J.S.バッハ:アリア(管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068より)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1946年4月8日録音
Bach:Orchestral Suite No.3 in D major, BWV 1068; Air
レクイエム的雰囲気はヴァイオリン一丁では難しいですね
「G線上のアリア」という方が分かりやすい作品ですが、原曲は言うまでもなく管弦楽組曲第3番の第2楽章の「アリア」です。G線上のアリアというのは、演奏会でのアンコールピースとしてヴァイオリン独奏用に編曲されたものです。
ヴァイオリン一丁で演奏されるG線上のアリアも素晴らしいですが、できれば原曲の弦楽合奏で聞いた方がはるかに聴き応えがあります。
そう言えば、古い話になるのですが、阪神・淡路大震災の直後に行われた小沢とN響によるコンサートで、哀悼の意を込めてプログラムの前にこの曲が演奏されました。あのレクイエム的雰囲気はヴァイオリン一丁ではだしにくい性質のものだと思います。
それにしても、バッハの音楽は強靱です。これほど、様々に編曲される作曲家は他にはいません。楽器編成や、時には楽器その物を別のものに取り替えたりして、逆にこのアリアのように編曲版の方が有名になっているものもたくさんあります。
そして、驚かされるのは、どんなに編曲を施されても、やはりバッハはバッハのままで存在し続けています。
この辺が、壊れやすいモーツァルトとは大きな違いです。
映画「アマデウス」で、モーツァルトがこんな事を話しています。
「音符一つなくなっただけで、音楽は損なわれ、小節一つを削られれば、すべては台無しになる」
この壊れやすさがモーツァルトの魅力でもありますが、それに反してバッハの魅力の一つは、これとは正反対の強靱さにあります。どれだけ変更を加えられても、バッハの本質は揺るぎもしません。
そう言えば、とんでもなく古い時代の話になるのですが、まだネット上で音楽を実際に聞いてもらうにはMIDIが主流だった時代がありました。
その時にふと気づいたのは、やけにバッハが多いなと言うことです。
確かに、音符の数が少ないので打ち込みが楽だと言うこともあります。しかし、それ以上に、打ち込んだだけの状態でも十分にバッハらしく聞こえると言うことも無視できないと思います。
それほどまでに、バッハは強靱な存在なのです。
とはいえ、やはり原曲の魅力に勝るものはありません。
真っ向から眉間を真っ二つにたたき割るような演奏
トスカニーニの「スケートをする人(スケーターズ・ワルツ)」を紹介したときに、「純音楽的表現」等という生易しいものではなくてそう言う上品さを突き抜ける「凄み」があると書きました。
それは「ライト・クラシック」等とよばれることのある作品であるにもかかわらず、真っ向から挑みかかるような指揮ぶりでした。あれは実にもって凄まじい「スケーターズ・ワルツ」でした。
「鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いん」という言葉がありますが、こういう演奏を聞かされると、トスカニーニと言う人は己が取り上げる以上は、その音楽を絶対に「鶏」だとは思っていなかったことがよく分かります。
そして、トスカニーニという人はそう言う「小品」を結構たくさん録音しているにもかかわらず今までほとんど取り上げてこなかったことに気づきました。
考えてみれば、収録時間が5分程度のSP盤の時代にはそう言う小品がサイズ的には最適でした。
レーベルにしても一番の売れ筋だったでしょうから、巨匠と言われる指揮者であっても積極的に取り上げていたのです。しかし、長時間収録が出来る媒体に変わっていく中で、そう言う小品はメインの大作を収録した余白の埋め草のような存在になっていってしまいました。
当然の事ながら、埋め草に全力が投入されるはずもなく、次第に通り一遍のつまらぬ演奏しか生まれなくなっていったのです。
それに対して、かつての巨匠たちは実に個性豊かにそう言う小品を演奏したものだと感心させられます。
そして、雰囲気的にはそう言う小品には一番似つかわしくないようなトスカニーニが一番個性的な表現をしているように感じられるのが面白いところです。
ウェーバーの「舞踏への招待」やスッペの「詩人と農夫、ポンキエルリの「時の踊り」」等は、優雅さよりは真っ向からその眉間を真っ二つにたたき割るような演奏です。バッハの「G線上のアリア」や羞悪羅臼の「美しく青きドナウ」も強靭なまでのカンタービレが魅力的です。
ただし、「舞踏への招待」のように、録音的には強奏部分ではいささか音が潰れてしまっているものもあるので、そのあたりはいささか残念です。しかし、それもまたトスカニーニらしい迫力のあらわれで、録音スタッフが対応しきれないような凄みのあらわれだったのかもしれません。
人よってはトンでも演奏と言われるかもしれないのですが、それもまた楽しからずやです。
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