クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ショパン:ノクターン Op.55

(P)アダム・ハラシェヴィチ:1961年録音





Chopin:Nocturne No.15 in F minor, Op.55, No.1

Chopin:Nocturne No.16 in E Flat major, Op.55, No.2


劇的息吹と情熱と、そして壮大さ

ノクターンはロマン派の時代に盛んに作られたピアノ小品の一ジャンルです。
ロマン派の時代になると、厳格な規則に縛られるのではなく、人間の感情を自由に表現するような小品がたくさん作られ、当初はバガテルとか即興曲などと呼ばれていました。
その様ないわゆる「性格的小品」の中から「ノクターン」と称して独自の性格を持った作品を生みだしたのがイギリスのジョン・フィールドです。

フィールドはピアニストであり作曲家でもあった人物ですが、低声部の伴奏にのって高音部が夜の静寂を思わせるような優雅なメロディを歌う作品を20曲前後作り出しました。そして、このフィールドが作り出した音楽形式はショパンに強い影響を与え、彼もまた「ノクターン」と称する作品をその生涯に21曲も作り出しました。
初期の作品は「ショパンはフィールドから直接は借用はしていないが、その旋律や伴奏法をまねている」と批評されたりしていますが、時代を追うにつれて、フィールドの作品にはない劇的な性格や情熱が付け加えられて、より多様な性格を持った作品群に変貌していきます。
そして、、今日では創始者のフィールドの作品はほとんど忘れ去られ、ノクターンと言えばショパンの専売特許のようになっています。

後年、ショパン研究家として著名なハネカーは次のように述べています。
「ショパンはフィールドの創案になる形式をいっそう高め、それに劇的息吹と情熱と、そして壮大さを加えた。」
まさにその通りです。

ショパン:ノクターン Op.55


ショパンのノクターンの中ではあまり重視されない作品です。しかし、第1番は相対的に演奏が容易なのでピアノを弾く人には好まれて演奏されることが多いようです。1曲でもショパンが弾ければ嬉しいですからね。

  1. 第1番は極めて陰鬱な雰囲気に包まれた作品で、「悲しみが次第に失望の叫びにまで高められる」と評した人がいました。
    しかし、最後の最後に転調を繰り返してかすかな希望を感じさせて曲は閉じられます。

  2. 第2番もまた少し変わった雰囲気で、ノクターンと言うよりは即興曲のような音楽になっています。
    そのために、形式的には極めて自由で、その時々の感情に添った即興的な演奏が繰り広げられるという作品です。



ショパンの心の襞に寄りそった演奏


アダム・ハラシェヴィチは第5回ショパン国際ピアノコンクール(1955年)で優勝をしています。しかし、その優勝は彼の経歴において必ずしもプラスにはならなかったようです。
何故ならば、その時に2位になったのがアシュケナージであり、その結果は彼がポーランド人であり、さらにはコンクールの審査委員長の弟子であった事が影響したのではないかと疑惑が囁かれたからでした。さらに、その結果を承認できないとしてミケランジェリが審査員を降板するという騒ぎにまで発展して、ハラシェヴィチの優勝に影を投げかけることになってしまいました。

出所は不明なのですが、アシュケナージは3次予選の時に第2協奏曲で90小節以降を間違って繰り返すというミスをおかしたのです。それ故に2位になったのもやむを得なかったとも語られるのですが、テクニックと言うことだけで考えれば明らかにアシュケナージの方が勝っている事は明らかだったようです。
しかし、こうして彼のショパンをじっくりと聞いてみると、音楽はテクニックだけではないと言うことをあらためて感じさせられます。
おそらくその事はハラシェヴィチ自身も感じていたのでしょう、後に彼は自らの優勝に疑念を呈したミケランジェリの下で学んでいます。

また、ネット上で見つけた情報なのですが、野村光一氏が1968年の「新音楽」という「労音」の雑誌にこのコンクールのことについて書かれているそうです。この年に、「労音」がハラシェヴィチとアシュケナージを招いてコンサートを行なったからです。
1968年と言えば第5回コンクールから随分と時間がたっているのですが、両者を同時に招いてのコンサートと言うことになれば、その事にふれずにはおかなかったのでしょう。
しかしながら、野村氏はその時のコンクールの演奏を実際に聞いてるわけではないので、その第5回コンクールに出場した田中希代子氏にあれこれ質問するというスタイルだったようです。

野村氏自身のコメントは1968年にNHKが放送した第5回コンクールの録音をもとに感想を述べているようです。
ただし、NHKの放送も彼らの演奏のごく一部(アシュケナージのはショパンの「三度のエチュード」、ハラシェビッチはマズルカとノクターン)だけだったので、極めて限られた情報の中での感想だと述べています。

その中で野村氏は「わたしの印象ではどうも第2位になったアシュケナージの方が音もテクニックもばりばりしていて、ピアニストとしては優れていたように思われた。」と述べています。
そして、野村氏は田中さんに「アシュケナージが一番みたいな気がしますね」と尋ねたところ、彼女は即座に、「いやそうとはいい切れないのですよ。」とこたえたそうです。
田中氏は「もちろんアシュケナージの方がテクニック的に冴えていますが、やはりショパンともなれば、ハラシェビッチのほうが音楽的なつぼにはまった弾き方をします。だから、あの人が1位になるのは当然だったのでしょう」と明確に言い切っているのです。

おそらく、この話だけを聞けば「ふーん、そんなもんですかね」と言う感じなのですが、このように彼が1961年に録音したノクターンを聞かされてみれば、「いやはや、全く持って仰るとおりかもしれません」と納得せざるを得ません。
確かに、アシュケナージのテクニックは見事なもので、彼が残した何枚ものショパンの録音を聞いてみれば、演奏するだけでも難しい部分であっても、美しく、明晰に、そして早く演奏しきるテクニックには感嘆するしか有りません。

しかし、ショパンの音楽がそれだけではどこか不満が残るのも事実です。
そのテクニックの鮮やかさに「すげーぇ!」と感嘆しても、それがショパンの心の襞にはどこか届かない部分があると感じる人がいても否定は出来ません。
それに対して、「民族の血」などと言う安易な言葉は使いたくはありませんが、確かにハラシェヴィチには「音楽的なつぼにはまった弾き方」だと強く感じます。

それを技術的な問題としてとらえれば、リズムやテンポの微妙な揺らしかた、強弱のニュアンスの繊細さ等と言えるのでしょうが、おそらくはそう言うテクニックではどうしようもない共感がそこに潜んでいるのでしょう。
もちろん、バリバリと、そしてパリッと弾ききるショパンも魅力ですが、こういう心の襞に分け入るようなショパンもまた十分に魅力的だと言えます。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2026-10-15]

メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1番 ト短調, Op.25(Mendelssohn:Piano Concerto No.1 in G minor, Op.25)
(P)モーラ・リンパニー:ラファエル・クーベリック指揮、フィルハーモニア管弦楽団 1952年録音(Moura Lympany:(Con)Rafael Kubelik The Philharmonia Orchestra Recorded on 1952)

[2026-10-13]

ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第2集 作品72(Dvorak:Slavonic Dances Op.72)
クルト・ザンデルリング指揮 レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 1952年&1954年録音(Kurt Sanderling:Leningrad Philharmonic Orchestra Recorded on, 1952 & 1954)

[2026-10-11]

ヴィオッティ:ヴァイオリン二重奏曲 ト長調(Viotti:Duet for Violin Solo in G minor)
(Vn)ジョコンダ・デ・ヴィート:(Vn)イェフディ・メニューイン 1955年12月4日&6日録音(Gioconda de Vito:(Vn)Yehudi Menuhin Recorded on Decembr 4&6, 1955)

[2026-10-09]

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 ハ長調 「喜び」 Op. 8, No. 6, RV 180(Vivald:Violin Concerto in C Major, Op. 8, No. 6, RV 180, "Il piacere")
(Vn)フェリックス・アーヨ:イ・ムジチ合奏団 1961年9月20日~28日録音(Felix Ayo:Musici, I Recorded on September 20-28, 1961)

[2026-10-07]

J.S.バッハ:カンタータ第51番「全地よ、神を向かえて歓呼せよ」,BWV 51(J.S.Bach:Cantata: "Jauchzet Gott in Allen Landen", BWV 51)
(S)エリーザベト・シュヴァルツコップ:ペーター・ゲルホルン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1950年10月6日録音(Elisabeth Schwarzkopf:(cpn)Peter Gellhorn Philharmonia Orchestra Recorded on October 6, 1950)

[2026-10-05]

J.S.バッハ:管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV1069(J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069)
クルト・レーデル指揮:ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団 1962年2月録音(Kurt Redel:The Pro Arte Chamber Orchstra of Munich Recorded on February, 1962)

[2026-10-02]

ルイス・デ・ミラン:「エル・マエストロ」からのファンタジア、舞曲、そしてロマンセ(Luys Milan:Fantasias, Dances And Romances From El Maestro)
(Lute)ヴァルター・ゲルヴィッヒ:(T)ベルンハルト・ミヒャエリス 1956年11月30日~12月1日録音(Walter Gerwig:(T)Bernhard Michaelis Recorded on Novembar 30~December 1, 1956)

[2026-09-30]

ヴィヴァルデ:オーボエ協奏曲 ハ長調, Rv.447(Vivaldi:Oboe Concerto in C major, RV.447)
レナート・ファッサーノ指揮:(Ob)レナート・ザンフィーニ ローマ合奏団 1958年発行(Renato Fasano:(Ob)Renato Zanfini Virtuosi Di Roma Published in 1958)

[2026-09-28]

マヌエル・ポンセ:南の協奏曲(Manuel Ponce:Concierto del Sur)
(Gt)アンドレス・セゴビア:エンリケ・ホルダ指揮 シンフォニー・オブ・ジ・エア 1958年録音(Andres Segovia:(con)Enrique Jorda the Symphony of the Air Recorded in 1958)

[2026-09-26]

モーツァルト:モテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」{エクスルターテ・ユビラーテ), K.165(Mozart:Exsultate, Jubilate, K.165/K.158A)
(S)エリーザベト・シュヴァルツコップ:ワルター・ジュスキント指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1947年5月26日,28日録音(Elisabeth Schwarzkopf:(con)Walter Susskind Philharmonia Orchestra Recorded on May 26,28, 1947)

?>