チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23
(P)シューラ・チェルカスキー レオポルト・ルートヴィヒ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1951年録音
Tchaikovsky:Concerto For Piano And Orchestra No.1 B Flat Minor. Op. 23 [1.Allegro Non Troppo E Molto Maestoso / Allegro Con Spirito]
Tchaikovsky:Concerto For Piano And Orchestra No.1 B Flat Minor. Op. 23 [2.Andantino Simplice-Prestissimo]
Tchaikovsky:Concerto For Piano And Orchestra No.1 B Flat Minor. Op. 23 [3.Allegro Con Fuoco]
ピアノ協奏曲の代名詞
ピアノ協奏曲の代名詞とも言える作品です。
おそらく、クラシック音楽などには全く興味のない人でもこの冒頭のメロディは知っているでしょう。普通の人が「ピアノ協奏曲」と聞いてイメージするのは、おそらくはこのチャイコフスキーかグリーグ、そしてベートーベンの皇帝あたりでしょうか。
それほどの有名曲でありながら、その生い立ちはよく知られているように不幸なものでした。
1874年、チャイコフスキーが自信を持って書き上げたこの作品をモスクワ音楽院初代校長であり、偉大なピアニストでもあったニコライ・ルービンシュタインに捧げようとしました。
ところがルービンシュタインは、「まったく無価値で、訂正不可能なほど拙劣な作品」と評価されてしまいます。深く尊敬していた先輩からの言葉だっただけに、この出来事はチャイコフスキーの心を深く傷つけました。
ヴァイオリン協奏曲と言い、このピアノ協奏曲と言い、実に不幸な作品です。
しかし、彼はこの作品をドイツの名指揮者ハンス・フォン・ビューローに捧げることを決心します。ビューローもこの曲を高く評価し、1875年10月にボストンで初演を行い大成功をおさめます。
この大成功の模様は電報ですぐさまチャイコフキーに伝えられ、それをきっかけとしてロシアでも急速に普及していきました。
第1楽章冒頭の長大な序奏部分が有名ですが、ロシア的叙情に溢れた第2楽章、激しい力感に溢れたロンド形式の第3楽章と聴き所満載の作品です。
「美しきポエム」のような世界
こんなところにこんな演奏が隠れていたのかと驚かされました。
チャイコフスキーやラフマニノフのコンチェルトと言えば、独奏ピアノに対してオーケストラが覆い被さってきます。ですから、ピアニストにすればその覆い被さってくるオーケストラに対抗するパワーとテクニックが求められます。そして、それ故に己の凄腕を披露するにはもってこいの作品となるのであって、聞き手にしてみてもその切った張ったのやり取りに興味もわくのです。
そして、チェルカースキーと言えば私の中では、そう言う外連味を思いっきり前面に押し出してくるタイプのピアニストだと言う印象が強いので、はてさてどういう世界を繰り広げてくれるのかと興味津々で聞き始めたのです。
ところが、最初の音が出た瞬間に感じたのは「遅い!!」でした。
ホロヴィッツがアメリカデビューでこの作品を取り上げた時に「常識的なテンポ」を維持し続ける指揮者に従っていては成功を望めないと判断して、最終楽章でオーケストラを置いてきぼりにするようなテンポで弾ききって大喝采を浴びたのは有名なエピソードです。アルゲリッチとコンドラシンの競演盤も有名ですが、そこでも最終楽章では切った張ったのやり取りが展開されていました。
ところが、ここでは「常識なテンポ」どころかそれよりもはるかに遅いテンポでオーケストラの前奏が始まり、チェルカースキーのピアノもそれに寄り添うようにこの上もなく繊細な響きでもって応えているのです。
とは言え、チェルカースキーのことだから、その内あっと驚くような技が来る出されるのだろうと期待(^^;していたのですが、結局は最後までその遅いテンポを維持したままで終わってしまうのです。
チェルカースキーのピアノも、伴奏を務めるベルリンフィルも、決して力任せになる場面は全くなく、最初から最後までこの上もなく繊細な響きを失うことはないのです。
これは、考えてみれば凄いことです。
オケがピアノに対して「お付き合い」する程度の低カロリーで演奏するのはよく聞かされる「悲しい体験」です。そして、それとは真逆にオケがピアノを圧倒するように爆演を繰り広げるのは凄いことのように見えて、現実的にはそれほど難しい話ではありません。基本的にスコアそのものがその様になっているのですから、それなりに真面目に演奏すればそう言う音楽が出来上がるようになっています。
しかし、ここで聞くことのできるチャイコフスキーはまさに「美しきポエム」のような世界なのです。
それはピアノだけでも実現不可能ですし、オケだけでも実現不可能です。
こういう「ポエムの世界」を実現するためにはソリストと指揮者、そしてオーケストラのプレーヤーとの間で「こういうチャイコフスキーの世界を作ろう!」という認識が虚有されていなければ絶対に実現できない世界です。
なるほど、このチェルカースキーというおっさんは、いつもいつも一筋縄ではいかないピアニストです。
よせられたコメント 2021-04-14:吉田源三 迫力に任せて弾く為に、同じモチーフが繰り返される時に、一回目と二回目を区別しなかったりする演奏。
技術を見せようとばかり頑張る演奏。
そんな演奏が、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番の名演奏だと、クラシック音楽の愛好者は思っていますね。
ユング様の仰る通りですよ。
チェルカスキーはプロ中のプロですから、技術は間違いなく、楽譜通り弾く事も出来れば、即興演奏も出来れば、記憶の曖昧な処を誤魔化して弾いて、著名な評論家の誰も気が付かない・・・。
そんな事も出来る人ですよ。
ホロヴィッツやアルゲリッチとはいかなくても、技術を前に出して、オケと遣り合う演奏だって、リハーサルで決めれば出来るし、演奏旅行で空港から降りて来て会場へサンドイッチを少し食べて、リハなしでいきなり本番だって出来るんです。
最初の方のカデンツ、少しミスタッチがありますが、1951年と言う録音方式を考えれば、編集簡単には出来無いのですよね。
それやこれやも全部、楽しみに変えてくれるピアニストだと思います。
小柄で、お尻を振り振り、舞台に出て来て見事な演奏をしていた、最晩年の姿を思い出します。
お金にも苦労せず、技術的にもドキドキせず、批評家の毒舌も煙に巻き、観客から常に拍手を貰って、本人も快く人生を送ったのでしょう。
人生は、ドキドキもしなきゃ面白くないから、新しいアイヴスやシュトックハウゼンも、目の玉が飛び出るほど難しいアレンジも、最初は何の曲か分からなくて途中から「蒼きドナウ」だと分かるなんて、お客を馬鹿にして喜んでいました。
時々ベートーベンの有名なベートーベンのソナタをまともに弾いて見せたり、これも外連ですよ、彼が弾く場合は。
チェルカスキーが中心か指揮者かオケか?
誰の思い付きか分かりません?
ベルリンフィルって、フルトベングラー時代ですから、あんな轟音も出せれば、フィラデルフィア・オーマンディーみたいな響も出せる連中なんですね。
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