チャイコフスキー:白鳥の湖, Op.20 (抜粋)
カレル・アンチェル指揮:ウィーン交響楽団 1959年2月録音
Tchaikovsky:Swan Lake, Op.20(Excerpts) [1.Scene]
Tchaikovsky:Swan Lake, Op.20(Excerpts) [2.Valse]
Tchaikovsky:Swan Lake, Op.20(Excerpts) [3.Danses des cygnes]
Tchaikovsky:Swan Lake, Op.20(Excerpts) [4.Pas daction]
Tchaikovsky:Swan Lake, Op.20(Excerpts) [5.Danse Hongroise(Czardas)]
初演の大失敗から復活した作品
現在ではバレエの代名詞のようになっているこの作品は、初演の時にはとんでもない大失敗で、その後チャイコフスキーがこのジャンルの作品に取りかかるのに大きな躊躇いを感じさせるほどのトラウマを与えました。
今となっては、その原因に凡庸な指揮者と振り付け師、さらには全盛期を過ぎたプリマ、貧弱きわまる舞台装置などにその原因が求められていますが、作曲者は自らの才能の無さに原因を帰して完全に落ち込んでしまったのです。
今から見れば「なぜに?」と思うのですが、当時のバレエというものはそういうものだったらしいのです。
とにかく大切なのはプリマであり、そのプリマに振り付ける振り付け師が一番偉くて、音楽は「伴奏」の域を出るものではなかったのです。ですから、伴奏音楽の作曲家風情が失敗の原因を踊り手や振り付け師に押しつけるなどと言うことは想像もできなかったのでしょう。
初演の大失敗の後にも、プリマや振り付け師を変更して何度か公演されたようなのですが、結果は芳しくなくて、さらには舞台装置も破損したことがきっかけになって完全にお蔵入りとなってしまいました。
ところが、作曲者の死によって作品の封印が解かれた事によってそんな状況が一変したのは皮肉としかいいようがありません。
「白鳥の湖」を再発見したのは、「眠れる森の美女」や「くるみ割り人形」の振り付けを行ったプティパでした。(くるみ割り人形では稽古に入る直前に倒れてしまいましたが)
おそらく彼は、「眠れる森の美女」や「くるみ割り人形」ですばらしい音楽を書いたチャイコフスキーなのだから、その第1作とも言うべき「白鳥の湖」も悪かろうはずがないと確信していたのでしょう。しかし、作曲自身が思い出したくもない作品だっただけに生前は話題にすることも憚られたのではないでしょうか。
ですから、プティパはチャイコフスキーが亡くなると、すぐにモスクワからほこりにまみれた総譜を取り寄せて子細に検討を始めます。そして、当然のことながら、その素晴らしさを確信したプティパはチャイコフスキーの追悼公演でこの作品を取り上げることを決心します。
追悼公演では台本を一部変更したり、曲順の変更や一部削除も行った上で第2幕のみが上演されました。結果は大好評で、さらに全幕をとおしての公演も熱狂的な喝采でむかえられて、ついに20年近い年月を経て「白鳥の湖」が復活することとなりました。
この後のことは言うまでもありません。
この作品は19世紀のロシア・バレエを代表する大傑作と言うにとどまらず、バレエ芸術というもののあり方根底から覆すような作品になった・・・らしいのです。(バレエにはクライのであまり知ったかぶりはやめておきます。)
ただ、踊りのみが主役で、音楽はその踊りに対する伴奏にしかすぎなかった従来のバレエのあり方を変えたことだけは間違いありません。
<お話のあらすじ>
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
序奏
オデットが花畑で花を摘んでいると悪魔ロッドバルトが現れ白鳥に変えてしまう。
第1幕 :王宮の前庭
今日はジークフリート王子の21歳の誕生日。お城の前庭には王子の友人が集まり祝福の踊りを踊っている。そこへ王子の母が現われ、明日の王宮の舞踏会で花嫁を選ぶように言われる。まだ結婚したくない王子は物思いにふけり友人達と共に白鳥が住む湖へ狩りに向かう。
第2幕 :静かな湖のほとり
白鳥たちが泳いでいるところへ月の光が出ると、たちまち娘たちの姿に変わっていった。その中でひときわ美しいオデット姫に王子は惹きつけられる。彼女は夜だけ人間の姿に戻ることができ、この呪いを解くただ一つの方法は、まだ誰も愛したことのない男性に愛を誓ってもらうこと。それを知った王子は明日の舞踏会に来るようオデットに言う。
第3幕 :王宮の舞踏会
世界各国の踊りが繰り広げられているところへ、悪魔の娘オディールが現われる。王子は彼女を花嫁として選ぶが、それは悪魔が魔法を使ってオデットのように似せていた者であり、その様子を見ていたオデットの仲間の白鳥は、王子の偽りをオデットに伝えるため湖へ走り去る。悪魔に騙されたことに気づいた王子は嘆き、急いでオデットのもとへ向かう。
第4幕 :もとの湖のほとり
破られた愛の誓いを嘆くオデットに王子は許しを請う。そこへ現われた悪魔に王子はかなわぬまでもと跳びかかった。激しい戦いの末、王子は悪魔を討ち破るが、白鳥たちの呪いは解けない。絶望した王子とオデットは湖に身を投げて来世で結ばれる。
『ウィキペディア(Wikipedia)』よりの引用終わり
私などは問題を感じないのですが、どうも世の女性達にはこの「エンディング」がいたって評判が悪いようです。
実は、妻と「白鳥の湖」を見に行ったときに、彼女はこのエンディングをはじめて知って「激怒」されました。「男というのはいつもこんな身勝手な奴ばかりだ!」とその怒りはなかなか静まりませんでした。
私などはこれで身勝手だと言われれば、ワーグナーの楽劇などを見た日にはライフルでも撃ち込みたくなるのではないかと懸念してしまいます。
ただし、ポピュラリティが全く違いますし、「白鳥の湖」の公演ともなれば女性が圧倒的に多いのです。
と言うことで、劇場側もこのストーリーは営業上まずいと思ったのでしょう。エンディングで悪魔の呪いがとけて二人は結ばれて永遠の愛を誓ってハッピーエンドで終わる演出もメッセレル版(1937年)以降よく用いられるようになっているそうです。
この変更は物語の基本構造に関わることなので、そんなに安易に変更していいものかと思うのですが、女性達の怒りにはさからえないと言うことなのでしょう。(当然のことながら、原典版のエンディングが許せないと怒っている男性には未だ私は出会ったことがありません。)
純粋器楽の音楽として再構築してみれば
手兵のチェコフィルではないのが少しばかり残念ですが、アンチェルにとっては馴染みの深いウィーン交響楽団ですし、オケの能力としてはこちらの方が上のような気がしますからまあ文句のないところでしょう。
そして、アンチェルがこういうチャイコフスキーの作品を演奏すれば「甘く」なることは想像も出来ないのですが、その想像はほぼ100%的中しています。
「白鳥の湖」ではやや遅めかなと思えるテンポで始まって、リズムもややエッジを立て気味にして、バレエ音楽の伴奏と言うことは一切忘れて純粋器楽の作品として再構築していることがはっきりと分かります。しかしながら、オーボエやヴァイオリン、チェロのソロなどはさすがはウィーン交響楽団のメンバーと感心させられるほどの美しさで、それがアンチェルが築き上げようとする引き締まった世界観の中に見事にはまりこんでいます。
バレエの伴奏音楽から遠ざかる方法はいろいろあるのでしょうが、これはオーマンディ&フィラデルフィア管とは全く異なった方向性によるチャレンジだと言えます。
ただし、最後の「終曲」を省いているのがいささか(かなり^^;)残念です。
- 情景〔第2幕〕
- ワルツ〔第1幕〕
- 四羽の白鳥の踊り〔第2幕〕
- 王子とオデットのグラン・アダージョ〔第2幕〕
- ハンガリーの踊り(チャールダーシュ)〔第3幕〕
しかしながら、これが「くるみ割り人形」になると、3曲の中ではもっとも音楽的に充実しているために、それほど無理をしなくてもよいという結果になっています。
アンチェルは第1幕の導入部の後に第2幕でのお菓子の精たちの踊りを続けて、最後はお約束通りに(^^;、「花のワルツ」で締めくくっています。このお菓子の精たちの踊りは実によくできていて、それぞれで十分単独の小品として成り立つだけのクオリティを持っていますから、アンチェルもまたそれらをあるがままに演奏しています。
もちろん、それはそれで立派な音楽になっているのですが、これに関してはオーマンディのような遊び心があった方が好ましく思えます。ただし、アンチェルに「遊び心」というのは少しばかり無理でしょうから、出来ればもっと締め上げてくれれば面白かったのにと言う若干の不満は残ります。贅沢な話でアンチェルには申し訳ないのですが。
- 小序曲
- 行進曲
- 金平糖の精の踊り
- ロシアの踊り(トレパック)
- アラビアの踊り
- 中国の踊り
- 葦笛の踊り
- 花のワルツ
それから、これも仕方のないことなのですが、花のワルツの後に「パ・ド・ドゥ」が来ないのはいつも残念に思います。
しかしながら、「眠れる森の美女」ではアンチェルの狙いが見事にツボにはまっています。もう、冒頭の導入部から凄まじい迫力でオーケストラは鳴りきっています。これが、実際のバレエ公演ならばオーケストラが踊りを圧倒してしまうので何とも不都合なのですが、音だけの録音ならば何の不都合もありません。
また、その響きを聞いているとウィーンにある唯一の常設のコンサート・オーケストラであるというウィーン交響楽団の矜恃のようなものも感じ取れます。
確かに、この長大なバレエを踊りなしの録音でき聞き通すというのは些かしんどい話です。
それに対して、このアンチェルの演奏はハイライト版と言うよりは、多楽章からな管弦楽曲として再構築してるように聞こえます。ある意味ではアンチェルの狙いが一番はっきりと分かるのがこの「眠れる森の美女」かもしれません。
- 序奏とリラの精
- アダージョ: パ・ダクシオン
- パ・ド・カラクテール:長靴をはいた猫と白い猫
- パノラマ
- ワルツ
よせられたコメント
2021-04-20:コタロー
- モントゥーの名盤を差し置いて、アンチェルの珍品(?)を出してくるあたり、いかにもユング様らしいですね。この演奏、第1幕のワルツなど、あまりのハイ・スピードに驚かされます。バレリーナがこのテンポで踊ったら、恐らく目を回してしまいますね。曲目的にもこの5曲では「白鳥の湖」を堪能できません。そんな欲求不満を感じたアルバムでした。
2021-04-20:ヴィターリ・DE・グッターリ
- ウイキペディアの記事は信憑性を疑った方がいいでしょう。多方面にわたってよくこんな事までご存知だなあといつも舌を巻くユングさんらしくないと感じました。多感な中高学生の頃教育テレビで見た全幕ではロットバルトとの戦いのシーンでも負けたという印象は残っておらず、二人を乗せた小船が愛の勝利を高らかに告げる音楽でエンディングを迎えると記憶しています。確かにハッピーエンドな改訂版がその後主流を占めるようになったようですね。黒鳥に騙された直後仲間の白鳥がご注進というのも笑ちゃうウイキペディア投稿ですね。オデット本人がそこに現れないとあのドラマティックな音楽の意味がなくなってしまいます。因みにその頃バレリーナ自身が一番踊り易いのはアンセルメの棒だと言っているのを聞きました。ハイライト盤のLPレコードを持っていたのでユングさんがアップしてくれているのを懐かしく聴かせてもらっています。いつもありがとうございます。時節柄、武漢肺炎ウイルスにはご注意ください。
2021-04-21:shun
- かなり残念ですに、同感
こういうのは、抜粋版と謳ってほしくありません
あの終曲の高揚感をもとめて、聞き進めるのが私のスタイルなのですが。。
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