]

Beethoven:Piano Sonata No.21 in C major, Op.53 "Waldstein" [2.Introduzione: Adagio molto (attacca)]

Beethoven:Piano Sonata No.21 in C major, Op.53 "Waldstein" [3.Rondo. Allegretto moderato - Prestissimo]


ベートーベンの中期を代表する傑作の一つです

それは18世紀的なソナタの継承者として出発し、ウィーンでの人気ピアニストとしてその殻を打ち破る模索を繰り返した時期をくぐり抜けて、いよいよ熟練を深めていった先に登場したソナタだからです。

ベートーベンはこの作品に先立って作品31の3つのソナタを書いているのですが、そこで彼ははっきりと「新しい道」を進むことを目指すと明言しています。そして、その「新しい道」を目指した最初の到達点が「テンペスト(作品31の2)」だったとすれば、この「ワルトシュタイン」はその様な営為が新しい段階に達したことを宣言したソナタだと言えます。

このソナタには、私たちがベートーベンという名前を聞いたときに連想するもの、巨大であり力強く、そして頂点に向かって驀進していく姿が刻み込まれています。さらに、付け加えれば、そう言う激しさの傍らに豊かな叙情性も息づいています。
それはもう、今までのピアノソナタにはなかったような演奏効果をが盛り込まれていて、誰かが言ったように「天空を仰ぎ見るような」音楽が立ちあらわれるのです。

そして、その営為はピアノソナタだけにとどまるわけではなく、まさにこの時期に「エロイカ」「クロイツェル」「フィデリオ」、そしてピアノソナタではもう1曲「アパショナータ」などが生み出されるのです。

なお、表題となっているワルトシュタインは、ベートーベンのパトロンの一人であったワルトシュタイン伯爵によるものです。
ワルトシュタイン伯爵はウィーン出身の貴族なのですが、ボンを訪れたときにベートーベンと知り合ってその才能を見いだした人物です。

もちろんお金持ちだったので経済的に大きな支援を与えた人物なのですが、それ以上に豊かな教養の持ち主としてベートーベンの精神的成長に大きく寄与した人物として注目に値します。
そして、ベートーベンがボンを離れてウィーンに向かうことを後押しした人物であり、「モーツァルトの精神をハイドンから受け取りなさい」と言って、ウィーンに旅立つベートーベンを励ました人です。

その意味で、まさにこの傑作を献呈されるにふさわしい人物だったといえます。


  1. 第1楽章:Allegro con brio
    8分音符のppの刻みに続いて燦めくような高音域の音型が提示されるとき、そこにはすでにただならぬ音楽が展開されることを予想されます。
    この主題が徹底的に展開されるのですが、それは段階的に上下することである種の荒々しさを、リズムの激しさを演出します。

    また、新しいピアノの登場によって可能となった音域の拡大、今までになかったピアノの響き、そして反復とクレッシェンドの活用による音楽の巨大化などがすべてこの作品に詰め込まれています。

  2. 第2楽章:Introduzione. Adagio molto Rondo. Allegretto moderato - Prestissimo
    巨大な第1楽章を受けて当初は「Adagio」楽章が予定されていたのですが、それでは作品全体が長くなりすぎると判断して、それに変わって「Introduzione(導入部)」が挿入されました。
    しかし、その導入部はただのつなぎではなく、「天使のほほえみがにわかに雲に覆われたよう」と称されるような深い感情に満ちた音楽となっています。

    この導入を受けてロンド形式の第2楽章に音楽は流れ込んでいきます。
    このロンド形式は18世紀的な枠から出るものではないようなのですが、それでもその可能性を徹底的に追求した音楽になっています。
    そして、最後のコーダでは「Prestissimo」となって、演奏至難な華やかな技巧でもって音楽は締めくくられます。



ファンタスティックな世界


こういう人の演奏を聴かされると本当に困ってしまいます。
オレがオレがと前に出てくるタイプではないので、「こう言うところがなかなかのものでしてね」という体で済ますわけにはいかないのです。
と言うか、そう言う文章を綴るための取っかかりがないのです。

だったら、それはつまらない演奏なのかと言われればそんな事はない。
かといって、「とっても立派なベートーベンなのです。終わり。」では子供の作文にもならない。
だから困ってしまうのです。


これが、彼のピアノ・ソナタを聞いたときの率直な感想でした。
例えば、合唱幻想曲のような外連味あふれる作品でもでも控えめな人だなと思ってしったものです。

残された録音の数が少ないこともあって、今となってはリヒター=ハーザーというピアニストを記憶にとどめている人は多くはないと思います。
調べてみると「チェルニーの孫弟子にあたるピアニストで、ベートーヴェン直系のドイツ・ピアノ音楽の厳粛なる伝道師」という位置づけになるらしいです。

さらに突っ込んで調べてみると、ピアニストのキャリアを積み上げようという時に戦争に巻き込まれ、防空兵として長期にわたってピアノにふれることのできない生活を強いられたようなのです。
戦争が終わったときには指は完全に錆び付いてしまっていたと本人は述懐しています。

ですから、戦後は指揮者やピアノ教師として活動を再開したようです。
しかし、ピアニストとしての活動を諦めたわけではなく、50年代にはいるとその錆び付いた指も少しずつ復活していったようです。
そして、53年に病気のソリストの代役としてバルトークのコンチェルト(2番)を演奏して復活への第一歩をつかみ取りました。

その後はベートーベンを中心としたレパートリーで評価を確立し、最初に紹介した「ベートーヴェン直系のドイツ・ピアノ音楽の厳粛なる伝道師」と呼ばれる地位を築き上げたのです。
しかし、リヒター=ハーザーのピアノはこの「ドイツ・ピアノ音楽の厳粛なる伝道師」」という言葉から連想される「ゴツゴツ」した「無骨さ」とは無縁です。
無縁であるどころか、逆に何とも言えない優雅でファンタスティックな世界が展開されます。

ただし、こういう立派さはぼんやり聞いているとなかなか気がつきにくい性質のものです。
もちろんバックハウスのようなベートーベンも立派なものですが、立派さにはいくつものバリエーションがあることを教えてくれる演奏です。

ただし、人によってはありふれた「スタンダード的な演奏」と判断する人もいるでしょう。それはそれで、決して間違った判断ではないと思います。
しかしながら、「スタンダード」だと思ってもらえるだけでも凄いことなので・・・。

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