クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

リスト:パガニーニによる大練習曲 (1851年版) S.141

(P)ニキタ・マガロフ:1961年録音





Liszt:Grandes etudes de Paganini, S.141 [1.Preludio. Andante - Etude. Non troppo lento based on Caprice No.6 in G major]

Liszt:Grandes etudes de Paganini, S.141 [2.Andante based on Caprice No.17 in E-flat major]

Liszt:Grandes etudes de Paganini, S.141 [3.La Campanella. Allegretto based on Violin Concerto No.2, Op.7, by Paganini]

Liszt:Grandes etudes de Paganini, S.141 [4.Vivo based on Caprice No.1 in E major]

Liszt:Grandes etudes de Paganini, S.141 [5.Allegretto based on Caprice No.9 in E major]

Liszt:Grandes etudes de Paganini, S.141 [6.Quasi presto based on Caprice No.24 in A minor]


リストの超絶技巧を代表する作品


リストと言えば超絶技巧であり、超絶技巧と言えばリストです。まさに、高度な演奏技巧を要するピアノの難曲の代表です。
しかしながら、その超絶技巧の代表はいわゆる「超絶技巧練習曲」ではなくて、「パガニーニによる大練習曲」の1838年版の方でしょう。よく知られている話ですが、その作品は作曲者であるリスト以外には演奏不可能と言われ、あのホロヴィッツでさえ「演奏不可能」と断定したのです。

よく知られているように、この「Transcendante」というのは一般的に「超絶」と翻訳されますが、正確には宗教的な意味合いを含んだ用語で肉体や精神を超越するというニュアンスを表現した言葉だそうです。
つまりは、「逝っちゃう??!」という雰囲気です。

それで、何が逝っちゃうのかと言えば、それは「聞けば分かる!」と言うことになります。
実際、リストの演奏を聴いてあまりの凄さに悶絶して気絶する観客がいた話は有名ですが、驚くなかれ、リスト自身も演奏中に悶絶することがあったという話も伝わっています。(ただし、その「失神」は事前に仕込まれた演出だっという説もあります。)

つまり、リストと言えば、とかく技術偏重で饒舌にすぎると言われるのですが、その本質は意外と「逝っちゃう」ところにあるのです。
ただし、その「逝っちゃう」のは神の啓示や深い瞑想によってではなく、念仏踊りのような狂気の果てに「逝っちゃう」のです。

シューマンは「恋する心は恋について語らない」と言ってリストを批判をしましたが、上品なロマンティストであったシューマンには、そんなリストの本質は全く理解不能だったのでしょう。
それでも、彼は「恋する心」を鉦と太鼓で「好きだ、惚れた!好きだ、惚れた!」と念仏踊りで表現することに己のアイデンティティを見いだしたのです。そうやって目立たなければ、ハンガリーの片田舎から出てきたピアニストなどに誰も注目などしてくれなかったのです。

よく、リストは晩年になって作品に深みと宗教性を増していくと言われます。リストの腕を持ってすれば、聞き手をほろりとさせるような音楽を書くことは朝飯前だったのかもしれません。
実際、リストはとんでもない技巧を必要とする1831年版の「パガニーニによる大練習曲」を、1851年に編曲し直しています。

もちろん、この1851版も大変な技巧を必要とはするのですが、ホロヴィッツをして演奏不可能と言わしめた1838年版と較べればテクニックはかなり簡潔なものに書き換えられています。そして、何よりも注目すべきは簡潔なテクニックでもって音楽的な表現は洗練されているのです。つまりは、1838年版はピアノのテクニックの全てをつぎ込んだ「練習曲」だったのが、1851年版ではロマン派らしいピアノ小品に変身させているのです。
そして、そのロマン派小品と化した1851年版からはギラギラとした若き時代の野心は後退し、この後に続く「慰め(コンソレーション)」や「詩的で宗教的な調べ」の時代へと向かっていくリストの姿を垣間見ることができるのです。

なお、この2つのヴァージョンを区別するために1838年版のほうを「パガニーニによる超絶技巧練習曲」、1851年版のほうを「パガニーニによる大練習曲」と呼び分けるのが一般的です。
しかし、その区別がかなりいい加減で、「パガニーニによる超絶技巧練習曲」とクレジットされていても、その中身の大部分は「パガニーニによる大練習曲」であることが多いようです。

だって、あれがまともに弾ける人って今でもほとんどいないのです。(^^;
ご注意あれ(^^v

パガニーニによる超絶技巧練習曲 (1838年版) S.140

  1. S.140/1 第1番 ト短調 Andante - Non troppo Lento 原曲:第5・6番

  2. S.140/2 第2番 変ホ長調 Andante - Andantino, capricciosamente 原曲:第17番

  3. S.140/3 第3番 変イ短調 Allegro moderato - Tempo giusto 原曲:『ヴァイオリン協奏曲第2番』第3楽章、『ヴァイオリン協奏曲第1番』第3楽章

  4. S.140/4a 第4番 ホ長調 Andante quasi Allegretto 原曲:第1番

  5. S.140/5 第5番 ホ長調 Allegretto 原曲:第9番

  6. S.140/6 第6番 イ短調 Quasi Presto (a Capriccio) 原曲:第24番



ただし、こちらにはいくつかの別稿が存在します。


  1. S.140/1a (S.140/1の別稿(ossia)。ロベルト・シューマンの『パガニーニのカプリスによる練習曲』Op.10 第2曲の再編曲)

  2. S.140/4b 第4番 同上(S.140/4aの第2稿)

  3. S.140/5a (S.140/5の別稿(ossia))



パガニーニによる大練習曲 (1851年版) S.141


  1. S.141/1 第1番 ト短調 Andante-Non troppo Lento(トレモロ)

  2. S.141/2 第2番 変ホ長調 Andante-Andante capriccioso(オクターブ)

  3. S.141/3 第3番 嬰ト短調 Allegretto 「ラ・カンパネッラ」 ※初版ではヴァイオリン協奏曲から2曲を基にしていたがこちらは第2番のみに基づく。

  4. S.141/4 第4番 ホ長調 Allegretto (アルペジオ)

  5. S.141/5 第5番 ホ長調 Vivo 「狩り」

  6. S.141/6 第6番 イ短調 Quasi Presto a Capriccio 「主題と変奏」



ピアノを叩くのではなく音をすくい上げる


ニキタ・マガロフに関しては随分昔にショパンのマズルカ集をアップしてから、全くふれていませんでした。それは、おそらくそのマズルカ集ゆえにか、私の中で勝手に「ショパン弾き」というイメージが勝手に出来上がってしまったからかもしれません。さらに言い訳を許してもらえるならば、マガロフと言えば世界で最初にショパンのピアノ曲全曲を録音したという「金看板」が常についてまわっていました。(^^:
そして、いわゆる「ショパン弾き」と言われるようなピアニストはたくさんいて、そして、優れた録音も数多くあるものですから、マガロフにまでは手が回らなかったと言うことなのです。

ところが、ふとしたことで、彼が1961年に録音したシューマンとリストの作品をカップリングしたアルバムを聴く機会があって、すっかり感心してしまいました。
そして、このマガロフというピアニストを「ショパン弾き」などと言う狭い範囲でしかとらえていなかった己の不明を恥じたのです。

おそらく、これは「通好み」の演奏であることは間違いありません。

何故ならば、リストの「パガニーニによる大練習曲」と言えば、何よりもピアニストとしての技巧を最大限に発揮し、聞き手はその技巧に拍手大喝采を送るというのが普通のスタイルです。ところが、このマガロフの演奏からはその様な外連味は全く感じられません。
もちろん、マガロフの技巧に問題があるのではありません。彼は、最晩年に至るまでほとんど「衰え」というものを感じさせない人でしたが、それでも「技巧」を前面に出す演奏とは最後まで無縁でした。

彼が、ここで実現しようとしているリストは大向こうを唸らせるための音楽ではなくて、その奥に秘められている瑞々しい叙情のようなものを引き出すことでした。
そう言えば、彼は常に「ピアノを叩くのではなく音をすくい上げる」と語っていました。つまりは技巧によって客を唸らせるのではなくて、その音楽に秘められている深い感情を救い出すことこそが重要だと言いたかったのでしょう。

そこで、思い出すのが、彼はすぐれたピアニストとして評価されながらも、若いころは作曲家を目指していたことです。そして、そう言う作曲家志望から演奏家へと転身する切っ掛けとなったのがヴァイオリニストのシゲティの伴奏ピアニストをつとめたことでした。マガロフはシゲティから多くのものを学び取り、それがピアニストとしてかとどうしていく原点となったを語っています。

一般的に、作曲家でもあった演奏者というのは、恣意的な解釈は言うに及ばず主情的な解釈に基づく演奏にも否定的な態度を取るものです。それは、マルケヴィッチの指揮などを聞けばその典型を知ることが出来るでしょう。
そして、シゲティとのパートナー関係の中で、マガロフはその様な演奏スタイルの可能性に気づいたのだと思います。

おそらく、これよりも派手に技巧をひけらかしたリスト演奏はいくらでも存在します。
しかし、ここまで折り目正しく作品に内在する深い感情を引き出した演奏は他に思い当たりません。そう言う意味ではリスト演奏における唯一無二の録音と言っても言い過ぎではないと思います。

そして、最後に付け足しみたいになって申し訳ないのですが、そんなマガロフがシューマンの作品を演奏して悪かろうはずがありません。
「謝肉祭」はエルネスティーネ・フォン・フリッケンへの恋愛感情から生まれたものと言われていますが、それだけにとどまらず「仮面舞踏会」という仕掛けの中でシューマンらしい何処か屈折したロマン的感情に彩られています。

そう言う複雑な感情をマガロフは見事に表現しているのですが、それはリストのような唯一無二の存在ではないこともまた事実です。そこまでマガロフを持ち上げると贔屓の引き倒しになるでしょう。
とは言え、数ある「謝肉祭」の録音の中では忘れたくない一枚であることは事実です。

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