モーツァルト:セレナード第6番 ニ長調, K.239「セレナータ・ノットゥルナ」
コリン・デイヴィス指揮:フィルハーモニア管弦楽団 1959年5月21日~22日録音
Mozart:Serenade in D major, K.239 [1.Marcia. Maestoso]
Mozart:Serenade in D major, K.239 [2.Minuetto]
Mozart:Serenade in D major, K.239 [.Rondo. Allegretto]
音楽に精通した聞き手を意識している
この作品は1776年の「謝肉祭」のために書かれたものと考えられています。
まず、気づくのはこの作品の独特な響きがティンパニーによってもたらされていると言うことです。通常はトランペットなどにバス音を添えるために用いられることが多いのですが、ここではその様な制約から解き放たれて非常に効果的に使われています。その自由な響きはティンパニー奏者にとっては実にやりがいのある作品だったことでしょう。
この作品はセレナードには珍しく3楽章というシンプルな構成になっていて、さらにはその1楽章に行進曲を持ち込むという独特な構成をもっています。
ただし、第1楽章の行進曲は野外での行進(例えば軍隊の閲兵式)のための音楽ではなく、明らかに音楽に精通した聞き手を意識したものになっています。
中間楽章のメヌエットはロンバルディア・リズムとかスコッチ・リズムと呼ばれている逆付点リズムを多用しています。そして、中間部のトリオは独奏楽器だけで演奏される静かさに満ちた音楽で見事なコントラストがつけられています。
終楽章のロンドの主題は陽気なカントリー・ダンス風です。
アインシュタインは以下のように述べています。
このような冗談めかしたロンド楽章には短調の陰りもなく、明るい合奏協奏曲の楽しみを与えてくれながら、あっという間に終る。
全体を通して短い曲の中に様々な工夫が盛り込まれ、かつ無駄な音が一つもないというモーツァルトならではの作品である
なお、この作品の「セレナータ・ノットゥルナ」というタイトルは最近の筆跡研究から他の人物が後から書き込んだものではないかと言われています。確かに、あまり「夜のセレナード」という感じはしません。
コリン・デイヴィスの「最初の一歩」を知ることができる録音
私がクラシック音楽なるものを本格的に聞き始めたのは1980年頃ですから、コリン・デイヴィスの名前は「バリバリの現役」としてインプットさています。そして、そう言う「位置づけ」の指揮者の録音もパブリックドメインの仲間入りをしてきたことに、ある種の感慨を感じずにはおれません。(考えてみれば、彼が亡くなってからすでに10年近い前月が過ぎ去ってしまいました)
さらにつけ加えれば、コリン・デイヴィスと言えば、私の中ではボストン交響楽団とのコンビで素晴らしいシベリウスの交響曲全集を完成させた人と言うことでインプットされています。
しかしながら、こういう認知の仕方は極めて個人的に偏ったものであって、一般的にはモーツァルトやベルリオーズのスペシャリストとして認められ、さらに言えばイギリスの数少ない作曲家の一人であるマイケル・ティペットの擁護者として知られています。しかしながら、私のCDの棚を眺め回してみても、恥ずかしながら彼のベルリオーズやティペットの録音はほとんど見あたりません。それと比べて、シベリウスに関してはロンドン響との全集も並んでいるのですから、どうにもこうにも、私の中でのデイヴィスはシベリウス指揮者と言うことになってしまっているようです。
つまりは、どう考えても、私はコリン・デイヴィスのよい聞き手ではないと言うことです。
しかしながら、今回、彼の若い時期の録音、とりわけ彼が最も得意としたモーツァルトの録音を聞いてみて、その基本的な音の作り方はシベリウスと大きく変わらないなと言うことは確認できました。
デイヴィスが作り出す音楽の最大の特徴は、その音色がシルクの手触りを思わせるようなトーンを持っていることです。特に、70年代の後半に、ボストン交響楽団とのコンビで完成させた全集の響きは素晴らしくて、未だにそのLPレコードを後生大事に保存しているほどです。
コリン・デイヴィスと言えば、貧しい家庭に育ったためにピアノを買うことができず、そのために最も値段の安かったクラリネットで音楽の学習を開始したという話は有名です。そして、ピアノの演奏能力に問題があったために音楽大学では指揮法の履修を断られたという話も、これまた知る人ぞ知る有名なエピソードです。
しかしながら、そう言う境遇にもめげずに、自分たちの仲間内でオケを作って指揮活動を始め、そして、ついにはクレンペラーが病気でキャンセルしたとき(1959年)に、その代役として「ドン・ジョヴァンニ」を指揮して大成功を収めと言う話も、これまた有名です。
今回紹介した一連の録音(1959年~1960年)は、その成功によって急遽計画されたものではないかと思われます。録音は全てモーツァルトの作品なのですが、それは「ドン・ジョヴァンニ」(コンサート形式)の成功によって注目されたことを考えれば、商業的にはそうならざるを得なかったのでしょう。
しかし、「シンフォニア・オブ・ロンドン」というスタジオ録音を専門とするオケであっても、弦楽器の歌わせ方のうまさは充分に感じ取ることができます。もちろん、後年のボストン響のようなふくよかさと透明感が絶妙にマッチしたシルキーな響きとはいきませんが、それでも充分すぎるほどの透明感のある美しさは実現しています。
また、デイヴィスと言えば、手堅く正統派の音楽作りをするというイメージがあるのですが、これなどを聞くと、意外とあざとい表現なども垣間見られて面白いです。
80を超えても元気に活躍していたコリン・デイヴィスの「最初の一歩」を知ることができるという意味でも、なかなかに興味深い録音だと言えるのではないでしょうか。
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