ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番
(P)マリア・ユーディナ ザンデルリング指揮 レニングラードフィル 1948年録音
Beethoven:ピアノ協奏曲第4番「第1楽章」
Beethoven:ピアノ協奏曲第4番「第2楽章」
Beethoven:ピアノ協奏曲第4番「第3楽章」
新しい世界への開拓
1805年に第3番の協奏曲を完成させたベートーベンは、このパセティックな作品とは全く異なる明るくて幸福感に満ちた新しい第4番の協奏曲を書き始めます。そして、翌年の7月に一応の完成を見たものの多少の手なしが必要だったようで、最終的にはその年の暮れ頃に完成しただろうと言われています。
この作品はピアノソナタの作曲家と交響曲の作曲家が融合した作品だと言われ、特にこの時期のベートーベンのを特徴づける新しい世界への開拓精神があふれた作品だと言われてきました。
それは、第1楽章の冒頭においてピアノが第1主題を奏して音楽が始まるとか、第2楽章がフェルマータで終了してそのまま第3楽章に切れ目なく流れていくとか、そう言う形式的な面だけではなりません。もちろんそれも重要な要因ですが、それよりも重要なことは作品全体に漂う即興性と幻想的な性格にこそベートーベンの新しいチャレンジがあります。
その意味で、この作品に呼応するのが交響曲の第4番でしょう。
壮大で構築的な「エロイカ」を書いたベートーベンが次にチャレンジした第4番はガラリとその性格を変えて、何よりもファンタジックなものを交響曲という形式に持ち込もうとしました。それと同じ方向性がこの協奏曲の中にも流れています。
パセティックでアパショナータなベートーベンは姿を潜め、ロマンティックでファンタジックなベートーベンが姿をあらわしているのです。
とりわけ、第2楽章で聞くことの出来る「歌」の素晴らしさは、その様なベートーベンの新生面をはっきりと示しています。
「復讐の女神たちをやわらげるオルフェウス」とリストは語りましたし、ショパンのプレリュードにまでこの楽章の影響が及んでいることを指摘する人もいます。
そして、これを持ってベートーベンのピアノ協奏曲の最高傑作とする人もいます。ユング君も個人的には第5番の協奏曲よりもこちらの方を高く評価しています。(そんなことはどうでもいい!と言われそうですが・・・)
マリア・ユーディナ
今や飛ぶ鳥を落とす勢いのロシア・ピアニズムの中では少し異端に属するのがこのマリア・ユーディナでしょうか?それは、彼女自身が自分のことをピアニストだと思っていたかどうかと言う問題があるからです。
世間は彼女のことを「鉄の女」と呼びます。それは、とても女性とは思えないような重厚で豪快なピアノ演奏を聞かせるからでもありますが、それ以上に彼女の生き方からくるネーミングでもあります。
生涯を未婚で通し、ロシア正教の信仰におのが生涯を捧げ、信じがたいような禁欲的生活をおくったその生き方は、音楽家、ピアニストという範疇よりは、思想家、哲学者という範疇でとらえた方が彼女の本質を言い当てているように思えます。そして、その思想家としてのありようを表す言葉として「鉄の女」というネーミングが的を射ているように思えるからです。
ですから、彼女の演奏を実際に聞いてみると、「鉄の女」という言葉とは裏腹に、例えばこの録音ならば第2楽章のような静けさが支配するような音楽に、「甘さ」というものをいっさい拒絶したところに成立するハッとするような「繊細さ」と「美しさ」に驚かされます。それは、甘いだけのアダージョが氾濫する今の風潮におぼれてしまいがちな軟弱な私たちに対するユーディナからの叱咤なのかもしれません。
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