Wilhelm Kempff Bach Recital(1953)
(P)ヴィルヘルム・ケンプ 1953年3月録音
Bach:Chromatic Fantasia and Fugue in D Minor, BWV 903
Bach:Nun Komm, Der Heiden Heiland, BWV 659
Bach:Jesu bleibet meine Freude, BWV 147
Bach:Befiehl du deine Wege, BWV 727
Bach:In dulci jubilo, BWV 729
Bach:Nun freut euch, liebe Christen g'mein, BWV 734a
Bach:Siciliano from Flute Sonata in E Major, BWV 1031
Bach:Wachet Auf, Ruft Uns Die Stimme, BWV 140
収録作品
J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV.903
J.S.バッハ:いざ来たれ、異教徒の救い主よ BWV.659
J.S.バッハ:主よ人の望みの喜びを BWV.147
J.S.バッハ:わが心の切なる願い BWV.727
J.S.バッハ:甘き喜びのうちに BWV.729
J.S.バッハ:今ぞ喜べ、愛するキリストのともがらよ BWV.734
J.S.バッハ:シチリアーノ BWV.1031
J.S.バッハ:目覚めよと我れらに呼ばわる物見らの声 BWV.140
深い罪の意識を持った男がピアノを依り代として神と向き合っている
これは何と評していいのか困ってしまうような演奏であり、録音です。
ケンプによるバッハの小品集と言えば晩年の1975年に録音されたものが有名で、それは厳粛と言うよりは自然で幻想的な味わいに溢れた演奏でした。
それと比べると、この53年に録音された演奏はひたすら「ビター」です。音楽は気持ちよく流れていくわけでもなく、ふわりとした幻想性もないのです。
それはひたすらに無愛想であり、そのあまりにも素っ気ない音楽は聞き手というものを全く斟酌していないかのように聞こえます。
ですから、多くの聞き手はこのような演奏と録音を好まないでしょう。私もまた、これを始めて聞いたときは冴えない演奏と録音だと思いました。
ピアノはひたすら弱音域でボソボソと呟いているだけで、一欠片の華やぎもないのです。
ところが、その何の愛想もない演奏を聞き進んでいくうちに、次第に不思議な感情にとらわれるようになってくるのです。
ケンプは明らかに聞き手のことを意識していないように聞こえます。
考えてみれば、音楽というものは何よりも神に捧げられるものであって、人間に関わることは常に二の次でした。そして、バッハという人はそう言う音楽の建前を大切にしながらも、そこに人間に関わる問題を潜ませていったことに偉大さの根幹がありました。
ところが、ケンプはバッハが潜ませた人間に関わる問題は捨象して、ひたすら神と関わる部分だけと対峙しているように聞こえるのです。
ですから、弱音域でボソボソと語られていくピアノの響きは密やかな信仰告白であるかのように聞こえ、時には先の大戦で犯さざるを得なかった罪の告白と懺悔であるかのようにも聞こえてくるのです。
ここにはそよ風で鳴るエオリアンハープのように、心の赴くままにピアノを演奏するケンプの姿はありません。ケンプはひたすら思念し、ある種の痛ましさを感じるレベルにまで己を追い込んでいるように聞こえます。
そして、潤いにかけたモノラル録音が、ピアノという楽器が身にまとってしまわざるをえないある種の官能性をはぎ取ってしまっています。そのために、その痛ましさの救いとなるべきぬくもりをほとんど見いだすことは出来ないのです。
おそらく、ここにあるのは、深い罪の意識を持った男がピアノを依り代として神と向き合っている姿なのでしょう。
ならば、聞き手もまたこのケンプを依り代として己の罪と向き合うだけなのかもしれません。
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